sideカノン
私、矢代花音は平凡な女子高生だった。
それが何の因果か異世界に召喚されて、姫巫女として世界を救うことになった。
非日常な生活に精神が病みそうになることはあったけれど、この世界で出会った仲間と支え合い、長い旅の末、私達は"英雄"となった。
仲間である聖騎士のルイゼルト・アルヴェンは貴族だったけれど、いつだって冷静でクールで、身分を笠に着ることなく対等に接してくれる人だった。
もう一人の仲間の魔眼師のフェスタは私と同じ平民出身でとても明るく情熱的な人だった。そして今では私の恋人である。
2人は性格は対極だったけれど、波長が合うのかよくじゃれあっていた。(主にフェスタから)
旅の間に私たちは色々な話をした。ルイの愛しい幼馴染ちゃんの話を聞くのも楽しかったし、フェスタは元冒険者であったのでその経験話も面白くてタメになった。私は私の世界の話をして二人を驚かせたりもした。
パーティが終わり、懐かしい記憶を思い出しながら淹れてもらったお茶でフェスタと2人で休息を堪能する。
ルイは幼馴染ちゃんの元へ行ったきり帰って来ていない。
「幼馴染ちゃん大丈夫かなあ、ルイに襲われてないかな?」
「…多分大丈夫だろ」
あれ、と違和感を抱いた彼の声。
心なしか低い気がして、フェスタの顔を見れば、何ともいえない表情でこちらを見ていた。
「どうかし、た―――わっ」
いきなり立ち上がって目の前まで来たかと思うと、フェスタは私をギュッと抱き締めた。
いきなりの抱擁に心臓がドキドキとうるさい。
「なあ、カノン」
「ん?」
「お前の悩みを俺に教えてくれないか…?」
「…え」
別の意味でドキリとなり、少し体を離してフェスタを見つめる。
悩みがあるなんて一言も言ってないし、むしろ顔にまで出さないように努めていたはずだ。
「まあ教えてくれなくても大体検討つくけど…。―――これからどうしようかって思ってるんだろ?」
素直に頷いておいた。
私にはこの世界に残るか、元の世界に帰るかという選択肢が与えられている。
旅の前に言われたことだが、全てが終わった今、決断しなければならない。
帰ることが出来ると聞いた時は驚いた。
こういう異世界召喚って呼びだすことは出来るけれど返すことは出来ないっていうのが普通だと思っていたからだ。(好きだったラノベ小説知識より)
任務を果たした1ヶ月以内に帰れるそうで、私はこの機会を逃せば二度と日本に帰ることは叶わない。帰ったとしても二度とこちらの世界に来ることは出来ないのだ。
「ねえ、フェスタ」
恋人の胸に頬を寄せ、微笑んだ。
「言ってなかったよね」
「……?」
「…元の世界には家族がいないの。父と母と姉がいたんだけど、姉は私が4歳ぐらいの時行方不明になって消息不明だし、10歳の時に父は事故で母は病気で死んじゃったの。こんな感じだから元の世界への未練がほとんどないんだ。だからね私は――」
後に続けようと思った言葉はフェスタの唇によって遮られた。
熱い舌が口内を蹂躙し、身体の力が抜けていく。
ソファに背に体を預ける私をフェスタは熱い視線で貫いた。
はあはあと肩が上下し、頬が上気して真っ赤な私を彼がどう見ているかなんて恋愛経験皆無の私でも分かる。
しかしこれ以上事に及ぶことは無いようで、フェスタは優しく私の髪を撫でた。
「カノン」
私の手を取ると、そこに唇を落とした。
「異世界人のお前を俺という恋人の存在がいることでこの世界に縛りつけたくは無かった。けどもうカノンを離したくない。一生大事にするとお前に誓う。俺と結婚してくれ!」
ぶわあと私の目から涙が溢れ頬を伝う。
最愛の彼に抱き着き、最高の笑顔で答えた。
「――はい…っ!!」