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回避出来た令嬢は?  作者: 明月 えま
第3章・南国リレイラ編
34/63

ルークの秘密

ザワザワと嫌な気持ちがする。

鳥肌が立つ。何だろうこの感じ。目を醒ますといつもの天井ではない。微妙な揺れ。


ああ。そうだ。私は船に乗っている。

リオン?


ベッドには私1人だ。

とても嫌な気配がする。強い不安感。何なのだろう。


ふと見ると、前方の窓から見る景色が動いていない。停泊している?こんな夜中に?

起き上がって周囲を見渡せば、船のテラスの窓の外に人影が見える。


そっと寄ってカーテンの隙間から外を見る。リオンだ。

少し、ほっとする。夜半に窓の外にいるのが知らない人だったら怖すぎる。

何かを、見ている?


窓を開けるとカラリと音がする。

「起きてしまいましたか。」

私を見て静かに言う。

「部屋の中で待っていてください。」

そう言いながら、また、外を見るリオン。


何があるのか?


「とても嫌な感じがするの。大丈夫ですの?」

「ええ。問題ありません。」


リオンに振り向いてもらえない。

何だろう。なぜか怖い。


そう思ったら、リオンが私を見て言った。

「ここにいてもいいですが。あまり気分がいいものではありませんよ。」

1人でいるより、リオンといる方が安心できる。差し出された手を取って船のバルコニーに出た。


バルコニーに出ると、船が別の船に横付けされているのが見えた。

「あれは?」

「奴隷船です。」

静かに言われた言葉にゾッとする。


「奴隷船?」

尋ねていると、抱き寄せられる。

「ええ。たまたま見つけましてね。もうすぐホバルを抜けようとしていた所だったのですが。そのままにしておくわけにもいかないでしょう。ついさっき、船を横付けして、鎮圧を開始したところです。」


船の下方にある船を見ると、数人の男達が戦闘している。

1人はルークスタッド。

暗い中、ルークの白い服が映える。


圧勝に見えたその時、船の入り口から、一人の男が小さな子供を抱いて出てきた。よく見えないが、人質か。子供なのに。盾にするのか?

「何てことを・・・。」


絶句する私だが、リオンは何も言わない。

何か話しているのか、船上のルークスタッドの動きが止まる。


ビシリと歪な空気の振動。


「許可を!!」

大声で叫ばれたルークスタッドの言葉。

「許す。」

静かにリオンが言うと同時に、強く抱き寄せられる。

「しばらく目を閉じていなさい。」


そう言われても、頭をリオンの胸に押し当てられて、目の前にはリオンの腕があって、何も見えないのだけれど。

静かに目を閉じる。

リオンの心臓の鼓動が聞こえる。まだ、斬撃音は止まない。


ドボン、ドボンという水音。

風と共にかすかに鼻につく鉄の匂い。いや。これは血の匂いだ。


1分もかかっていないだろう。とても長く感じたが、あっという間だ。


リオンの力が弱まる。目を開けると、カツンと、真横で音がする。

「お願いします。」

バルコニーに立つルークスタッドが、床に静かに子供を降ろす。

目隠しをされ、手足に枷を付けられた子供。

駆け寄りたかったが、リオンに抑えられる。

「まだです。待ちなさい。」

「でも。」

リオンは奴隷船を見ている。


奴隷船上で、新たに船倉から出てきた?男がルークスタッドに切りかかるのが見えた。

危ないと、怖いと思うのに、目が離せない。


ルークスタッドの手から伸びた何重もの糸がきらりと輝いて、軽やかに振り下ろされる。

その瞬間、リオンの手が視界を覆う。


「貴女は見なくてよろしい。」

風に乗って広がる濃厚な血の匂い。


ドボンという水音。

「殲滅しろ。鍵を探せ。」

リオンの静かな言葉。


「タリス。来い。」

「いるよ。」


船の上から声がする。

「すぐにルークが鍵を持ってくるだろう。そうしたら、解放の術を。」

「ああ。わかってる。」


解放の術?

「奴隷には、逃げられないように隷属の術がかけられています。その子供は魔力持ちだから、特に何重にも術が重ね掛けされている。だから、子供なのに枷が多いんですよ。不用意に触れると、触れた者に痛みを与えるだけでなく、子供が弱ります。」

「・・・わかりました。勝手に動こうとして、申し訳ありません。」


「いいえ。普通は知らないものです。私も、ルークに会うまで知りませんでしたから。」

「ルークスタッド?」

なぜ、彼の名が?


