第10話:庭師ギルド設立、そして「世界一平和な王国」へ
「――というわけで、今日から『世界庭師ギルド』の総本部を、この世界樹要塞の真下に設置する!」
ガランデル将軍の気合の入った声が、世界首都の広場に響き渡った。
あれから数日。ルルの提案から始まった『庭師ギルド』の設立は、俺の意図を完全に無視した(しかし恐ろしいほどのスピードで)国家プロジェクトとして進められ、あっという間に大陸全土を巻き込む一大組織へと成長してしまった。
広場には、王国や帝国の偉い人たちだけでなく、大陸中から集まった一流の農家や、元・冒険者、さらにはかつての強者たちが、なぜか全員「緑色のエプロン」を着用してズラリと整列している。
彼らは皆、手元に『特製剪定バサミ』を握りしめ、目を爛々と輝かせてこちらを見上げていた。
「いや、だからエプロンとバサミは強制じゃないんだってば……」
俺――レントは、世界樹の根元のテラスから、その光景を眺めながら頭を抱えていた。
みんなして「神聖庭師様の直伝の技を学ぶため、命を懸けて庭の手入れに勤しみます!」と意気込んでいるが、俺が教えたいのは「もっと気楽に雑草を抜いて、お茶でも飲もうぜ」というスローライフの極意なのだが、どうにも彼らには「超高度な戦闘・生産一体型奥義」に見えているらしい。
「ねえレント、みんなすごくやる気だよ! モフモフも応援してる!」
ルルが俺の肩の上でポンポンと手を叩き、足元ではモフモフ大先生が「グルルッ!」と威勢よく吠えている。
壇上に立たされた俺は、観念したように大きく息を吐き、目の前に集まった何万人もの「弟子たち」を見渡した。
もうこうなったら、適当にそれっぽいことを言って、早く終わらせてお茶にしよう。
「……えー、皆さん」
俺が声を張り上げると、数万人の人々が一斉にピタリと静まり返り、息を呑んで耳を傾けた。この異常なまでの求心力、どうにかならないものか。
「庭仕事で一番大切なのは、難しい技術でも、強大な魔力でもありません。……ただ、目の前の土を愛し、植物の声を聴き、そして『夕方にはちゃんと仕事を終わらせて家に帰る』ことだ」
静まり返る広場。
数秒の沈黙の後、ガランデル将軍が感極まったように声を震わせた。
「なっ……!『夕方には家路につく』……これこそが、世界の喧騒と争いを終わらせる究極の平和主義の教え……っ!! 流石は神聖庭師様、深すぎます……ッ!!」
「「「おぉぉぉぉぉぉ――っ!!」」」
再び、大陸中を揺るがすような大歓声が巻き起こる。
(いや、だからただ定時で帰りたいだけなんだって……)と心の中で突っ込みながら、俺は苦笑するしかなかった。
それからしばらくして。
世界首都は、かつての殺伐とした魔の森の面影を完全に失い、大陸で最も美しく、そして最も平和な「緑の楽園」となっていた。
戦争は無くなり、国境の概念は「どの花壇の担当区域か」という緩い境界線に変わり、人々は皆、日々のガーデニングと美味しい野菜作りに精を出している。
魔王軍の残党だったトカゲのぬいぐるみ(本人はすっかりペットのつもりらしい)は、今や広場のマスコットとして子供たちに可愛がられていた。
夕暮れ時。
世界樹の枝葉が心地よい風を送り、黄金色の夕日が世界を優しく包み込む。
「ふう……やっと静かになったな」
俺は庭の特製ロッキングチェアに深く腰掛け、淹れ立てのハーブティーを一口クチに含んだ。
隣ではルルがウトウトと眠そうな顔をしており、足元ではモフモフ大先生がのんびりと鼻息を立てている。
王都を追放されたときはどうなることかと思ったが――。
「まあ、結果オーライってやつか」
ボソリと呟いた俺の頭上で、世界樹がふわりと葉を揺らし、まるで「おかえり」と言っているかのように優しい光を落とした。
底辺職だったはずの庭師レントの、最強で、最高にのんびりとしたスローライフは、今日も明日も、この緑豊かな世界で穏やかに続いていくのだった。
(『【急募】底辺職『庭師』ですが…』―― 完)




