こんなに甘やかされてていいものか。
思ったより甘くならなかったです。
リオンは相変わらず、甘い。
どうして、こんなに甘やかされているのかわからない。
夕方、目が覚めたらすでにカイウス副騎士団長も、タリスさんも帰っていて、結局、挨拶も交わさないままだ。
「君を魔力酔いで苦しめないように睡眠の魔法を使ったタリスを褒めてはやるが、よくよく考えると、君の寝顔を見るなど、万死に値するな。」
そう無表情につぶやくリオン。
そう言われてみると、寝顔を見られるなんて、恥ずかしすぎじゃないですか?????
ショックと羞恥で、真っ赤になっていると、
「君の為に、たくさん仕事してもらおう。」と、リオンに微笑まれた。
カッコイイ。格好よすぎです旦那様。
心臓が。心臓が持たない気がします。タリスさんに仕事させるって、何なのでしょう?
相変わらず、リオンの膝に乗せられて、ベタベタして、その日は終わった。
翌日、リオンが王城に出仕後、やはり徐々に魔力酔いの症状が出始め、午前中はソファで休んでいた。リオンと離れるだけで、この状態なんて。どうしたらいいのかしら?
昼前になって、タリスさんが急に訪問されたとのことだったが、執事が対応し、何も出来なかった。女主人として何も出来ていない。が、タリスさんの用事は、リオンに頼まれていた物を私に届ける事だったらしく、体調不良だろうからと、すぐに帰られたらしい。アリスが綺麗な魔石のネックレスとブレスレットを預かって来た。これを肌身離さず、つけておくように、とのこと。
不思議な事に、装着して1時間もすれば、身体が楽になった。何も聞いていないから、リオンが帰ったら聞かなくては。
結婚式は、土曜日。これは、家族のみ。
披露パーティーを、日曜日に行う。
昼から、夕方まで、約5時間。お迎えと、お見送りまで考えると、11時から18時までの長時間。この装飾品をつけるだけで、ここまで体調がよくなるなら、日曜日も大丈夫だろうと、ほっとする。
ここ数日、私がネガティブになってしまった為に、リオンに迷惑をかけた。何か。喜んでくれることはないかしら?
私に出来ること。
元々、何でも器用にこなすタイプだと自分でも思っている。でも、令嬢が嗜むような、女性らしい趣味は、そんなに好きではない。前世と違い、この世界の本は実用書ばかりで、小説や物語が無く、歴史書はあるが、事実を淡々と並べられた堅苦しい内容だ。子供に文字や数字、歴史を教えるための絵本なら存在するが。
誰か書いてくれないかしら。娯楽小説。絵心も持って無いわ。無難なものしか画けない。
そうね。よく、奥様が旦那様の家紋の刺繍を施して、贈られるけど。あれくらいならば、式までに間に合うかしら。本当はあの刺繍の作業、大嫌いなんだけど。
刺繍が趣味の人って、本当に尊敬するわ。よくよく考えたら、この世界の刺繍で、あの前世のオーガンジーのような薄い布に刺繍してあるの見た事ないわね。8月夜会までなら、そんなのも作れるかしら。
ああ。嫌いなのに、どうして思いついちゃうのかしら。
本当はお針子さんに発注したい。でも、これ、そこら辺のお針子さんに伝えちゃったら、どこからともなくアイディアがあっという間に広がって、8月夜会には皆が持ってるみたいになるのよね。それはちょっと悔しいわ。8月夜会のドレスに合わせた夏の刺繍の羽織は自分で作ろう。やっぱり、インパクトは大切。
旦那様に内緒で、ハンカチに刺繍を刺してゆく。
面倒くさい。
大好きな人の為なのに、そう思っちゃう所が駄目な令嬢だわ。でも、喜んでくれるかしら?
