↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黄昏は悲しき堕天使達のシュプール  作者: Mr.M
九章 Revenge 12月

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
118/136

第118話 悪夢の始まり

沈みかけた太陽が

微かに西の空を紅く照らしていた。

茜を先に帰らせて、

俺は1人屋上に残っていた。

ほんの数分前に、

茜を抱きしめた時の温もりが、

まだ俺の腕に残っていた。

俺は馬鹿だ。

気が付かなかった。

最近の茜の様子にも。

あの日、

屋上の扉の影から

俺の様子を窺っていた2人にも。

俺は目の前の現実に

目を奪われ過ぎて、

後ろが疎かになっていた。



あの日。

茜は俺の様子が

普段と違うことに気付いて、

こっそり俺を見張っていたのだ。

俺の姿が屋上へ消えた後、

茜は閉まった扉の前で逡巡した。

そして。

意を決して扉を押した。

か弱い少女1人の力では、

重い鉄の扉を開けるのは、

思った以上に重労働だった。

その時。

ふいに。

扉が軽くなった。

その理由はすぐにわかった。

茜が振り向くと、

そこには見たことのない

大人の男が立っていた。

男は白髪のオールバックに、

黒いサングラスをかけていて、

口髭を生やしていた。

男は人差し指を口に当てて

「しーっ」

と合図をした。

それから。

2人は僅かに開いた扉の隙間から

外の様子を窺った。

「あそこにいるのは、

 君のお友達かい?」

小声で訊ねる男に、

茜はこくりと頷いた。

「大切なお友達なのかな?」

茜はもう一度頷いた。

次の瞬間。

フェンスを乗り越える俺の姿が見えて、

茜は驚きのあまり、

声を上げそうになった。

茜は俺が飛び降りると思ったらしい。

後ろの男の手が茜の口を塞いだ。

そして。

次に男が発した言葉は

茜をさらに驚かせた。

「どうやら君のお友達は

 『ひとごろし』のようだね。

 『ひとごろし』は

 『しけい』だって知ってるかい?」

茜は男の言葉の意味が

わからなかった。

なぜフェンスを乗り越えただけで、

『ひとごろし』になるのだろう。

首を傾げる茜に、

男はさらに言った。

「ついてきなさい。

 彼が『ひとごろし』である証拠を

 見せてあげよう」

茜は男に促されるまま階段を下りた。

男は1階までくると、

靴を履き替えずに外へ出た。

男は人目を気にしているのか、

周囲をキョロキョロと窺いながら、

隠れるように校舎の壁に沿って歩いた。

茜は男の後ろに続いた。

しばらく進んだところで、

男の足が止まった。

茜が男の背後からそっと前を覗くと、

花壇に倒れている人間が見えた。

「きゃっ」

茜はすぐに男の背後へ隠れた。

そして。

恐る恐る顔を出した。

倒れている人間が着ている服から、

茜はその男がボス猿だと理解した。

「わかったかい。

 君のお友達は猿田先生を

 屋上から突き落としたんだよ」

男の言葉に、

茜は心臓が飛び出るほど驚いた。

その時。

「うぅぅ」

という声が聞こえた。

声の主はボス猿だった。

茜は驚いて男の上着を掴んだ。

「おやおや。

 どうやらまだ息があるようだ」

「た、た・・す・・け・・」

ボス猿は苦しそうに喘いだ。

「ふぅ。

 困ったね」

そう言って、

男は首を捻った。

「君はお友達が

 『しけい』になっても

 いいのかな?」

男は振り返って茜に尋ねた。

「この国では

 『ひとごろし』は『しけい』

 と相場が決まっているんだよ」

難しい話はわからないが、

『しけい』という制度は知っている。

茜の目から自然と涙がこぼれた。

「お友達を助けたいかい?」

男はしゃがみ込んで、

茜に目線を合わせた。

だが。

男の目はサングラスに隠れて、

見えなかった。

茜は涙を拭いながら、

こくりと頷いた。

「では。

 私と『けいやく』しよう。

