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「でも、味は美味しかったよね」横を歩くスミレが、両腕を伸ばしながら言った。「やっぱ、ミカゲさんは、料理が上手いなぁ」
「ああ、あのフライパンさばきは、プロ並みだったな」廊下を歩きながら、ユリは言った。最後の仕上げは、結局ミカゲがやってくれたのだった。ちなみに、あまったサラダ油は他の班にわけ、なんとかことなきを得た。「しかし、もっとノートの文字は大きく書いておくべきだったな。我ながら、情けないミスだった」
「うーん、文字の大きさ、っていう問題でもなかったと思うけど……」目を細め、汗マークを浮かべるスミレ。
「そういえば」ユリはスミレを見ながら「スミレは、この後、大浴場に行くか?」
「ん、ああ、私は後にするわ。なんか今日は色々あって疲れちゃったし」スミレは片手で肩を揉みながら言った。「あ、そうだ」と、彼女はユリを見ながら「さっき、シオンがお姉ちゃんにプレゼントがあるって言ってたよ。落ち着いたら、部屋行くって」
「ん、それは楽しみだな」微笑むユリ。
「それじゃ、また明日ね」スミレは微笑みながら、ドアのノブに手をかけた。
「ああ、また明日」ユリはスミレに手を振った。
黙示録学園の生徒は、平日は寮住まいになる。スミレは、ユリの部屋から、五つほど離れた部屋だった。また、基本的に、一つの部屋に二人で住むことになっている。ちなみにスミレは、シオンと同じ部屋。
転入やら調理実習やら、色々あったが、なにごともなく、一日の授業は終了した。ただ、放課後ユリは、生徒会の仕事があって残った。スミレは、街でショッピングしていて、先程廊下で一緒に。時間はもう七時。充実していると、時間が過ぎるのが早く感じる。
ガチャリ。
ユリは自らの部屋に入り、電気をつけ、鞄をテーブルの上に置くと、二段ベッドの一階に寝っ転がった。
「ふう……、確かに、今日はなんだか疲れたな」
「私が、その疲れを癒してやろうか?」
「ああ、頼む……。ん? ちょっと待て」ユリは目を手で覆った。「なんだ? 疲れて幻聴が聞こえたのかな? キュアの声が確かに今……」
「ふっ、寂しいやつだな。私はここにいるではないか」顔を横に向けると、確かに、そこにキュアがいた。ふむ。どうやら、幻覚ではなさそうだ。
「……えっと」真面目な表情のまま、汗マークを浮かべるユリ。「キュア、お前の部屋は、ここだったか?」
「いや、違った。だが、しかるべきルートを使い、変えてもらった」キュアは淡々と言う。「お前の以前のルームメイトは、今ミカゲと一緒の部屋だ」
「つまり、私たちは、ずっと一緒にいれるということか」ユリは口元を緩めながら言った。「本当に、実現するとはな」
「当然だ」キュアはユリの髪を片手でとぎながら「私たちは、一心同体だ。違う場所で、寝るなんて考えられない」
「そうだな」
「さて」キュアはユリの頬を触り「ご飯にする? お風呂にする? それとも私?」
「えっと……」眉間に手を当てるユリ。
「冗談だよ」キュアは、頭の下に両腕を交差するようにあてがうと、仰向けに寝っ転がった。「そうだ……、さっき、そこの窓から景色を眺めていたんだが」
「ん? ああ、いい景色だろ」ユリは言う。「この辺は、星がよく見えるからな」
「いや、私は、星は飽きるほど見ているよ」
「ああ、そうだったな」微笑むユリ。
「でも」キュアは言った。「地球から見る星も、悪くなかった。今度、一緒に、星を見に行こう」
「ああ、そうだな」
「星は……、なんで輝いているか、知っているか?」キュアはユリを見る。
「いや」軽く首を振るユリ。
「星はな……、寂しがり屋なんだよ」キュアはベッドの天井を見つめ、呟くようにして言った。「だから、ずっと信号を送ってるんだ。誰かが、見てくれているのを信じて、な」




