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ぬいと戦うラノベ世界! ~死亡フラグを回避するため、チートスキルはブッ潰させて頂きます~  作者: なっつ
味方を増やして評価を上げることも断罪回避には不可欠ですわ!
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76 悪役令嬢、策略にはまる。

      

 マツリカの合図に扉が開く。

 気持ち〝うやうやしく〟開いたように見えたのは、これから登場するであろう誰かが高貴な身分だから、と脳が勝手に補正をかけたせいだろう。アロイスなのに王子に見えるのはそのせいだ。

 私は妙にキラキラしい、背後に咲き乱れる花の幻までが見えてきそうな男から目を()らす。

 もし王子ならジロジロ見るだけで不敬。そしてそれよりもパンツ一枚の時の彼の残像が『俺を忘れるな』とばかりにチラついて、いろいろな意味で(つら)い。


 それにしてもこの衣装、背格好が近いクリストファーから借りたのだろうか。

 乙女ゲーム的世界観になってからやたらとご都合主義なところが目につくけれど、さすがに何時(いつ)来るかも不明な、そして来たところで服を借りることはまずない他所(よそ)の国の王子のために服を用意しておいたりはしないだろう。

 見覚えがある。

 あれは建国一〇〇周年の……そうそう、クリス様(ドール)が着ていた服。

 イベント衣装は使い回しが効かないから一度着用したら終わり、と言うのが通例だけれども、あの服は再び日の目を見ることができたのか。

 私は兄王子Aの手中にある濃紺の塊に視線を投げる。

 期せずしてオリジナルと複製品が揃ったが、兄王子Aは気付いていないようだ。


 服装とは(まと)う者の社会的地位を表すもの。

 貴族は貴族の、冒険者は冒険者の恰好(かっこう)だから見知らぬ人々からもそう対応してもらえるわけで。だからこそ変装と言う手段も有効なわけで。

 祖父が大好きな〝国王の叔父が自らを商人と偽って世直しがてら諸国行脚(あんぎゃ)する物語〟でも、毎度毎度『この方をどなたと心得る!』と名乗り出るまで(かたき)役の誰ひとりとしてご隠居の正体に気付かないわけで。

 ()(かたき)役たちも、国王の叔父とわかる恰好(かっこう)で歩き回っていてくれれば切りかかったりなどしなかったろう。


 全く、『この方を何方(どなた)と心得る!』じゃないわよ。

 数年に一度見るか見ないかの、表舞台から隠居して久しい爺さんの顔まで覚えていないといけないなんてどんな無理ゲー!? と言うソレ以上に、会ったこともない隣国の王子の顔を覚えていろと言うのは無理な話。 

 だから身ぐるみ()いだのは不敬じゃないのよ! と訴えたいが、それで無罪放免になるのならわざわざマツリカも取り上げはすまい。


 ……などと私が長々とご隠居に思いを馳せているその隙に、


「アロイス殿下!」


 マツリカはアロイスに駆け寄り、腕を絡ませる。

 そして。


「私、目を疑ったのでするん。マルグリット様はアロイス殿下の服を奪い、恥ずかしい恰好(かっこう)をさせて……」


 と、涙を浮かべた。

 いやその程度で泣けるのかよ! とツッコミが脳裏を(よぎ)るが、何より、ご隠居に気を取られて先手をとられたのが痛い。

 おのれご隠居! ってそれよりも!

 マツリカは何処(どこ)で隣国の王子の顔を知ったのか。

 神殿で学ぶ機会があったのか、それともヒロインは(トラウラ)から事前に攻略対象の顔を教えてもらえるのか。

 いやその前に前の世界で見知っていたかもしれない。コンラートのことを『月下に咲く黒薔薇の貴公子』と呼んでいるらしいアレ(・・)で。


 だが何にせよ、マツリカが知っている情報を私が知り得ないまま今に至ってしまった状況が良いほうには転ぶことはない。

 ああ、ディナエルが『アロイスは隣国の王子説』を唱えた時に少しは真に受けておくべきだった。

 隣国の王子ポジションの男なんて、その後のイベントで関わってくる可能性も、好感度を下げれば破滅フラグが立つであろうことも十分に推測できたのに。

 違っていればそれでいい。警戒するに越したことはなかったのに。


「タジャラ国では人前で肌を(さら)すのは奴隷だけなのに! い~っくら引きこもりで一般常識と節操に欠けていたとしても許されることではないのでするん!」


 本当に隣国の王族だとしたら馴れ馴れしく腕を絡ませて許される相手ではない(『い~っくら』一般常識と節操に欠けた男爵令嬢であろうとも)のだが……身ぐるみ()いだ私にはそれを言う資格はない。

 言えば四方八方から『どの(ツラ)下げてそんなことが言える』と()るしあげられるのがオチだ。

 せめて兄王子やクリストファー、もしくはこの場にいる偉いナイスミドルの誰かが(いさ)めてくれれば溜飲(りゅういん)も下がるものを、と他力な期待を抱いてみるも、マツリカのイエスマンと化した彼らは羨ましそうな顔はするばかり。誰ひとりとして彼女を(いさ)めようとはしない。


 いくら乙女ゲームでもこれは酷い。

 他国の王子よ!?

