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【化ける深化】

使い魔達と一緒に暮らし、共に生きて。二年の月日が経過し。リアルも少女から成人となる歳になった頃。 リアルは、使い魔達に関してある悩みを抱えていた。それは――、


「どう? 先月の誕生日で18歳にもなったし。髪を切って、少しさっぱり。目を隠さないスタイルにしてみたんだけど」


「あァ、とても可憐で似合っているぜ」


「可愛い~!最高! より、魅力が引き出されているね! 」


「ええ、綺麗ですよ。今まで以上に似合っています」


「美しさが格段にアップしましたね。とても素晴らしいです! 」


使い魔達の言動が月日を重ねるにつれて、優しく甘くなっているという事。

いや、正しくは。二年前の契約を解約するという嘘の手紙事件以降、突如として度を越したように、異常なまでに優しく甘くなっている事が悩みの種となっていた。


最初の頃は、心を開いてくれるようになったと思い。いきなり、優しく甘くなっても違和感は抱かなかったが。 一ヶ月、重ねるにつれて。経過するにつれて。その優しさと甘さは異常を感じるほど重くなっていき。 半年を過ぎた頃には、自分が何をしようが褒め称え。自分の言動全てをいい方向に肯定して。正直、しつこいくらいにスキンシップや甘い言葉を囁いてくる等の積極的な愛情表現が多くなり、赤の他人や第三者、敵対する可能性のある人物や魔物等に対しては異様なまでに憎悪・嫌悪・敵意・殺意を遠慮なく見せるようになるなど、悪化とも捉えられる成長を遂げて。二年が経過した今では、自分一人でいる事の方が滅多にないほど。四六時中、離れず付いてきている。


それほどまで、使い魔達の言動は異常なまでに優しく甘い。

使い魔達の一体、ウィンに関しては。創り生み出した時から優しく甘い言動をしていたが。今現在は、それが断然にマシだと思えるくらい、表せるくらいに重さが完全に違っている。まるで、想いや愛が病んでしまう方向で深化し化けてしまったような感じの状態。


一応、心当たりとして。一因となっているものとして。

二年前に起きた、契約を解約するという嘘の手紙。今ではある意味、事件として片付いている事のせいだと思えるが。 それが、本当にそうだとしても。此処まで、重くなるだろうか。多少なり、ショックやトラウマを背負っていたとしても。今では、そんなこともあったと。笑い話になっているほど、和解し解消解決済みであるから。重くなるなど、ありえないはず。しかし、それ以外の理由や原因が見つからず、心当たりが無いも事実。使い魔達の優しく甘い言動は心の底からのモノというのも事実であることに変わりはない。だとすれば、本当にこれが原因か。いや、それとも違うのか――。


そう、表に出すことはせず。使い魔達には気づかれないように。悟られないように。密かに心の中でリアルは悩んでいた。 本当に嘘の手紙によることが引き金と原因になり、より凶暴な魔物としての本能と最愛する者に対して熱情や愛情、心からの想いが目覚めてしまったことに気づかず。知らずに――。



―――



使い魔達の一体、サマー・ブレイズフレイムは。

常に日頃から、主人であるリアルに対して。熱く燃え上がった想いと愛を心の底から抱きながら接し。 自分の恋路を邪魔する者に対しては、焼き殺すような言動を繰り返しながら、傲慢に暴力的に接しており。 今日もまた、その熱く燃え上がった想いと愛で。リアルを優しく甘やかし。珍しく一人になった時は。 一途で、一方的で、異常で、異様な、重く深化した想いと愛を膨らましていた。



(あるじ)は、いつ見ても可憐で愛おしい。言動の一つ一つが可愛くって仕方がない。いつまでも眺めていたくなるほど好きだ。


(あるじ)は、どんな時でも優しく接してくれている。どんな事にも温かく見守ってくれている。 その(あるじ)の優しさと温かさに全力で甘えたくなるほど好きだ。


(あるじ)の作る料理は美味しく想いが詰まっていて好きだ。永遠に味わっていたくなる。


(あるじ)の事を愛している。全てにおいて愛している。俺様には(あるじ)しかいない。


(あるじ)は、俺様が告白したら。どんな反応をするだろうか。ちゃんと俺様の想いと愛に、恋愛の意味で答えてくれるだろうか。応えるのだろうか。――いや、きっと(あるじ)の事だ。恋愛の意味では誰とも付き合わず、一緒に月日を重ねていくことはしないと冷静な決断を口にするだろう。だから、俺様一人だけの為に生きてくれることはしない。


