希望
あれから。
昨日も、今日も、何度も戦いに行ったけれど、誰ひとり大きな怪我もなく、無事に帰ってこれた。そのことが、まず一番嬉しい。
戦いの前には、みんなで円陣を組んで声を合わせる。
「油断すんなよ!!」
「おぉ!!」
バーツの低い声がまとめてくれると、どこか心が落ち着く。今日の草原も、虫が散発的に出てくる。だけど油断はしない。
ウーさんは、今日も跳ねていた。
「ぴょんっと飛んで、ぐさぁっ! ぴょんぐさっ!」
新調した小ぶりの槍を手に、軽やかに跳ねて敵の目や関節を的確に突く。
「あぁ〜、これやこれや〜! この軽さが俺の命やねん!」
笑いながらも、その目は鋭い。小さい身体の分、急所を突く技術は誰より高い。小さな兎が虫の大顎を受け止めて吹き飛ばす瞬間、ちょっと目を疑った。嘘でしょ?
「見たかぁ! 跳ねる脚力は伊達ちゃうんやでぇ!」
一方、ドンダさんはドスンと構えていた。新調した大槍は本人の体の半分以上の長さと太さがあり、もう、まるで木だ。
「んしょっ!!」
その一振りで、蟻が三匹、一気に吹っ飛んだ。技術じゃない、力! を体現している感じだった。
「すごいけど、それ、絶対真似できない……」
横のリックさんが引き気味につぶやく。
サムさんはとにかく鮮やかだった。跳ねるようにステップを刻みながら敵の後ろに一瞬で回り込み、背を取って一閃。
「俺がやる――ドンダ、あとは頼んだ」
虎の模様が踊るように揺れて、気づけば二体目を仕留めていた。
「ふっ、俺、優雅すぎねぇか?」
「……うるさい」
ジャンさんがぼそっと返す。ジャンさんは一歩も引かず、前線の壁だ。二体の虫を同時に相手にしていても、表情は変わらない。
「来いよ。俺は、倒すだけだ」
冷静に、誰より敵の動きを読み、確実に止めていく。
「ジャンの一撃は、無駄がありませんね」
「褒めてるのか?」
「もちろん、褒めてますよ」
ブルーさんはチーム全体を見ていた。一歩下がった位置から仲間をカバーし、気づいたら援護に入っている。
「後ろは私が!」
「サム、左側です」
警戒と支援を同時にこなす姿に、皆が信頼を寄せていた。
そしてリックさん。一番繊細で、一番周りを見ている。虫の位置を瞬時に読み取って、的確に仲間へ指示を出す。
「ウーは、左の敵から」
「ドンダ、前に出すぎない。一歩下がれ」
「バーツは……止められないね」
そして、バーツ。
彼は相変わらず、ど真ん中を貫いていた。ルル剣を肩にかけて魔法陣を発動させると、周囲一メートルが灼熱の炎に包まれる。
「……燃えろ。邪魔だ」
炎を引き連れて突進する姿は、まるで戦場の中心そのものだった。
「ひゃぁ! かっこいい!!」とウーさんが跳ねながら言っていたけど、私も内心では完全に同意していた。
その剣の爆発的な威力に引き寄せられてか、他のオスたちが日に日に興味を示し始めていた。
「俺も、あの棒がほしい」
「どうやってあんな火が出るんだ……」
「魔石って……俺でも使えるのか?」
気づけば、参加希望者がぽつりぽつりと現れはじめた。新しい仲間が増えて、戦いの輪が広がっていく。希望がある戦いが、こんなに嬉しいなんて知らなかった。
仲間が、誰一人、欠けることなく帰ってくる。そんな日が、毎日続くなんてな。信じられねぇ。
地獄みてぇな戦場で、俺たちは生きていた。命なんざ、風に舞う埃みてぇに、軽く吹っ飛ぶ。
胴を食いちぎられりゃ、手足が残っていたって意味はねぇ。逆に胴だけ残っても、足を持ってかれりゃ、生きていても地獄だ。
動けなきゃ、食えねぇ。食えなきゃ、借りる。借りが積もりゃ、最後は"重要任務"ってやつに行くしかねぇ。
――重要任務? クソが。笑わせんな。ただの囮だ。餌だ。
動けねぇオスを虫の群れに投げ込んで、食うのに夢中になっているところへ上から魔法を落とす。そういう仕組みだ。
わかってるから、動けなくなったヤツは、自分で自分を終わらせる。生きたまま喰われるより、マシだからな。
だからだ。皆で、無事に、手も、足も、命も、希望も、持って帰ってこれる日が来るなんて、考えたこともなかった。
なあ、俺のツガイ。
おまえは、もう長いこと凍えていたせいで、何も感じなくなっちまっていた俺に温もりをくれた。けどよ。まさか希望までくれるなんてな。
……まったく。
これ以上、どうやって惚れりゃいいんだよ。