 『下手したら戦争でするん!』よ!?

 悪役令嬢が同じことをしたら即断罪なのに理不尽すぎる。



「リカはアロイス殿下の味方でするん。タジャラとジークラムの繁栄のため、この聖女マツリカ、悪を成敗するでするん☆彡」

「聖女?」

「そぉぉぉぉでするん! リカはこの世界を平和に導く聖女でするん。その証拠にぃ、クリス様が真実の愛を召喚した時に呼ばれたのはリカだしぃ、ほら、薔薇の印もあるしぃ!」


 外野が口を挟まないからか、マツリカはすっかり自分の世界に入っている。

 いや、自分とアロイスの世界と言うべきか。

 兄王子を始めとするそうそうたる面々、そして私やコーネリアたちの存在をすっかり忘れた顔で、マツリカは腕まくりすると例の薔薇に似た(あざ)をアロイスに見せている。


 あの薔薇は余程の証拠なのだろうか。

 聖女と言うのは何をしても許される存在なのだろうか。

 アロイスも、初めて印を見たらしいこの場の人々も、皆が一様にエアハルト伯と同じリアクションを──納得したような声を上げる──取るのを目の当たりすると、言いようのない敗北感が足下からよじ登って来るのを感じる。



「──そうか。ジークラムに聖女が現れたと聞いていたが、それがきみか」


 アロイスは神妙な顔で薔薇とマツリカを見比べている。

 ああ、この展開。アロイスもマツリカの魅了にあてられてしまったのか。

 攻略対象なら問答無用でヒロインに()かれるのが乙女ゲームだけれども、今、アロイスにマツリカ側に付かれるのは非常にマズい。


「えー!?!? リカ、タジャラでも有名人なんでするぅぅん?」


 アロイスに認識されていたことに気を良くしたのか、マツリカは口角を上げる。


「そぉなんでするん。リカは何十年に一度現れるかどうかのとぉぉおっても凄い女の子なんでするん! ……でぇもぉ……」


 ああ、その顔、どちらが悪役だかわからなくってよ? と、私が言えるのは心の中でだけ。

 今はまだマツリカのターン。何を言ったところで『聖女の話を(さえぎ)るな』と言われて終わりだ。


「リカ、マルグリット様に(ひど)いこと言われたでするん。『聖女と言うのは何処(どこ)か外国の地名かしらぁ』とか、『語尾に〝るん〟を付けるのは少数民族』だとか、回復魔法が使えるすっごくすっごくすぅぅっごく貴重な女の子なのに『ルブローデには一〇〇人単位でいますわぁ』とかって馬鹿にしたでするん」


 おのれマツリカ! 何も数ヵ月前に言われた嫌味をこんなところでバラさなくても!

