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ぬいと戦うラノベ世界! ~死亡フラグを回避するため、チートスキルはブッ潰させて頂きます~  作者: なっつ
味方を増やして評価を上げることも断罪回避には不可欠ですわ!
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82 悪役令嬢、食い下がる。


相分(あいわ)かった。あとは我々と有識者で検討する」


 終了宣言と(おぼ)しきアルノートの声に、ナイスミドルたちが帰り支度を始める。

 どうやら彼は第二幕でも番外編でもなくエンドロール担当だったようだ。長い拘束をこれでお(しま)いにしてもらえるのは有難い。の、だが。


「お待ちください。他の当事者からも話を聞いて下さいませ」


 まだ何も終わっていない。

 私の主張にしたって証言足りえるのは『エアハルト伯やカジウラがこう言った』と言う部分だけで、彼らの真意は本人のみぞ知るところ。

 ただそれでも、私は彼らがそれを言った時の表情や声色を知っている。憶測にしても多少は真意に近い部分を()み取れていると思う。

 けれど。

 それすら知らない王子と有識者が、何をもって判断できると言うのだ。


此処(ここ)にはブラウン伯爵令嬢((オリヴィア))バーミリオン子爵令嬢( (ソフィア) )も、バルトガー侯爵令嬢( (コーネリア) )もいらっしゃいます。兄もおります。

 それに真相究明については犯人側の情報を知るエアハルト伯の証言こそが重要かと。証言できない状態なのであれば治療を(ほどこ)し、罪の是非はそれまで待って頂きたく存じます」

「必要ない。ユリウスからの報告は(すで)に受けている」

「他の方からも」

「女の意見など聞くだけ無駄だと今実感したばかりだ」

「ですが」


 我ながら何をやっているのだろうとは思う。

 平民の娘が何人行方不明になろうと私には関係ない。むしろ動くことで(侯爵令嬢でさえ手にかけようとした)犯人の恨みを買って、その矛先を向けられるかもしれない。

 私の意見で罪が軽くなったとしてもエアハルト伯から感謝されることはなく、カジウラにしても(しか)り。コーネリアは感謝しているように見えるが、〝イグニートとの逃避行〟を阻止されたことについてはどう思っているかわからない。

 兄王子たちからもウザくて面倒な女だと思われていそうだし、破滅フラグも現在急ピッチで増産体制に入っていることだろう。


 せめて私がヒロインなら、他人を助ければ助けた分だけ、出しゃばれば出しゃばった分だけ恩恵となって返ってくるだろうのに。

 コーネリア救出も今回の釈明も私は巻き添えを食っただけなのに、(てい)よくただ働きさせられて破滅フラグ増産では割に合わないったらありゃしない。

 でも。

 このまま放置したら夢見が悪い程度には、私はこの件に関わりすぎてしまった。


「エアハルト伯に証言させろと其方(そなた)は言うが、罪人など助かりたい一心で(うそ)を吐くに決まっている。今捕らえられている実行犯どもが我が身かわいさにエアハルト伯に罪を(なす)り付けている、と言うアロイス殿下の貴重なご意見と同じようにな。

 それに其方(そなた)も伯爵は黒だと言ったろう? 今更何を聞く必要がある?」


 私の話は『ストーリーを知っているマツリカが言うのならエアハルト伯は黒』が前提。伯爵の無実を証明するつもりでは喋っていないし、するものでもない。

 アロイスが切り札を持っているに違いないと思ったからこそ、神のお告げに賛同する風には言わなかったけれど。

 だがこれで閉会すれば、彼らは〝聖女のお告げどおり〟エアハルト伯の有罪で幕を引こうとするだろう。


 エアハルト伯に情状酌量の余地があったとしても罪は罪。白にならないのは承知。

 だけれども、目に見える関係者を捕らえて終わり、では駄目だ。

 コーネリアを誘拐した意図も全く見えてきていない。


「全く。捕らえた者どもが口をそろえてエアハルト伯の指示だと言っているのにそれが偽りだと申すとは、それでは何をもって真実を見出せば良いのだ?」

「それでございます殿下。罪人と言うからには伯爵も彼らも同じのはず。なのに彼らの話は聞いて伯爵の話を聞かないのは矛盾しているのではございませんこと?」

「伯爵が(うそ)を言わないと何故(なぜ)言える。そもそも聞きたくとも喋れないのではどうしようもなかろうが」

「それに行方不明になっている女性は他にもおります」

「ああそうだな。それがどうした」


 アロイスの話では他に何人も捕まっていると言う話だったが、イグニートが捕らえられた時、彼が連れていたのはコーネリアひとりだった。

 侯爵令嬢だから平民の娘たちとは別格で、別ルートで、と言う考えは彼らにはないだろう。

 水車小屋の男たちは私たちが貴族令嬢であることを知った上で『服を脱がせ、薬漬けにして何処(どこ)の誰だかわからないようにして売る』と言っていた。侯爵令嬢とて同じことだ。

