第三話 微かな違和感
前回の続きです。
よろしくお願いします。
私はその後、ローブを貸してくれた黒髪の男と共に騎士団の駐在する基地に賞金首である強姦魔三人を突き出した。
どうやらこの三人の強姦魔は今まで金が無くなれば人を襲い金品を奪っては殺すを繰り返していた強盗殺人犯だった。
それに加えてダーゲットが女性であれば三人がかりで強引にねじ伏せ弄んだ上で殺害していたらしい。
(もしあの時、彼が注意を惹きつけてくれなければ今頃私は自分の尊厳を踏み躙られた上で奴らに殺されていたかもしれない。)
あの時の私は恐怖で強張ってしまい咄嗟に動けなかった。
つくづくそんな自分の非力さに嫌気がさしてしまう。
「町の安全の為ここまで運んでくださり感謝いたします。
こちら少ないですが今渡せる分の報奨金です。
額が大きいので残りは後日お渡しします。」
「……はい。」
私達は騎士達の事情聴取から解放されると犯人がそこそこの大物の賞金首三人だった事もあり、その報奨金の一部を受け取った。
中身は貰える全体の一部とはいえ無駄遣いをしなければ春までは余裕で過ごせる程度のお金が入っていた。
「俺は遠慮しておく。
俺の分の報奨金は全部この子にあげてくれ。」
彼はそう言い私の肩に手を置いた。
そして騎士は私に二人分の報奨金を渡すと基地の中へと引っ込んで行ってしまった。
「何故受け取らないのですか?」
私は彼の方を向き理由を問うた。
「俺にそんな端金は必要ない。
それに君はあんな目に遭ったばかりなのだから俺の事を気にする前に自分の事を気にかけろ。」
そう彼に正論をぶつけられ私は言い返せなくなってしまった。
「……あまり私に親切にしないでください。
こう言う時どうすればいいのかわからないので……。」
すると彼は私の目を見てこう言った。
「ただ素直に『ありがとう』そう一言言えばいいだけの事だ。」
そんな彼の不器用だが優しい気遣いに私の胸は鳴らしたことのない音を刻んだ。
なんだか格好つけられている感は否めないが、今早急にお金が必要なのも事実なので今回は素直に受け取る事にした。
「……ありがとう……ございます。
ではこのお金は有り難く受け取っておきます。」
「それでいい、まだ君は子供なのだから人の好意は素直に受け取っておくべきた。」
そう言ってその場を去ろうとする彼の背中に私は声をぶつけた。
「ですが、この礼は必ず返させて頂きます。」
「……はぁ、君案外面倒臭いんだな。」
「他人に借りを作ったままなのは嫌なだけです。」
そう言うと彼は気怠げに私の方を振り向いた。
「借りも何も俺はあの現場をたまたま見かけただけの第三者に過ぎないだろう?」
「そんなことはありません。
この高そうなローブだって貴方は躊躇いなく私に貸してくださいました。
それに此処まであの荒くれ者達を一緒に運んでもくださいました。
礼をするには充分な口実です。」
私は彼から借りたローブの胸部を握る。
「なのでこのローブの借りと恩は必ず返します。
先に言って来たのはそちらなんですからね。
他人の好意は素直に受け取っておくべきだと。」
そう言うと彼はクスリと笑った。
「フッ……こんなに強引な恩返しは初めてだな。
……これは失礼した、では君からのお礼素直に受け取る事にするよ。」
私はこちらへ向き直る彼の顔を改めて見た。
人形の様に整った顔には微かに笑みが浮かんでおり、そして不思議と視線を惹きつける真紅の瞳をしていた。
こんなに他人の顔をまじまじと見るのは初めてかもしれない。
「私は涼香と申します。
私は名乗りました、なので今度こそ貴方も名乗ってください。」
そう言うと彼は少し考えた後口を開いた。
「……ユウだ。」
「ユウですね、改めてよろしくお願いします。