正直、言って。寂しくも辛い事だが。(あるじ)がそう望んでいるのだから、そう求めているのだから。 (あるじ)の幸せを護るためにも。今は告白しないでおこう。(あるじ)の幸せを燃やすことはしたくない。(あるじ)が悲しむ事はしたくはない。(あるじ)に生き地獄な辛い思いはさせたくない。


だからこそ、邪魔する者は全て焼き尽くさなければならない。

そいつが同僚であうと、同族であろうと、味方であろうと、敵であろうと、関係の無い赤の他人で第三者だとしても。 邪魔になるのであれば。俺様の恋路を邪魔するのであれば。(あるじ)の幸せを邪魔するのであれば。 夏の暑さと灼熱の炎で燃やして、炙って、焦がして、溶かして、焼却するのみ。


赤く広がる血の熱を見下し不敵に嗤いながら、憎悪・嫌悪・敵意・殺意で邪魔者をドロドロになるまで。 永遠と。永久と。永続と。終わり無く――と。


そして、燃え上がる感情・思考・気持ち・想い・愛で主だけを幸せにさせる。

悲しい思いも。辛い思いも。生き地獄なんて来ない未来を満足に与えさせる。

(あるじ)が縋り求める事は全て叶える。


俺様は(あるじ)を愛しているから。

その程度の事、容易い。火の粉を生み出すよりも簡単。何だって出来る。それぐらいのこと出来て当然だ。


俺様は(あるじ)を最愛しているのだ。

だから、炎を消すような真似はしない。邪魔者は徹底的に焼却する。(あるじ)の幸せを護る。 永遠に。永久に。永続に。全てにおいて終わり無くなァ――?


(あるじ)? 」


「うん? どうしたの、サマー? 」


「愛しているぜ」


「え…、あはは。ありがとう、サマー。私も愛しているよ、サマーのこと」



そう、サマー・ブレイズフレイムは、一途で、一方的で、異常で、異様な、重く深化した想いと愛を膨らまして。 今日も、燃え上がる想いと愛で生きていく。この先に起こる未来など知らずに。邪魔者よりも危険な者が迫っていることに気づかないまま。



―――



使い魔達の一体、リング・ストームエアーは。

常に日頃から、主人であるリアルに対して。温かく浮かれた想いと愛を心の底から抱きながら接し。 自分の恋路を邪魔する者に対しては、切り裂くような言動を繰り返しながら、狡猾に陰湿的に接しており。 今日もまた、その温かく浮かれた想いと愛で。リアルを優しく甘やかし。珍しく一人になった時は。 一途で、一方的で、異常で、異様な、重く深化した想いと愛を膨らましていた。



主人はいつ見ても魅力のある美しい人だ。言動の一つ一つに心が奪われて盲目になってしまうほど好きだ。


主人は優しい眼差しで見守ってくれて。どんなに大変な事でも付き合ってくれる寛容な心を持っている。 そんな主人の寛容さには永遠と甘えていたいほど、好きだ。


主人の声は実に魅力が溢れていて、いつまでも聞いていたほど心地よく好きだ。


主人の事を愛している。全てにおいて愛している。ワタクシには主人しかいない。


仮にワタクシが主人に告白したら、どんな声色をしてくれるだろうか。この想いと愛を受け止めてくれるだろうか。魅力のある返事をしてくれるのだろうか。――いや、きっと主人の事だから。ワタクシを一人だけを構うようなことは決してしない。気持ちは受け入れるも、恋愛としては発展させないだろう。お互いの為にと。


正直、恋愛として見られず来ないのは寂しく辛いが。主人は求めていないのだ。望んですらいないのだ。 だから、その主人の想いを尊重するためにも。ワタクシの恋心はそっと胸にしまっておいた方がいい。 今まで通り、一緒に楽しく。魅力のある日々を過ごすのが一番。


――だからこそ、決意や想いを邪魔する者は絶対に許さない。切り裂かなければならない。 相手が同僚であうと、同族であろうと、味方であろうと、敵であろうと、関係の無い赤の他人で第三者だとしても。 邪魔になるのであれば。ワタクシの恋路を邪魔するのであれば。主人の想いを邪魔するのであれば。 ワタクシは手加減しない。痒く苦しい春と鋭利な風で切って、裂いて、飛ばして、流して、片付けるのみ。