 もし身代金目的だったとしても、返せばコーネリアの口から自分たちのことがバレる。私なら金だけ貰ってコーネリアは返さない。


 煮え切らないグダグダな終わり方だが、捕らえた分で全員なら終幕にするのも良いだろう。

 だがエアハルト伯の口を封じようとしたことにもし意味があるのなら、これで終わりにするのは危険すぎる。

 少なくとも、貴族令嬢の中で唯一(さら)われたコーネリアは再び狙われる可能性がある。

 もしこの件にマツリカが噛んでいるのなら尚更──。


「ではせめてバルトガー侯爵令嬢の見解だけでも。

 ねぇコーネリア様。イグニートから何か聞いてはいらっしゃいませんこと?」

「え? わ、私は何も……」


 いきなり振られてコーネリアは狼狽(うろた)える。

 お茶会では大勢の令嬢に囲まれ、舞踏会では年代の違う他の貴族たち相手にも(おく)さない無敵の侯爵令嬢にしては意外な反応だ。この場では発言権などないと思っていたにしても、ここまで狼狽(うろた)えはしない。

 強制的に婚約者にされかけたトラウマが、と言うには先ほどは普通に話しかけてきたし、だとすれば……。


 そんなコーネリアを見、


「王族の婚約者ともあろう者が男に(たぶら)かされた仔細(しさい)を話せと?」

其方(そなた)は親友に恥を(さら)させてなんとも思わないのか?」


 と、アルノートとランドルフが口々に助け船を出してきた。

 逃げ出した婚約者に恩を着せ、少しでも好感度を上げるつもりなのか。

 言った端からお互いに(にら)み合うところを見ると、〝彼女を得た者が王太子に〟と言う設定はまだ続いているのかもしれないが……私としては、今現在開示されている情報はどれも捜索側のものだからイグニートと行動を共にしていたコーネリアなら私たちが知らない情報を持っているはずだ、と思っただけのこと。

 なのにこれでは兄王子たちの中ではもう人身売買の事件は終わったことで、彼らの興味はもうコーネリア獲得合戦に移ってしまっているように見えてならない。


「私はただ、」

「前から思っていたが其方(そなた)は我が婚約者の(そば)に置くにはいささか品性に問題があるようだ」

「そう言えばユリウスを差し置いてルブローデ領主にならんと企んでいるそうじゃないか。女性には女性の役割と言うものが、」

「……その言い方。エアハルト伯にそっくりだねぇ」


 破滅フラグが量産体制フル稼働に入る中、ぽつりと声がした。

 アロイスだ。

 見れば何やら企んでいるような悪人顔で首を傾げている。


「今為すべきことは婚約者殿のご機嫌取りではなく、首謀者の一刻も早い確保ではないのですか?」


 思えばアロイスは最初から『此処(ここ)に呼ばれたのは事件解決に向けてのことだと思っていた』と言っていた。その上で私に発言を許可していた。

 なのに全く進展しないことに(しび)れを切らしたのかもしれない。

 まぁそれは私の(てい)たらくが招いた結果ではあるけれど、引き籠り令嬢に〝相手から有利な発言を引き出す話術〟だの〝順序だった会話〟だののスキルがあると思っていたのなら……いや、もう何も言うまい。


「首謀者は捕らえた。エアハルト伯だ」


 アルノートの反論にアロイスは肩をすくめる。


「やれやれ、今私とルブローデ辺境伯令嬢が必死になって話した分は全くの無駄ですか?」


 それに関しては同感だ。

 努力が全て成果になれとは言わないが、延々と聞かれてもいない推理を披露した結果が〝最初に戻る〟では、疲れも倍になると言うものだ。


「今我々が知り得ている情報は私+ルブローデ辺境伯令嬢のルートとルブローデ卿率いる救助ルートで起こった経緯、そして捕らえた者たちの言い分だけでしょう? そちらのご令嬢がた(オリヴィアとソフィア)は私たちと同行していたから(はぶ)いてもいいとして、バルトガー侯爵令嬢の話くらいは聞くべきでは?」

「彼女は犯人に傾倒し、正しい証言をしない恐れがある」

「それは聞いてから判断しても遅くはありますまい。それとも」


 アロイスは目を細め、場内をぐるりと見回す。


「彼女に証言させると何か不都合でもあるのでしょうか。中途半端な証言だけで判断を急いだほうが都合がいい〝何か〟が」

「なっ」


 アルノートは狼狽(うろた)えた。

 いつもランドルフの影になり、ランドルフを盾にしてきた次男だからこそ、(つつ)かれ慣れていないのかもしれないが、私にとってはいい反応だ。

 これでエアハルト伯ひとりを断罪した日には〝王族はエアハルト伯ひとりに罪を(なす)り付けてでもこの事件をさっさと終わらせたい理由があった〟と誰もが思う。

 言い換えれば、〝イグニートの背後にいる人身売買に(くわ)しい貴族(イコール)王族〟の図式が勝手に各々の頭の中に描かれることになる。


「人身売買の件はタジャラでも問題になっています。その究明に来たわけですからね、私は。

 ああ、一冒険者としてひっそりと出国するつもりだった私の素性を(さら)し、この場に呼んだのは人身売買解決に向けて協力していくつもりだと、そんな甘い期待をしていたのは私だけだったようだ。残念です」