アリスが、軽食なら摂取できるか尋ねるので、軽くブランチを取る。
やり始めたら、あっという間に時が経つ。気がつくと夕方になっていて、騎士団から女性騎士のリンゼイさんと、ルルーさんが挨拶に来られた。
リンゼイさんは、炎属性の剣士らしく、赤い髪が結い上げられてまとめられていて美しい。ルルーさんは、栗毛の短髪。細身の長身。庶民出で魔力は無いが、抜群の反射神経を持っているらしく、魔石のピアスがワンポイントになっていて、クール系美人。タイプは違うが、2人とも美人。この世界、どうしてみんな、こんなに顔面偏差値高いんだろう。
夜になって、リオンが帰宅する。
「おかえりなさい、リオン。」
久しぶりにフロアまで出迎えが出来たことがうれしい。
「ローズ。起きていて大丈夫なのか?無理をしてはいけないよ。」
そう言って、抱きしめられる。
外の臭い。リオンの臭い。ちょっと、お日様の臭い。
「珍しい。リオンからお日様の臭いがする。」
「ああ。午後から、天候が良かったからね。2時間ぐらい騎士団でカイウス達と、あとタリスも呼んで、救援砲のテストを繰り返していた。」
「そう。やっぱりお仕事、忙しそうね。」
「いや、余裕があるからこその新しい試作だよ。さあ、玄関で話し込む事はない。続きは食事をとってからにしよう。少しは食べられるかな?」
リオンが優しく手を引く。
「頑張って食べるわ。体力が落ちちゃうもの。」
3日ぶりのまともな夕飯だったので、料理長が胃に優しそうなものを用意してくれた。リオンとは別メニューでちょっと寂しかったが、仕方がない。
夕食後、リオンの部屋で相変わらず、膝に乗せられて過ごしていた。
「リオン、タリスさんが持ってきてくださったのだけど。このネックレスとブレスレット、ありがとう。でも、来られた時は体調が悪くて、お会い出来なかったの。ごめんなさい。」
「君が謝ることはないよ。大丈夫だ。」
「この魔石達は、どういう作用をしているの?」
「ネックレスは、私が魔力を注ぎ、私の魔力の波動に合わせている。だから、私と一緒にいるような状況になって君の中の魔力が安定する。自力で安定化するまで、1ヶ月はかかるだろうから、しばらくは必要だな。ブレスレットは、解毒の作用がある。屋敷での食事には気をつけているが、何があるかわからないからね。2つとも絶対に外さないこと。」
「わかったわ。ありがとう。」
「今日は何をしていたんだい?」
「刺繍よ。8月夜会に間に合うように、刺繍を刺した夏の羽織を作ることを思いついたの。」
「好きなら、一式、新しい物を用意しようか?」
「要らないわ。実は、刺繍はあんまり好きじゃないのだけど。こういうのがあったら、素敵ねって、思いついちゃったの。それを作った後にまた新しい物を作るかなんてわからないし。今、持っている物で十分だわ。でも、そうね。今日は図案を考えていたの。美しい布と、糸があれば、今度買うわ。」
「ああ。刺繍が嫌いなら、母から口の固い仕立て屋を聞くといい。信用で成り立っているような者達は、口外しない。君が新しいデザインを考え、指示するだけでもいいのではないか?」
「そうねえ。8月まで2ヶ月もあるわ。もう学院にも行かないし…式の準備が終わったから時間に余裕があるもの。今回はのんびり自分で作るわ。8月夜会の反応を見てからお義母様に相談するわね。」
「わかった。執事に聞いたが。リリスティール嬢にまた会いにいくのか?」
「ええ。明日。今日、お手紙が届いたの。」
「大丈夫か?君も病み上がりに近いというのに。」
「大丈夫よ。心配性ね。」
くすくすとつい、笑ってしまうと、頬に顔を寄せられてキスをされる。
「式、披露宴があって、新婚旅行に行けるぐらい休暇が取れるといいのだがな。役職のせいで、難しいな。すまない。」
「かまわないわ。あなたと一緒にいるだけでも私は幸せだもの。」
「地方査察であったり、外交で出る場合が出たら君も連れて行こう。数日でも、気分転換になるだろう。」
「本当に?」
「カイウスが護衛、護衛とうるさいからな、多分、秋以降になるが。」
「楽しみだわ。ああ。それで、騎士のリンゼイさんとルルーさんが私の専属になったの?今日、夕方、挨拶に見えたわ。」
「ああ。カイウスが寄越した。私と一緒に行動する際は、私付きの者がいるから問題無いが、君だけで移動する場合は彼女らがメインで、他にも、日中の外の移動は他の男性騎士も一緒に付く。手配が必要だから、外出はできるだけ早めに執事に伝えなさい。」
「私が外に出るだけで、大変だわ。外出しにくくなちゃう。」
「君を守る為だ。」
「わかってる。」
「対外的にも、他の貴族や平民に、君に手出しが出来ないと印象づける必要があるからな。」
「そう?」
「君を攫って、宰相の私に要求をしてくる馬鹿がいつ湧いてくるかもしれない。だから、カイウスもタリスも君の守護を高めようとしているのだよ。」
「ああ。ごめんなさい。私、戦えないもの。」
「構わない。私も頭は使うが、子供の時から身体能力は一度としてカイウスに勝った事はない。それから、タリスは私より魔術の才能は上だ。私など、足下にも及ばん。」
「えっ?」
「この事は他言無用だ。だが、君は知っておいた方がいい。何かあった時、あの2人は頼っていい。この事を知っている者は、ほんの一握りだ。」
驚きすぎて、何を言えばいいと?
もしかして、攻略対象者なんて、目じゃないくらい、この人達、高スペックなんじゃ・・・。
黒の宰相様、今期最大の魔力者であり、賢者とかいう話だったのに、それが足下にも及ばないって・・・。旦那様??それ、重大な機密情報じゃないの?それで、仲良くつるんでいる貴方達、一体・・・?
「難しい顔をしない。何も、心配することはない。私が君と離れることはない。私は約束は守るよ。絶対に離れないという約束は、ちゃんと結婚式前までに間に合っただろう?」
また、優しく抱きしめられた。