紫に飛ばされる血の冷たさを見下げて不気味に嗤いながら憎悪・嫌悪・敵意・殺意で邪魔者をドロドロになるまで。 永遠と。永久と。永続と。閉幕無く――と。


そして、温かく浮かれた感情・思考・気持ち・想い・愛で主人だけを幸せにさせる。 主人の想いを尊重し続け。魅力のある日々を一緒に楽しく過ごしていく。 どこまでも、いつまでも、永遠に。永久に。永続に。


ワタクシは主人を愛しているから。

このくらいのこと、平気で何ともない。お安い御用さ。魅力が尽きない事は無い。


ワタクシは主人を最愛しているのだ。

だから、時には道化師のように踊り回って。日常という舞台を盛り上げていく。

邪魔者は一人残らず、様々な風で切り裂いて、排除していく。

本当に終わる事の無い、退屈になる事の無い日々をずっと維持していくのさ。何があっても――。


「主人! 」


「お、どうしたの? リング。何か、面白い事でもあった? 」


「主人の事、愛しているよ! 」


「…え、なんと。…ふふっ。ありがとう、リング。私もリングの事を愛しているよ」



そう、リング・ストームエアーは、一途で、一方的で、異常で、異様な、重く深化した想いと愛を膨らまして。 今日も、温かく浮かれた想いと愛で生きていく。この先に起こる結末など知らずに。邪魔者よりも魅力の無い者が追ってきているのに気づかないまま。



―――



使い魔達の一体、フォール・クロックデザートは。

常に日頃から、主人であるリアルに対して。盛り上がり数え切れないほどに重なった想いと愛を心の底から抱きながら接し。 自分の恋路を邪魔する者に対しては、窒息させるような言動を繰り返しながら、冷酷かつ厳罰的に接しており。 今日もまた、盛り上がり数え切れないほどに重なった想いと愛で。リアルを優しく甘やかし。珍しく一人になった時は。 一途で、一方的で、異常で、異様な、重く深化した想いと愛を膨らましていた。



ご主人様はいつ見ても私達の為にと努力を惜しまず、自分を鍛え続けている。そのひたむきに真面目に取り組む姿は素敵で、見習いたいと尊敬し憧れを持つほどに好きだ。


ご主人様は月日を重ねるにつれて、より鮮やかに輝きを魅せ。約束と契約を守って護り抜く意志は実に素晴らしく、より惚れ惚れしまうほど好きだ。


ご主人様の瞳や視線は時に温かく優しさに溢れていて、時に鋭く冷たくなって厳しさを満ちさせていて。 その変わりようには、こちらも視線を返してしまうほどに。盲目となって好きだ。


ご主人様の事を愛している。全てにおいて愛している。私にはご主人様しかいない。


私のこの想いと愛の全てをご主人様に伝える形で告白したら、どうなるのだろう。私が願い求める答えを出してくれるのだろうか。私だけの為に生きることへ変更してくれるだろうか。――いいや、ご主人様は誰かだけを一番に選ぶことはしない。そんな野蛮で不純な事はしない。平等に愛する事を決めたら、守り抜く人だ。私だけの為に生きるという変更は絶対にしない誠実な人だ。


正直なところ。告白しても望み通りの結果にならないのは悔しく辛い。

しかし、ご主人様は贔屓せず平等に愛し、殺される覚悟で、死ぬ覚悟で、私達使い魔を満足に幸せにしようと生きてくれている以上は。告白することには蓋をして、ご主人様の思考と生き様を尊重し、これからも支えていくべきだろう。私の想いと愛よりも。ご主人様が幸せに生きてくれていることが重要であり大切で、私にとっても幸せなのだから。


そう、だからこそ。ご主人様の思考を無視し生き様を貶すような輩や邪魔者は原型がとどめなくなるまで、厳罰的に罰を与えなければならない。全て土の中へと埋め尽くさなければならない。たとえ、それが。同僚であうと、同族であろうと、味方であろうと、敵であろうと、関係の無い赤の他人で第三者だとしても。赤子や幼い者だとしても。何だとしても。邪魔になるのであれば。邪魔をするのであれば。私の恋路を邪魔するのであれば。ご主人様の幸せを邪魔するのであれば。当然以上の報いを与え。秋の鋭さと盛り上がった土で塞いで、埋めて、積もらせ、砂へと変えていくのみだ。