 マツリカに『王子だ』と暴露されたことをアロイスは最後まで強請(ゆすり)のネタにするつもりのようだ。

 さすが王族、どんなものも手札にすると言うべきか、姑息(こそく)さが王族らしくないと言うか。だが何にせよ、兄王子たちをけん制したのは確かなようで──。



              挿絵(By みてみん)



 説明会とは名ばかりの聴聞会は、その後、有耶無耶(うやむや)のうちに幕を閉じた。

 ジークラム王室としては本物かどうか定かではないアロイスと国をあげた話をするわけにもいかず、かと言って『偽物だ』と(てのひら)を返して追い出すわけにもいかず。

 今日のところは穏便にお帰り頂くことにしたらしい。


 マツリカが乱入してくる前に決まっていたとおり、コーネリアの処遇は私に一任された。

 『後ほど有識者と決める』ことになっていたら、再びマツリカの魅了にあてられて全く違う結果に終わっていたかもしれない。

 とは言え今日の明日で店が用意できるはずもないので、今のところはバルトガー侯爵家で謹慎と言う、ほとんど罰とは言えない激甘な処分が下された。

 コーネリアにしてみればお茶会も舞踏会も街の散策もできないのは何にもまして厳しい処分なのだろうけれど、〝身分はく奪〟がさりげなく撤回されているのはまだ婚約者にする心づもりがあるのだろう。

 せっかく得た貴重な刺繍職人を王子どもなどに奪われてなるものか。

 面食いのコーネリアが兄王子たちに(なび)くことはない、と断言できるのが救いだけれども、権力をかさに何を仕掛けてくるか知れない。そしてその場合、娘の再度の脱走を恐れるバルトガー侯爵が差し出さないともわからない。

 店の構想なんて何も持っていないけれど、早めに動かないといけない案件だろう。


 エアハルト領は王室預かりとなった。

 ただ辺境伯領と言う普通の貴族の領地とは違う働きが求められる地だけに、管理はルブローデがすると言う、うち(ルブローデ)にしてみれば全然得にならない決定付きで。

 マツリカの提案が却下されたのは良い。

 けれど『数年間借り賃を払い続ければこの商品はあなたのものに!』なんて(うた)い文句の商品貸し出し(レンタル)商売のように、数年後、エアハルト領がルブローデに併合されるのならやる気も出るのだが……。


 今回の件は 私たち (ルブローデの三兄弟)がいたから早期解決に至ったようなものだし、兄王子が兄にエアハルト領を託そうとしたのも褒賞の意味合いが大きい。

 が、コンラートと私の役割は替えがきかないけれど、(指揮権)の代わりならできる。兄より上手くやる自信がある、と思っている者もきっといる。

 この裁定はそんな手前勝手な貴族たちに配慮しつつ、ルブローデには(期待度が薄いながらも)褒賞を与えることでその働きに報いたように思わせる……そんな玉虫色に染まった裁定だ。


 だがこの褒賞でマツリカが言っていた『戦力の(ルブローデへの)一極化』は避けられなくなる。

 私たちがどれだけジークラムへの忠誠を(うた)ったところで、穿(うが)った目で見る者はいる。

 だったらいっそのことマツリカの意向を()んでヨルム男爵領に任せればいいのに。

 ド素人が国境警備をガッタガタに崩壊させた後でなら、ルブローデに任せることに異を唱える者などいないのに。

 なんてことまで思う。

 

 私に関しては不問となった。

 アロイスが私のことを『聖女だ』と散々持ち上げたのが効いたのかもしれない。

 『貴族令嬢らしい振る舞いを忘れないように』とだけ注意されたが、暗に『聖女を敬え』と言う意味が含まれていたのは間違いない。

 ただ、残念なことに愚鈍な引き籠り令嬢(・・・・・・・・・)にはそんな裏の意味を察する能力などないのだけれど。


 そしてエアハルト伯だが──。



              挿絵(By みてみん)



「──失礼します! たった今、エアハルト伯が脱獄したとの報告が……!」


 終わる気配がなかった聴聞会が有耶無耶(うやむや)に、そしてマツリカ乱入前になんとなく決まりかけていた採決でほぼ終わった理由。

 それは、そんな報告が飛び込んできたからだった。


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