ep1 - ドーナッツと穴
注意
この作品はリメイクです
原作は消えています
原作者は私です
その施設には、10人ほどの人がいた。
人と言っていいのかわからないが。
その中の新人。その少女。
少女は、こう思う。
あの穴は何なのか、と。
私は何なのか、と。
神様は私をこの世界に産み落とした時、どう思ってのかとも。
いや、偶然生まれてしまった私は何を思っているのかとも。
◉
ドーナッツを食べている最中、ふと思う。
ドーナッツの穴は、縁がなくなった時にどうなるんだろうって。
縁…つまり食べるところがあれば、真ん中の穴は穴といえる。
じゃあ、この縁が欠けたドーナッツの穴はどうなるんだろう?
穴は消えた?
それとも、広がった?
広がったなら、面白い。
自分がドーナッツを食べたことで、自分も、自分のドーナッツの店も、近所も、日本も、世界も、宇宙も、全部が穴に包まれたわけだから。
何かこう……ロマンがある。
「おにいさん。」
そんな妄想をしていると、一人の少女が話しかけてきた。
珍しい。
妄想するほど暇でガラ空きのこの店にやってくるなんて。
少女は凛とした佇まいと、幼い喋り方をしていた。大人びているのに、どこか生まれたての様なおかしな感じがする。
「これたべて。」
「ん?」
少女が自分に一枚のクッキーを手渡す。
「これは?」
「つくった。」
そう言われて、もしかしたら感想が欲しいのかなと思い、クッキーを食べる。
……甘みの奥に何か苦味を感じる。薬でも飲んでいる様だ。
苦味に顔を顰めそうになって堪え、なんとかお世辞を言おうとする。
「えーっと……。」
言おうとした時には少女の姿は何処にも無かった。
夢でも見ているのか?
いや、自分は確かに見た。姿だって覚えている。
年は小学生中学年ぐらい。
長く黒い髪に、吸い込まれる様な黒い目、黒いワンピース……黒まみれだ。
中学の頃の自分もそんなだったな。
まあ、そろそろ店じまいにするか。
日も暮れてきたし。
そう思いながら、食べかけていたドーナッツを食べる。
その日に、自分の日常はエンディングを迎えた。
◯
目を覚ました時、まだ寝起きでぼんやりしていたが、自分と天井の間に、何か黒い物体が浮かんでいるのが見えた。
目を擦って、それが本当にあるのかを確認する。
やはりある。
これはなんなんだ?
ボール?ブラックホール?
わけもわからず、布団に入ったまま、それに手を伸ばす。
「さわるな。」
少し遠くからあの少女の声が聞こえる。
その言葉に従い、手はそれに近づこうとするのをやめる。
「そこからうごかないで。」
少女の声は近づいてくる。
それと同時に、何かを撃ち出す音も聞こえる。
しばらくの間、黒いそれと見つめあっていると、黒いそれは撃たれて、消滅した。
ようやく、体を起こす。
「あぶない。しらないものに、さわるな。」
少女が少し怒った口調で注意する。
……昨日夕方に出会った子だよな?
顔と声は一緒だが、服装が違う。
ワンピースとは全く違う、黒い全身スーツの上に橙色のコートを羽織っている。
「悪かった。……これは何が起きているんだ?」
少女が通ってきた道以外に、黒い穴の様な球体が浮かんでいる。それは家の壁を、床を、家具を吸い込んでいるかのように、それの周りは綺麗に抉られていた。
「ひとつずつせつめいする。」
少女は一呼吸を置いた。
まるで重要なことを話すかのように口を開く。
「まず、あなたはしんでいた。」




