第136話 手品の種明かしはルール違反
「・・その誰かが俺だと言いたいのか?」
俺は小さく息を吐き出した。
「ホーホケキョ」
どこかで鶯が啼いた。
「こ、これまで・・。
な、何度も・・。
お、同じ1年間を、
く、繰り返してきたけど・・。
こ、この1年は特殊だった・・。
あ、明らかに・・。
き、君の言動がおかしかった・・。
き、君は・・。
ぼ、僕の知ってるあっくんとは、
ち、違う・・。
き、君は誰・・?」
池田の目は微かに怯えていた。
しかし。
俺は池田の問いに対する答えを、
持ち合わせていなかった。
俺は大きく首を振った。
「俺は・・」
そして出かかった言葉を飲み込んだ。
池田の話はどこまで本当なのか。
悪い夢を見ているような気がした。
俺は池田に気付かれないよう
太ももをつねった。
はっきりとした痛みを感じた。
池田の話で
「前世」における長年の謎は解けた。
解けた・・のか?
「き、君が・・。
く、熊谷君・・。
さ、猿田先生・・。
そ、そして・・。
て、勅使河原校長を・・。
こ、殺したの・・?」
「俺は・・」
その時。
校庭の方から、
校歌を歌う子供達の声が
聞こえてきた。
「・・大吾もボス猿も。
殺してないよ」
俺は大きく息を吸い込んだ。
「それでも。
俺は2人の死に責任を感じてる」
これは本心だった。
「ふ、2人・・」
池田が消え入りそうな声で呟いた。
「・・もういいか?
皆が待ってるから俺は行くぞ」
俺はこれ以上、
池田と話すつもりはなかった。
池田の横を通り抜け、
そのままドアへ向かった。
「・・そ、相馬さんのために!」
背後から池田の声が飛んできた。
池田がこんな大きな声を出すのを
俺は初めて聞いた。
俺はゆっくり振り向いた。
「き、君は・・。
て、勅使河原校長を・・。
こ、殺したんだよね・・?」
俺は小さく溜息を吐いた。
「そう聞かれて、
認める人間なんていないだろ?
それに。
謎は謎のままにしておいたほうが
いい時もある」
池田は力なく肩を落とした。
そして消え入りそうな声で呟いた。
「そ、それでも・・。
ぼ、僕は知りたい・・」
俺はもう一度、
今度は大きく溜息を吐いた。
「どうしても知りたければ、
自分で調べろよ。
得意だろ?
名探偵」
「ぼ、僕にはもう・・。
じ、時間がないから・・。
そ、それに・・。
つ、次に会う君が・・。
い、今の君とは限らないから・・。
こ、この1年の謎だけは、
ど、どうしても・・。
き、今日中に、
と、解き明かしたいんだ・・」
池田はそう言って、
唇を噛み締めた。
俺はポケットに手を突っ込んだ。
ひんやりとした金属に手が触れた。
あの日以来。
俺はずっとこれを持ち歩いていた。
いつでもあの扉を開けて、
その先の光景を確認できるように。
しかし。
俺にその勇気はなかった。
教師達は日々の業務に忙殺されて、
屋上の存在など
忘れているようだった。
冬休みの間に。
校舎の裏の勅使河原の車は
どこかに移動させられていた。
そして。
姿を消した勅使河原は
行方不明者として扱われていた。
校長室の私物も、
特に荒らされた形跡がなく、
事件性はないと結論付けられたのだ。
「手品の種明かしはルール違反だ」
俺の言葉に、
池田は悲しそうな表情を浮かべた。
池田は一体どれほど
この1年を繰り返しているのだろうか。
そして。
それに終わりはあるのだろうか。
無間地獄。
そんな言葉が頭に浮かんだ。
ただひっそりと、
同じ1年を繰り返している
池田のことを考えると、
俺は少しだけ胸が痛んだ。
「・・種明かしはルール違反だが、
ヒントくらいは出してもいい」
俺はポケットから取り出した鍵を
池田に投げた。
鍵を掴んだ池田は
不思議そうに首を傾げた。
「こ、これは・・?」
「文字通り。
お前の謎を解いてくれる鍵さ」
そして俺は教室を出た。
池田は、
鍵が屋上の扉のものだと
気付くだろうか。
勘のいい池田のことだ。
気付くに違いない。
手掛かりならいくつかある。
扉を開けた池田はどうするか。
外を確認した池田は、
そっと扉を閉じる。
そして。
ふたたび鍵を掛けるだろう。
密かに想いを寄せていた
相馬の犯罪を見逃したように。
なぜなら。
彼は傍観者だから。
End