青く巻かれる血の濁りを見つめて威風堂々に嗤いながら憎悪・嫌悪・敵意・殺意で邪魔者をドロドロになるまで。 永遠と。永久と。永続と。取り返しも無く――と。


そして、盛り上がり数え切れないほどに重なった感情・思考・気持ち・想い・愛でご主人様だけを幸せにさせる。 誠実に生きてくれている姿を称えて、壊れないように護って、邪魔されぬよう支えて、隣に居続ける。 ご主人様が守り護ってくれたように。私も守り護っていく。


私はご主人様を愛しているから。

この程度の事、何の造作もない。簡単に素早く実現できる。何一つ、欠けずに完璧にできる。


私はご主人様を最愛しているのだ。

些細な事で朽ちることは無く。二年前のような嘘に騙される過ちなど二度としない。間違うことは繰り返さない。 使い魔としても、一匹の魔物としても、最愛する者の為。先の見えない終わりは創らず、全てをこなしてみせる――。


「ご主人様」


「おや、どうしたんだい。フォール。何か悩みでも? 」


「貴方の事を愛しています」


「え。……そっか。ありがとう。フォール。私もフォールの事を愛しているよ」



そう、フォール・クロックデザートは、一途で、一方的で、異常で、異様な、重く深化した想いと愛を膨らまして。 今日も、盛り上がり数え切れないほどに重なった想いと愛で生きていく。この先に起こる時空など知らずに。邪魔者よりも罪を認めない殺人者が向かってきているのに気づかないまま。



―――



使い魔達の一体、ウィン・レインフロストは。

常に日頃から、主人であるリアルに対して。創り生み出された時よりも背筋が凍るほどの鮮やかに満ちた想いと愛を心の底から抱きながら接し。 自分の恋路を邪魔する者に対しては、氷漬けや凍死、溺死をさせるような言動を繰り返しながら、容赦なく残忍酷薄に接しており。 今日もまた、背筋が凍るほどの鮮やかに満ちた想いと愛で。リアルを優しく甘やかし。珍しく一人になった時は。 一途で、一方的で、異常で、異様な、重く深化した想いと愛を膨らましていた。



リアル様はいつ見ても、何においても。この上なく素晴らしい方だ。

自分の為にも。俺達使い魔の為にも動いて。一緒に暮らそうと、生きてくれる。その想いと愛が好きだ。 好きで、恋しくて、愛おしくて、たまらない。


リアル様は鈍感で人間らしい利己的なところもあるが。それもまた魅力があり、その姿を見ているだけで、ありとあらゆる欲望が満たされていく。それほどまで、好きだ。好きで、恋しくて、愛おしくて、たまらない。


リアル様の笑顔は華やかで美しくもあり、幼くて可愛げがあって。こちらもつられて微笑んでしまうほどに好きだ。 好きで、恋しくて、愛おしくて、たまらない。


リアル様の事を愛している。全てにおいて愛している。俺にはリアル様しかいない。


リアル様に告白や結婚を申し出たら、どんな色を魅せてくれるのだろう。他の使い魔どもを捨てて、自分だけのモノになってくれるだろうか。俺だけを独占し、俺に全てを独占させてくれるだろうか。俺に全てをくれるだろうか。――きっと。リアル様のことだ。全てをくれることもなく、独占もせず、させてもくれないだろう。それだけは望ます、苦手としている方だから。そこまで、歪んだモノは好まない方だから。俺だけに全てを譲ることはしない。


正直、狡く。不満な事だ。

皆が皆、平等に公平に一番に並んでいるなんて。誰一人も過剰に贔屓しないなんて。俺の想いや愛は全て伝わることはないなんて。本命こそ、伝わらないなんて。少し憎いと思ってしまう。だけど、何より一番はリアル様が幸せに生きてくれること。何のトラブルも無く、生き続けてくれることが大事。だから、最終的な結論としては。俺の想いと愛は届かなくとも構わないとなる。どんなに矛盾した感情を抱き続けていても。リアル様が生きてくれていなければ、意味が無い。幸せで、笑顔でいてくれなければ――。


