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黄昏は悲しき堕天使達のシュプール  作者: Mr.M
六章 Reality 9月

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第74話 『目には目を・・』

新学期初日。

教室は再会を喜ぶ子供達の

喧騒に包まれていた。

久しぶりに会う

クラスメイトの中には、

真っ黒に日焼けした顔も

チラホラ見られた。

ナカマイ先生は挨拶を終えると、

1人1人の顔を確かめるように、

今学期最初の出席を取り始めた。

俺はそんな教室の光景を

ぼんやりと眺めていた。


ここでは。

葉山実果の死は

すでに過去の出来事となっていた。

確かに。

葉山は隣のクラスの生徒で、

直接の接点はない。

加えて夏休み中の出来事であり、

あれから

1か月が経過しようとしていた。

わかってはいるが、

それでも子供は残酷だと思った。

いや。

それは何も子供に限ったことではない。

去る者日々に疎しは世の常だ。

だが。

俺はそう簡単に忘れることは

できなかった。

俺だけが

彼女の死が

自殺ではないことを知っている。

葉山の死は事件にすらなっていない。

葉山を殺した男は

何の罰を受けることもなく、

今ものうのうと生きている。

そんなことは許されない。

「前世」では逃げおおせたようだが、

「今世」ではそうはさせない。

犯人には必ず罪を償わせる。


葉山を殺した男は、

葉山のお腹の子の父親であり、

この学校の教師でもある。

そこから考えると、

犯人はかなり限定される。

教師が特定の生徒と親密になるのは、

意外と難しい。

受け持ちのクラスの生徒でなければ、

そのハードルはぐんと上がる。

実際。

6年生の担任であれば、

俺も把握しているが、

他の学年の教師となると、

名前すらわからない。

つまり。

他の学年の教師が、

葉山に近づくのは困難だといえる。

そして。

6年生は全部で3クラス。

俺達3組の担任のナカマイ先生は、

女性であるため、

当然に除外される。

残るは2人。


1人は1組の担任である一色拓海。

一色はノリの軽い気障な男だった。

軽くウェーブの掛かった髪が

少しでも乱れると、

スーツの胸ポケットに

刺さっている櫛ですぐに整えられた。

明るい性格というよりも、

俺の目には、

学生気分が抜け切れない

社会人1年目のように映った。

それでいて、

実際は30歳を超えているというから

驚きだった。

一色拓海はボス猿とは違って、

子供達からは人気があった。

男子生徒からは「ヒーロー」と、

女子生徒からは「拓ちゃん」と、

まるで友達のように慕われていて、

本人も咎めることはなく、

その呼び名を受け入れていた。

「前世」では、

俺も変わった教師がいるな

という程度には認識していた。

しかし。

今改めて考えると、

明らかに異端と言わざるを得ない。

一色拓海ならば、

葉山も気を許した可能性がある。


そして。

2組の担任である猿田権造は当然、

葉山と最も接点がある

有力な容疑者だった。

ボス猿に関しては、

疑わしき過去がある。

さらに。

女子生徒の着替えを覗く

という余罪まである。

少女に対する如何わしい執着。

所謂ペドフィリア。

わかりやすい言葉で言えば、

小児性愛。

それに。

将来ボス猿はナカマイ先生と結婚する。

葉山の妊娠がボス猿にとって、

都合が悪いことに変わりはない。

つまり。

葉山を殺したのは、

ボス猿の可能性が高い。

それが俺の出した結論だった。

そして。

もしボス猿が犯人である証拠が

見つかったら。

どうする?

この国の司法に委ねるのか?

しかし。

それでは葉山の妊娠も明らかになる。

それに。

この国では

被害者の無念よりも

加害者の救済が優先される。

命の代償が

たかが10年の懲役ならば、

死者は浮かばれない。


『目には目を・・』


その声に俺は慌てて首を振った。


『熊谷大吾は上手く殺せたじゃないか』


違う。

あれは事故だ。

俺はすぐに心の声を否定した。


『そうだ。

 あれは事故だ。

 事故にみせかけろ。

 そういう工作は得意だろ?

 それに。

 誰も子供のお前が殺したなんて

 思わんよ』


俺は大きく深呼吸をして、

額に滲む汗を拭った。

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