では早速ですが助けて頂いた恩返しをしたいので都合の良い日を伺っても?」
「嗚呼、問題ないよ。」
そうして私とユウは明日の夕方、町の広場で落ち合うことになったのだった。
だが別れ際ふと疑問が思い浮かぶ。
(そう言えば何故ユウはあんな薄暗い路地に居たのだろう。)
ユウが居たから助かったものの、偶然にしては出来過ぎている気がした。
だが考えるよりも先に疲れが来てしまった為、ひとまず昨日と同じ安い宿へと帰り身体を休める事にしたのだった。
***
次の日、私が目を覚ましたのは日が既に山にかかり始める夕刻だった。
「寝過ぎてしまった……。」
だが久しぶりに熟睡できた為、身体はとても楽になっていた。
昨日は危ない目に会ったとはいえ結果的に臨時収入を得ることができた。
それが金銭的な余裕となり心にゆとりをもたらしてくれたのだろう。
私はベッドから起き上がり身支度を始める。
いつも身支度は最低限かつ不潔に見えない様にする事を常日頃から心掛けている。
「よし。」
身支度が整うと私は荷物を纏め待ち合わせの町の広場へと向かった。
目的地へ向かう途中、ふと空を見上げる。
今日は曇天だった昨日とは打って変わり雲ひとつない晴天で、空一面が黄昏の美しいコントラストを描いていた。
だが町の空気は日が傾いた事により尚冷たくなり、町行く人々は寒さを凌ぐ為にかなり着込んでいる様子だった。
そんな中白シャツ一枚に薄手のジャケットを羽織っただけの私は広場の中でもかなり浮いている。
「少し早く着き過ぎてしまったかな……。」
私は時間を潰す為、一人で待ち合わせ場所周辺の町を散策する事にした。
目的もなく町をぶらぶらと歩いていると夕方六時を知らせる鐘が鳴る。
そして町の人々は帰路に着き始め商店や露店も店終いを始めた。
(これではお礼の品を一緒に見る事は叶わないな。)
だが流石に手ぶらなのはあまりにもよろしくないと思い、私は店終いを始めようとしている菓子屋に駆け込みお礼の品として焼き菓子を購入した。
出会って間もないユウの好みは流石にわからないので無難に甘いものと甘くないものの両方を選んだ。
(なんとかお礼の品は買えた……あとはユウが来るのを待つだけだな。)
だが待ち合わせ場所に戻るもまだユウの姿は見当たらなかった。
空はすっかり暗くなっており、先程まで賑やかだった町は静まり返り民家からは夕飯の香りが漂ってくる。
「今日はもう来ないのだろうか。」
私がそう漏らすと背後から聞き覚えのある声がした。
「すまない…… 待たせた。」
「……遅かったですね。」
背後を振り返るとそこには待ち人であるユウが立っていた。
「夕方という約束だったのに結局こんなに遅くなってしまった。」
「いえ、気にしていません。」
どうやら急いで此処まで来たのだろう。
ユウの息は上がっており、口からとめどなく白い霧を吐き出している。
「それより昨日借りたローブと細やかですがこれはお礼です。」
そして私はユウの息が落ち着いた頃、目の前に綺麗に折り畳んだローブと先程買った焼き菓子を差し出した。
「わざわざ買ってきてくれたのか?」
「ええ、……ですがユウは何が好きか分からず、自分の目利きで買ったのでお口に合わなければ捨ててください。」
「捨てる訳無いだろう、ありがとう帰ったら頂く。」
そう言ってユウはふと優しげな笑みを浮かべ、ローブと一緒にお礼を受け取ってくれた。
「こんなお礼しかできませんが喜んでもらえたのなら幸いです。
ではこれ以上遅くなってはいけませんので私はそろそろお暇させて頂きます。」
そう別れの挨拶を済ませ私はユウの横を通り過ぎる。
「待ってくれ。」
直後、私はユウに呼び止められ後ろを振り返った。