「ええ。彼も同じでしたから。」

「そうそう。術を完全に解くまでが、大変だったよねぇ。暴れて暴れて。」


「彼も、奴隷として売られようとしていたと?」

「ああ。」

「大人しくなったよねえ。誰にもなつかない狂犬みたいだったのに。奴らも運が悪いなあ。ルークの前で奴隷売買なんて、殺してくださいと首を差し出しているのと変わらないじゃないか。」

くすくす笑うタリス。


「ひどいなあ、タリス様。」

フワッと目前に現れるルークスタッド。直前まで戦闘をしていたというのに、その白い服には血の染みが1滴も無い。

目の前で起こっている事なのに、現実感が無い。

「事実じゃないか。」

「そうだけど。じゃあ。お願いします。」

そう肯定して、鈍く赤銅色に光る鍵がタリスに渡される。


鍵を持ったタリスが子供の横に座り込む。

何か呪を唱えながら鍵が枷の鍵穴に順に差し込まれる。


ピシリ、ピシリと軋む音がして、すべての鍵穴に差し込まれた時、パリンと音がして、枷が砂に代わるように砕け散った。


皆が子供を見守る中、タリスが子供を抱えながら言う。

「終わった。成功している。」

よかった。そう聞いて少しほっとする。


「船内、あと15人すべて成人です。どういたしましょう。」

ルークスタッドの問い。

「ラナスに頼むしかないな。」

リオンとラナスが話し、奴隷船にはハイアード家の者1名と護衛1名を残し、魔術船はまた動き出した。


南方に近づいているため、夜でも風は生暖かい。

子供は、目を醒まさない。魔術持ちなので、下手に開放するとすぐに売られる可能性が高いとのことで、そのまま連れていく事になった。


容体が安定するまで、タリスが面倒を見ると。


促されて室内に戻る。

横になるように言われて、ベッドに入るが、目が冴えてしまって、眠れない。

リオンが横に来てくれて、抱きしめてくれる。

「ありがとう。リオン。」

リオンの心音が心地よい。

「怖がらせたな。すまない。」

「いいえ。貴方がいたもの。1人で待つ方が余程怖かったわ。」

ぎゅっとしがみつく。


「そうか…ルークも同じように秘密裏に奴隷商に売られていたのを、メイオス前宰相が情報を聞き取って地方まで探しに行ったんだ。直属の魔術師を沢山連れて行くと、王都の宰相不在がばれるからね。学生だった私達に声がかかった。」

「学生なのに?」

「ああ。メイオス宰相とは子供の頃から会っていたからな。私に声が掛けやすかったんだろう。私達が学生だった頃、貴族間での対立が強まっていて、内政が安定していなかったんだ。ルークは本当はある貴族家の嫡男だ。だから、わざわざ宰相が出た。しかし、嫡男とは名ばかりで、後妻に冷遇され、後妻によって奴隷商に売られていた。」


「そんな・・・。」

「ルークは教育も受けられず、売られる前も、その内包する魔力を抑えるように地下室に繋がれていたらしい。

あれの属性は光だが、他人を癒す事はない。攻撃する光だ。敵とみなすと、触れるものを光で焼き切る。糸のように、上手に光を()るだろう。あの光の糸は、何年も何本もの魔術紐で身体拘束されていた名残だ。

繋がれた時間が長いぶん、紐状にイメージした方が上手に操る。

本当は一気に枷を外すこともできたのだが、あまりに感情のコントロールが出来ずに、何度も魔力を暴走させるのに、何故か私には攻撃しなかったから、枷はそのままにして私が預かることになった。家にも帰せなかったしな。」


「ルークの家族は?」

「生きているよ。すでに正式な戸籍では病死として処理されている。王子の学友として表に出した時に、父親は自分の息子だと気がついたのだろうな。蒼白になっていたぞ。」


「本人は納得しているの?」

「家族などと思っていないのだろう。国内法で奴隷制は禁止されているが、後妻は上手にやったみたいで、証拠を集めることができなかった。」


「ひどい話だわ。」

「ああ。だが、この世界ではわりとある話だ。」


「そうかもしれない。でも、嫌なものは嫌だわ。」

「そうだな。奴隷も、低民制も無くなってしまえばいい。貴族もそうだ。つまらない身分差など不要だ。」

そう話すリオンの声は穏やかで。

撫でられている間に、また眠りについていた。

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黎明 ルークスタッドの後日談、連載中 不器用令嬢、騎士になる カイウスの恋愛話、主に嫁視点を書いてます。  こちらもよかったら読んで下さい。
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