 そうすれば。

 君のお友達は助かる」

男は茜の耳元でそう囁いた。


男がゆっくりとボス猿に近づいていった。

「た、た・・す・・け・・」

息も絶え絶えのボス猿が、

微かな声を漏らした。

男は倒れているボス猿の側に立って、

辺りを見回した。

そして。

近くに落ちていた

煉瓦の欠片を拾い上げると、

茜の見ている前で、

それをボス猿の頭に叩きつけた。

2度、

3度と叩きつけるたびに、

花壇に鮮やかな鮮血が飛び散った。

「猿田先生が生きていたら。

 君のお友達にとって不利になる。

 こうするのが一番いいんだよ」

茜は恐怖のあまり声を出せなかった。

「これで君と私は『きょうはん』だ。

 もしこのことが誰かに知られたら、

 今度は君と私が

 『さつじんざい』で

 『しけい』になる。

 でも。

 私に任せておけば、

 心配することはない。

 ただし。

 『けいやく』を破ったら、

 君もお友達も

 大変なことになるからね。

 忘れるんじゃないよ」

男はそう言って笑った。

男は茜に名前と学年、

そしてクラスを聞いてから、

帰るように言った。

しかし。

茜は帰らなかった。

俺のことが心配で、

靴箱で待っていたのだ。


それからしばらくして。

ボス猿の死は自殺として処理された。

さらに数日後。

登校した茜の靴箱に

1枚の紙が入っていた。


『次は君が私との約束を果たす番だ。

 放課後。

 誰にも言わずに、

 1人で屋上へ来なさい』


茜は紙に書かれた通り、

放課後1人で屋上へ行った。

封鎖されたはずの扉が、

なぜか開いていた。

扉を開けると見覚えのある男がいた。

白髪のオールバックに

黒いサングラス、

そして口髭。

男は茜に気付くと手を挙げた。

「誰にも見つかってないかい?」

茜は小さく頷いた。

男は扉を閉めてから、

茜を屋上の中央へ誘った。

そこには毛布が広げられていた。

男は茜をその上に座らせると、

「これは『けいやく』だ。

 君には拒む権利はない」

と言って、

茜を毛布の上に押し倒した。

突然のことに。

茜は声を上げることすらできなかった。

恐怖で体が強張った。

耳元で男が

「大人しくしていたら、

 すぐに終わるからね」

と囁いた。

下着が下ろされ、

足が開かれたと思うと、

男が侵入してきた。

直後。

下腹部に激痛が走り、

茜の口から声が漏れた。

すぐに男の手が茜の口を塞いだ。

男が動くたびに、

鋭い痛みが体の奥を襲った。

茜は目を閉じてその痛みに耐えた。

徐々に男の動きが速くなり、

それにつれて痛みも増していった。

意識が朦朧とし始めた時、

終わりは突然やってきた。

男の体が小さく震えて、

茜の股の間を生温かいモノが濡らした。

男が茜の体から離れた。

「この痛みは『ばつ』だよ。

 君が『ばつ』を受けることで、

 君の大切なお友達は救われる。

 それにね。

 人という生き物は

 痛みに慣れるんだよ。

 そして。

 痛みの先には快楽が待っている。

 痛みと快楽は紙一重。

 君もすぐに、

 その快楽を知ることになる」

そう言って、

男は茜の頭を撫でた。

「さあ。

 あとは『けいやく』について、

 もう少し話をしておこう」

男は呆然としている茜に

淡々と語りかけた。


1つ。

男との関係は誰にも言わないこと。

2つ。

男との連絡は茜の靴箱を使用する。


男は茜に復唱させた。

茜は言われるがまま機械的に

男の言葉を繰り返した。

「君は誰かさんと違って素直な子だ」

最後に男は茜にそう言った。


茜の悪夢はこの日から始まった。


実際。

茜が何度、

男の欲望の犠牲になったのかは

わからない。

茜も言わなかったし、

俺も聞けなかった。

俺はただ、

小さな少女の体を優しく抱きしめた。

俺の腕の中でむせび泣く少女に、

俺は心の中で何度も謝った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。