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黄昏は悲しき堕天使達のシュプール  作者: Mr.M
一章 Reunion 4月

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第11話 伏線

4月も残すところあと数日となった

ある日の放課後、

俺は教室を出ようとしていた奥川を

呼び止めた。

そして。

授業の進み具合について訊ねた。

この時期に授業の進捗状況など

無きに等しかったが、

奥川は嫌な顔ひとつせず、

丁寧に答えてくれた。

実のところ。

奥川は相馬とクラスで1位、2位を

争うほど成績が良かった。

この日を境に。

俺と奥川は週に1、2度、

放課後の教室で、

勉強をするようになった。

「今世」で初めて知ったことだが、

奥川の両親は、

世界的に活躍している音楽家で、

現在は海外に住んでいるらしい。

そして。

奥川は年の離れた姉と、

2人で暮らしているとのことだった。

晩御飯は、

基本的に奥川が作っていたため、

俺と奥川に与えられた放課後の時間は、

長くはなかった。

それでも。

俺達の距離は、

一歩一歩確実に縮まっていた。

それに比例して。

大吾の俺に対する嫌がらせも、

エスカレートしていった。


ある朝。

登校して上履きに履き替えたところ、

足にチクリと痛みが走った。

上履きの中に、

画鋲が仕込まれていたのだ。

またある日の授業中。

教科書が数ページにわたって、

破られていることに気付いた。

大吾の方を見ると、

案の定、

ニヤニヤと笑っていた。

当然。

これらを

大吾がやったという証拠はない。

大吾は表向きには、

いじめとバレないように

細心の注意を払っていた。

別の日の給食時間。

お盆を持っていた俺に、

大吾がぶつかってきた。

俺はその場に尻餅をつき、

体にカレーを浴びた。

この時も。

大吾は事故だったと主張した。

ナカマイ先生の前で、

大吾はしきりに頭を下げていた。

俺は午後からの授業を

体操着で過ごす羽目になった。

俺達のクラスは昼休みには

「ドッジボール」か

「警泥」で遊ぶのが恒例だったが、

「ドッジボール」は

大吾にとって合法的に

俺を痛めつけることができる

絶好の機会だった。

一方で。

男女に分かれてチームを組むことが

多かった「警泥」には、

俺は加えてもらえなかった。

そんな時。

俺は教室で過ごしたが、

それも悪くはなかった。

教室には相馬沙織がいたからだ。

彼女はいつも机で本を読んでいた。

俺が相馬に話しかけたのも、

「警泥」で仲間外れにされた

ある日の昼休みのことだった。


「何を読んでるんだ?」

相馬はチラリと俺を見ると、

本を持ち上げて表紙を俺の方へ向けた。

そこには

『占星術殺人事件』

という文字が書かれていた。

はたして。

「占星術」

という漢字を読める小学6年生が

どのくらいいるだろう。

俺はまずそんな疑問を抱いた。

殺人事件ということは、

所謂ミステリ小説の類だろう。

彼女にそんな趣味があったことを

俺はこの時初めて知った。

「面白いのか?

 ・・それ」

「どうかしらね。

 一応、

 傑作と称されている本だけど」

相馬は俺の方を見ずに、

素っ気なく答えた。

そんな彼女に

俺はどう返せばいいのか、

わからなかった。

それから彼女は

ふたたび俺をチラリと見ると、

「後学のために、

 人類史上最高のトリックが

 どういうものか。

 勉強しておこうと思って」

そう付け加えた。

その時。

俺は窓際の一番後ろの席に

座っている男に気付いた。

男は俺と目が合うと、

ぎこちなく笑った。

昼休みの教室に、

俺と相馬以外の人間がいたことに、

俺はまず驚いた。

誰だろう。

あんな生徒が、

このクラスにいただろうか。

俺は記憶の糸を手繰ったが、

その先は空しく途切れていた。

「あのさ。

 あそこに座ってる奴、

 誰だっけ?」

相馬は俺の言葉に振り返った。

「何言ってるのよ。

 池田くんでしょ。

 池田圭くん」


池田圭(いけだ けい)


しかし。

その名前を聞いても、

俺は彼について、

何も思い出せなかった。

「ねえ。

 もういいかしら?」

「あ、悪い」

相馬との初めての会話は、

こうして終わった。

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