 と思うも、火のないところで煙は立たない。

 最初に嫌味を投げたのは私。

 マツリカはその事実を最も相手にダメージが与えられる機会を選んで暴露しただけだ。

 そうわかってはいるものの、狡猾(こうかつ)すぎて腹立たしい。



「なに!? それは本当か!? こともあろうに聖女に侮蔑の言葉を吐くとは」


 兄王子Aが声を震わせながら手を上げる。

 と、壁際で控えていた近衛兵がサッと私の背後に寄り集まった。


 ああ。

 もしかしないでも私はマツリカが仕掛けていた罠にまんまと引っかかってしまったに違いない。

 王城待機組への事後説明もしくは聴聞会だとばかり思っていたのは私だけで、本当の目的は悪役令嬢の断罪。

 アロイスと言う駒を手に入れ、場の話題を〝コーネリア誘拐事件〟でも〝人身売買〟でもなく、〝隣国の王子及び聖女への不敬〟になるよう仕向けてきたのだろう。

 だからマツリカは『コーネリアを修道院送りにする』と言う案が却下されても何も言わなかった。

 彼女の中ではコーネリアの処遇などどうでも良かったのだ。


 自分(マツリカ)より権力を有する持つ令嬢など、いなければいないに越したことはない。

 が、いたところで即座に敵(の仲間)となり得るほどコーネリアは私と近しいわけでもない。

 むしろ手懐(てなず)けられれば強力なカードになり得るし、クリストファーと言う餌で簡単に釣れることもわかっている。


 マツリカがクリストファー以外の攻略対象とのエンドを望んでいるのなら、彼女を〝真実の愛〟などと呼ぶクリストファーはいずれ邪魔になる。

 その時コーネリアがいれば、彼らを思って身を引いたように──身分的に釣り合わない男爵令嬢の自分よりも侯爵令嬢のコーネリアのほうが似合いだ、などと──演出できる。

 後腐れなく捨てられるばかりか罪悪感まで抱かせる。

 もしクリストファーが王位を継ぐことになれば、自身に従順な王まで手に入る。


「お待ちください殿、」

「ルブローデ辺境伯令嬢。発言は認めていない」


 両腕を兵士に拘束され、しかし退場は相成(あいな)らない。所謂(いわゆる)〝晒され状態〟の私の前で、マツリカのターンは続く。


「ってことでぇ、やっぱりマルグリット様はそれなりの処分が必要でするん。そう思いません?」

「もちろんだ。まさか聖女やアロイス殿下にそんな態度をとっていたとは」

「だからぁ、エアハルト領のことは考えなおしてほしいでするん。殿下はユリウス様に任せるおつもりだったみたいですけどぉ、悪人が出た家を取り立てるのは他の貴族の人たちが黙ってないでするん。それこそジークラムの危機でするん!」

「ううむ……ユリウス、聞いての通りだ。エアハルト領の話は撤回する」

「はっ、聖女マツリカの仰るとおりです殿下」

「お兄様! お兄様までそのような妄言を信じ、」

「黙れ! ルブローデの恥さらしが!」


 マツリカが挙げた『エアハルト領をヨルムに』と言う提案は、ラブラブなイベントをいくつも残したままの攻略対象()を遠方に封じたくなかったからか、シナリオにあることだからとは言え自分を拾い上げてくれた養父(ヨルム男爵)に報いるつもりだったのか。

 国境に接するエアハルト領が手に入れば他国との交易──自領が行う貿易や、旅人から徴収する通行税など──で(もう)けられると踏んだのか。

 マツリカの思惑はそのあたりだろう。


 そしてそんな一個人の思惑を叶えるために人の上に立つ者が簡単に前言を撤回するのはどうよ? と言いたくもなるのだが……あっさりと兄王子Aはエアハルト領の話を白紙にしてしまった。


 私が反論したところでもう誰も聞いてはくれない。それだけは確かだ。

 マツリカの言葉にあっさり迎合し、褒賞を取り上げられても当然の顔をした兄から……今までならどんな時でも私の言い分を信じてくれたはずの兄が私よりマツリカの言を選んだことからも(うかが)える。



「うっふっふー♡ コーネリア様のこともマルグリット様に一任するのはやめたほうがいいでするん」


 私に向ける黒い笑みを兄王子たちの前では一八〇度切り替えるマツリカに実技演習時のコーネリアを思い出す。あの時は『女って怖い』くらいにしか思わなかったけれど──。


「でも働かせるのはいい案でするん。ってことでぇ、若者の流行に詳しいリカがマルグリット様の案を引き継いであげよーと思いますのぉ」

「は!?」


 ──こいつ(・・・)は違う。

 この女、私の策をシステムから人材まで丸パクするつもりか!?

 

「本当はぁ修道院よりサクッと処刑しちゃったほうがルブローデ的? には潔くてマルグリット様の好みにも合うんじゃないかと思うんですけどぉ。リカがバラしたせいで、って逆恨みして夜な夜な部屋の片隅から恨みがましいツリ目で(にら)みつけてくるオバケが出るようになったら嫌じゃないですかぁ」


 何処(どこ)までが(やつ)の策だ?

 私にコーネリアを任せると言った兄王子もグルなのか?

 思えば、以前から温めていたぬい(ぬいぐるみ)服の店案をこの場で公表するに至ったのもコーネリアから修道院送りの話を聞いたから(・・)ではあるけれど……まさかコーネリアはこうなることを見越して!?