「こんな時間に一人は危ない。
よければ近くまで送っていく。」
「……ではご厚意に甘えることにします。」
私は一瞬送ってもらうか迷ったが、人の厚意は素直に受け取れと言われた手前断ることができず、私の泊まっている宿の近くまで送ってもらうこととなった。
そうして私とユウは月と星明かりに照らされながら薄暗い夜道を歩き始めた。
「そう言えば何故ユウは私が男三人に襲われそうになっていた時、私に手を貸してくれたのですか。」
私がそう聞くとユウは少しの間沈黙した後こう返答した。
「……あの時君が男に手を引かれ路地に連れ込まれているところを偶然見てしまってね。
気になってついて行ったんだ。
そしたら君が男達に襲われていた、それを見ていたら何もせずにはいられなかったんだ。」
「……そうだったんですね。」
私はこの時微かにユウの言動に言い表せない違和感を感じた。
だが私がユウに対し疑心になっていると彼は何かを感じ取ったのか弁明をする。
「すまない、俺はあまり自分の事を話すのは得意ではないんだ。
だから代わりに君の事を聞かせて欲しい。
例えば……君は何故この町に居るんだ?
見るからにこの町の出身という感じでも無さそうだからつい気になってしまってね。」
彼は余程自分の事を話すのが苦手なのだろう。
ユウは私に半ば強制的に話題を振って来た。
「……自分探しの旅……の途中です。
諸事情あって家出中でして…… だから何処まで続いているかわからない果てしない旅です。」
そう言うとユウは静かに頷いてこう問いかける。
「その自分探しとやら何か見つかりそうなのか?」
「いえ、まだわかりません。
だけど一つだけ揺るがない目標があります。」
「どんな目標なんだ?」
私はふと瞬く星空を見上げ質問に答えた。
「この旅の果てがどんなものなのか知りたい。
そしてその途中で目にする様々な景色を脳裏に焼き付けたい。」
私は瞼の裏にこれから行くであろう国々の美しい風景を思い描いた。
「なんだか君は眩しいな。」
「……私は光りませんよ。」
私自身稀な血筋の系譜ではあるが、精霊の類とは違い光る鱗粉も光の魔法も使うことはできない。
するとユウは困った様に後ろ頭を掻いた。
「いやそう言うことでは無くて、これは比喩的な表現なのだが……まぁいい。」
「?」
「自分探しの旅の途中と言っていたが、いつかきっと見つかる。」
そう言い優しく微笑みかけるユウはまるで星の精霊の様に綺麗だった。
ユウは出会って間もない筈なのに私の話をよく聞いては心の柔らかい所にそっと触れる様な優しい言葉をかけてくれる。
だからだろう私の口からは今まで人には話せなかった事までも口から溢れていた。
「私を必要として迎え入てくれる……そんな場所があるのでしょうか。」
そう言うとユウは不意に立ち止まり私の肩をそっと抱き寄せた。
「心配しなくていい、きっと何処かに存在する。
出会ったばかりでこんな事を言うのもあれだが、俺は君のことを悪くないと思っている。」
私は思わずユウの方を見た。
だが言った本人は平然とした顔でそう言うと再び宿の方向へと歩みを進め始めた。
「えっ……ちょっと待ってください。」
さっきの思わせぶりな発言は何なのだろう。
今日起きた時までは普通だったのに、いつの間にかポーカーフェイスが保てなくなってしまっている。
だけどこれはこれで悪くないなと感じてしまっている自分が心の何処かにいた。
嗚呼、本当に調子が狂う。
だけどこの時の私はまだ知らない。
ユウのあの甘いマスクや台詞一つ一つが私を惹きつけ逃さない為の手段だという事を——
to be continued……
次回の更新は来週の金曜日を予定しております。
また見てくれたら嬉しいです。




