夢見
『ねえ。お兄様。リレイラに1日だけ行かせてくださいませ。』
サラリと流れる銀糸の髪。その女性の顔は薄いベールで被われていて、ほとんど見ることはできない。
『リレイラか。また、力を使ったのか?』
兄と呼ばれた男性は、濃い青の髪を長く伸ばし、裾の長い服を着ている。西大陸の衣装だ。
『ええ。私自身に関わる事ですの。』
男性がため息をつく。
『これ以上、不用意に力を使わないようにと言ったはずだが。お前に関わることとなれば、仕方ないのか。』
『ありがとうございます。お兄様。』
その口元がふわりと笑ったのが見える。
『まだ、許可したわけではないのだが。』
『ええ。でも、送ってくださるのでしょう。』
『困った妹だ。』
また、小さくため息をつく。
『大丈夫ですわ。私、どうしても逢っておきたい方がいますの。』
『会いたい人?』
『ええ。』
人に会うと聞いて、眉を顰める。
『兄としては、どこのどいつだと聞きたい所だが。』
『うふふ。もう、私、とっくに行き遅れておりますのよ。そんなに目くじらを立てなくても。』
『そんな風だから、余計心配になるのだろうが。』
くすくすと笑いながら女性が言う。
『東の守護に会いに行くのですわ。』
『何だと?』
一気に表情が厳しくなる。
『表に出てきたのか?』
『いいえ。表に近い所まではお出になるようです。ですから。これがたった1回きりの機会であるのは間違いないのです。』
『会えなかったら?』
『私の未来見では、東大陸は緩やかに衰退に向かうでしょう。』
『はぁ。全く。東のクランチャードはもうちょっとしっかりしてほしかったな。』
『上の世代の負債を負っていらっしゃるのです。彼には何の咎もございませんわ。』
『・・・男なのか。』
『はい。』
『1人で男性に会いに行くと?』
『お兄様。お顔が怖いですわ。』
『・・・。』
考えこむ男性に、ゆっくりと近づき、その手を取る女性。
『行かせてくださいませ。私の為にも。お会い出来なければ、私はあと、片手も生きられない。』
『何だと!?』
血相を変える兄の手を握り、落ち着いて話す女性。
『無様ですわ。ずっと前から解っておりましたのに、怖くてたまらないのですわ。ただ一つ。東の守護にお逢いできた場合にのみ、私が生き続ける道が開けるのです。』
『・・・何て事だ。聞いていないぞ。本当なのか?』
『ええお兄様。私、本当は初めから諦めておりました。でも、私、少しあがいてみたくなりましたの。お会いできたとしても、私が生きる事ができるかどうかは、東の守護の出方にかかっているのです。自分自身の事に関してだけは、未来は常に断片的で。何をどう動けば。何を話せば良いのかわからないのです。』
『お前が生き残れる条件は?』
『どのような形であるのかわかりませんが。東の守護の元で生きる事だと思います。』
『それは・・・。』
『私はわかっている事は全部お話しましたわ。私は1人では動けませんもの。これ以上の判断は、家長であるお兄様にお任せ致しますわ。このまま、ここに居るようにとの事でしたら、そのように。』
大きくため息をついて、天井を見る男性。
『リレイラに送ろう。私は、お前の幸せを願っているよ。』
そう言って、ベールの上から、優しく頭を撫でる。
『それでも、上手くいくかはわからないのですわ。』
握りしめられる女性の手。
『あがくと決めたのなら、最後まであがくんだ。』
『そうですわね。気弱になっていましたわ。ありがとうございます。・・・ねえお兄様。この目が光を失う前に、陽の光の中で、東の守護者様を見ておきたいと思いましたのよ。』
『・・・そうか。』
『お兄様。私の我儘を聞いてくださってありがとうございます。』
『ああ。』
『同伴は甥のレトと、世話係のルーシ、護衛のマークスでお願いしますわ。』
『いつ行く?』
『明後日。』
『わかった。手配しよう。』
そう言うと、男性は静かに部屋を出て行った。
『もう、諦めていたはずなのに。本当に往生際が悪いわ。でも、後悔だけはしないように。・・・その顔を。声を。力を。確かめに行くのよ。』
彼女の声は誰にも聞かれる事なく、時に流されていく。