「コーネリア様はお店で働けばいいでするん。でも女の子の流行に敏感じゃないとすぐに潰れちゃうお店だから男の人だけで経営するのは無理でするん」

「確かに」

「だからぁ、リカが手伝ってあげるでするん。ね? いい考えでしょ? リカは聖女だから悪人にも優しいのでする、」

「ぷっ」


 その時だった。

 アロイスが噴き出したのは。




「アロイス殿下、何か可笑(おか)しいことでも?」


 兄王子Aが怪訝(けげん)な顔をする。


「いやだって、本当に語尾が〝るん〟なんだもんよ。そりゃあゴビルンって言われるわけだわ」


 王子らしからぬ砕けた口調と聖女を(あざけ)る内容に、場内がどよめく。

 もちろん、とは言いたくないが心情としては私も同じだ。だがどよめきたい理由は彼らとは違う。

 何故(なぜ)アロイスが〝ゴビルン〟を知っているのだ? 彼の前で一度でもマツリカのことを『ゴビルン』と呼んだことがあっただろうか。

 まさか彼もクマたちのように他人の心を読む(すべ)を取得しているのか? まさか。


「邪魔」


 そんな周囲の反応など全く気にしていない様子で、アロイスはマツリカを払い()ける。

 まさか払われるとは思わなかったのだろう。よろけたマツリカはすぐ近くの席にいたカオリスナ公爵の膝の上に座り込み……自身の状況を認識するや(いな)や、悲鳴を上げて突き飛ばした。魅了をかけて取り込んだイエスマンでも触れ合うのは嫌らしい。まぁ確かにカオリスナ公爵の顔はマツリカの好みからはかけ離れているけれど。

 かわいそうに、とばっちりを受けた公爵はマツリカ共々椅子ごとひっくり返った。



「そう言やぁさ、こんな昔話知ってっか?」


 助け起こそう(公爵から引き離そう)とマツリカの元に駆け寄るナイスミドルたちを見下ろし、アロイスは冷笑を浮かべている。

 あの口調、あの態度。彼は本当は隣国の王子などではないのではないだろうか。

 連れて来たマツリカが間違えたのではないだろうか。

 そんな空気に包まれる中で。


「とある王子の嫁探しをしようってんで魔導士たちが召喚の儀式を行ったんだよ。事前にやんごとなき身分の姫たちに『王子の嫁に選ばれました。応じる気があるのなら召喚の儀式に応じて下さい』って根回ししといてさ。

 でも実際に呼ばれたのはその姫を食って霊力を奪った女狐。霊力のおかげで姫と遜色ない容姿を手に入れてたせいで、(だァれ)も女狐が嫁の座に納まるのを何とも思わなくって。

 で、結局その国は女狐に掻き回されて滅亡するんだ。どの世でも国が亡ぶ原因は女、それと見る目のない男、ってな」

「何が言いたいのです殿下」


 突然始まった昔話に兄王子Aが声を荒げた。

 タジャラはジークラムより大国。そこの王子への対応は同じ王族と言えども対等にはできない。

 だからお忍びで現れた王子を王城に招き、王子らしい衣装を着せ。きっと昨晩は至れり尽くせりにもてなしたに違いない。

 なのにその苦労を水泡に帰すような態度を取ってしまうとは、余程腹に据えかねたのだろうか。今までの兄王子Aからは想像し難い対応だ。


 が、アロイスはそれにも動じない。


「あんたら見てたらそれ思い出したってだけだよ。第一、ゴビルンは聖なる力は一度も出してないんだろ? それなのにいい歳したオッサンやらジイサンやらがデレデレして『聖女ガー』『聖女ガー』って、これを笑うなってのが無理なんだよ。

 俺のことだってゴビルンが『タジャラの王子でするん☆彡』って言っただけだろ? (だァれ)も疑わねぇとかおかしくね? 女の前でパンツ一丁だった男だぜ俺は。

 あんたらタジャラのアロイス第一王子の顔知ってっか? こんな顔してたか? イグニートの阿呆がそこの殿下と間違えられんのはまぁわからなくもねぇけどさ」


 突然のカミングアウトに、兄王子Aどころかその場のほぼ全員が酸素不足の魚のようにパクパクと口を動かしている。

 今度ばかりはマツリカに責める視線を送る者もいる。


 (てのひら)返しが過ぎる、とは思うが、マツリカの魅了が効果を失ったとは考えづらい。

 夕食会、実技演習、そしてコンラートの憶測まで全部含めて、マツリカの魅了は一緒にいる時間が長ければ長いほどかかりすく、また一度かかると同じ場にいる間は効果が継続する。

 説明会が始まってからずっと部屋を出ていない彼らが魅了の呪縛から逃れられるはずがないのだ。


 では何故(なぜ)

パソコンが壊れました。

代替品で入力していますが、今までと同じようにはいかず……新しいパソコンが来るまでしばらく更新が遅くなります。

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