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回避出来た令嬢は?  作者: 明月 えま
第3章・南国リレイラ編
32/63

夢見

『ねえ。お兄様。リレイラに1日だけ行かせてくださいませ。』

サラリと流れる銀糸の髪。その女性の顔は薄いベールで被われていて、ほとんど見ることはできない。


『リレイラか。また、力を使ったのか?』

兄と呼ばれた男性は、濃い青の髪を長く伸ばし、裾の長い服を着ている。西大陸の衣装だ。


『ええ。私自身に関わる事ですの。』

男性がため息をつく。

『これ以上、不用意に力を使わないようにと言ったはずだが。お前に関わることとなれば、仕方ないのか。』

『ありがとうございます。お兄様。』

その口元がふわりと笑ったのが見える。


『まだ、許可したわけではないのだが。』

『ええ。でも、送ってくださるのでしょう。』


『困った妹だ。』

また、小さくため息をつく。

『大丈夫ですわ。私、どうしても逢っておきたい方がいますの。』


『会いたい人?』

『ええ。』

人に会うと聞いて、眉を顰める。


『兄としては、どこのどいつだと聞きたい所だが。』

『うふふ。もう、私、とっくに行き遅れておりますのよ。そんなに目くじらを立てなくても。』


『そんな風だから、余計心配になるのだろうが。』

くすくすと笑いながら女性が言う。

『東の守護に会いに行くのですわ。』


『何だと?』

一気に表情が厳しくなる。

『表に出てきたのか?』


『いいえ。表に近い所まではお出になるようです。ですから。これがたった1回きりの機会であるのは間違いないのです。』

『会えなかったら?』


『私の未来見では、東大陸は緩やかに衰退に向かうでしょう。』

『はぁ。全く。東のクランチャードはもうちょっとしっかりしてほしかったな。』


『上の世代の負債を負っていらっしゃるのです。彼には何の咎もございませんわ。』

『・・・男なのか。』


『はい。』

『1人で男性に会いに行くと?』


『お兄様。お顔が怖いですわ。』

『・・・。』

考えこむ男性に、ゆっくりと近づき、その手を取る女性。


『行かせてくださいませ。私の為にも。お会い出来なければ、私はあと、片手も生きられない。』

『何だと!?』

血相を変える兄の手を握り、落ち着いて話す女性。


『無様ですわ。ずっと前から解っておりましたのに、怖くてたまらないのですわ。ただ一つ。東の守護にお逢いできた場合にのみ、私が生き続ける道が開けるのです。』

『・・・何て事だ。聞いていないぞ。本当なのか?』


『ええお兄様。私、本当は初めから諦めておりました。でも、私、少しあがいてみたくなりましたの。お会いできたとしても、私が生きる事ができるかどうかは、東の守護の出方にかかっているのです。自分自身の事に関してだけは、未来は常に断片的で。何をどう動けば。何を話せば良いのかわからないのです。』


『お前が生き残れる条件は?』

『どのような形であるのかわかりませんが。東の守護の元で生きる事だと思います。』


『それは・・・。』

『私はわかっている事は全部お話しましたわ。私は1人では動けませんもの。これ以上の判断は、家長であるお兄様にお任せ致しますわ。このまま、ここに居るようにとの事でしたら、そのように。』


大きくため息をついて、天井を見る男性。

『リレイラに送ろう。私は、お前の幸せを願っているよ。』

そう言って、ベールの上から、優しく頭を撫でる。

『それでも、上手くいくかはわからないのですわ。』

握りしめられる女性の手。


『あがくと決めたのなら、最後まであがくんだ。』

『そうですわね。気弱になっていましたわ。ありがとうございます。・・・ねえお兄様。この目が光を失う前に、陽の光の中で、東の守護者様を見ておきたいと思いましたのよ。』


『・・・そうか。』

『お兄様。私の我儘を聞いてくださってありがとうございます。』


『ああ。』

『同伴は甥のレトと、世話係のルーシ、護衛のマークスでお願いしますわ。』


『いつ行く?』

『明後日。』


『わかった。手配しよう。』

そう言うと、男性は静かに部屋を出て行った。


『もう、諦めていたはずなのに。本当に往生際が悪いわ。でも、後悔だけはしないように。・・・その顔を。声を。力を。確かめに行くのよ。』

彼女の声は誰にも聞かれる事なく、時に流されていく。

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黎明 ルークスタッドの後日談、連載中 不器用令嬢、騎士になる カイウスの恋愛話、主に嫁視点を書いてます。  こちらもよかったら読んで下さい。
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