そう、そうだ。そうだからこそ。

こちらは我慢しているのに。何一つ、我慢せず自分の思うままに振る舞って邪魔する奴は許せない。 相手が同僚であうと、同族であろうと、味方であろうと、敵であろうと、関係の無い赤の他人で第三者だとしても。邪魔になるのであれば。俺の恋路を邪魔するのであれば。リアル様の事を邪魔するのであれば。死んであの世に逝ってもなお、極寒地獄に堕とし凍て付かせてやる。どんなに反省しようが、改心したとしても。些細な事でも、一度でも邪魔するのであれば、許さない。罪として罰し続けてやる。勿論、当事者や本人だけではなく。その者の身内や周囲も、年齢や種族など、何だろうと関係なく氷漬けにして粉々に粉砕してやる。冬の寒さと氷結を含む激流で流し、沈め、溺れさせ、飲み込み、冷やし、全てを凍り付かせるのだ。


水色に流れていく血の湿っぽさを見上げて無邪気に嗤いながら憎悪・嫌悪・敵意・殺意で邪魔者をドロドロになるまで。 永遠と。永久と。永続と。助けも無く――と。


そして、背筋が凍るほどの鮮やかに満ちた感情・思考・気持ち・想い・愛でリアル様だけを幸せにさせる。 何もかも全て、ありとあらゆること何でも、存在しないことでも、やり遂げて満足にさせる。 全てはリアル様だけの為に。


俺はリアル様を愛しているから。

存在しない事まで簡単にやり遂げることができる。どんなに黒い色にも染まることが出来る。 当然だろう、俺はリアル様の使い魔なのだから。


俺はリアル様を最愛しているのだ。

本当の意味で困る事や傷つく事なんてしない。たくさんの甘い愛で、尽くして、満たさせる。 リアル様自身の死に関する事で無ければ。いや、死に関する事は出来るだけにはなるが。 基本的に、どんな欲望も。どんな懇願も。どんな命令も。全て完璧に叶えるのだ。助けるのだ。救うのだ――。


「リアル様……」


「あれ、ウィン。どうかした? 」


「愛している、愛しています」


「え、あぁ。そうなんだね。…ありがとう、ウィン。私もウィンの事を愛しているよ」



そう、ウィン・レインフロストは、一途で、一方的で、異常で、異様な、重く深化した想いと愛を膨らまして。 今日も、背筋が凍るほどの鮮やかに満ちた想いと愛で生きていく。この先に起こる時空など知らずに。邪魔者よりも最も敵わない力を持つ者が近づいてきているのに気づかないまま。



―――



月日を重ねて優しく甘くなっていく、使い魔達の想いと愛による言動。

解決策が見つからず。ただ悩みが大きくなる一方で、どうすればいいのかと困り果てていると――、


「それなら、カタルに相談してみればいいよー」


突如、加工した感じのある機械的で透き通った高めの声で提案されると共に。見た事の無い謎の生き物が、目の前を超えて顔と顔がぶつかりそうなくらいの近距離で現れる。


突如として現れた見た事の無い謎の生き物に驚き、二十二歩ほど後退りして、瞬きを素早く繰り返し。 警戒しながら恐る恐る口を開いて、何者だと。リアルは尋ねる。


「ワタクシの名はムツキール。君を答えに導く、物語や時空に関する事を改変できる オリお化けさ」


すると、謎の生き物は。目を細め、鋭く尖った歯を見せながら笑い、軽く自己紹介する。


自分の名前は、【ムツキール】だと。

そして、物語や時空に関する事を改変でき、リアルを答えに導くオリ化けであると。



――【ムツキール】。

加工した感じのある機械的で透き通った高めの声質に。顔の体色は白く丸く、左右で形が違う真っ黒な瞳で、瞼の上から涙袋の下にかけて道化師のような半月の形をした縦線が入っており、左は上がオレンジと下が紫。右は瞳と同じく真っ黒である。服装は全体的に黄色、オレンジ、紫のハロウィンカラーとなっており、主にその三色で創られた服等を身に着けていて。襟巻と、服であり独特な形をしたワンピースの下半分・マントは、三色を混ぜた色をしている。種族に関しては、オリ化け=お化けということらしいが。とても不思議で謎めいた印象があり、あまりお化けっぽさは感じられない。



「わ、私を答えに導く…? 物語や時空を改変…? オリ化け…、お化けってこと? というか、不法侵入……」


「そう、お化けというのは間違っていないよ。不法侵入に関しては、お化けは霊体だし。 壁やら床なんか、何でも通り抜けることができるから。どちらかといえば、お線香や結界を張らなかった君が悪いね」


「……そ、そうですか。それで、カタルって誰? 」


「ワタクシのお友達の ご友人の 知り合いの……、ワタクシと同じくお化けさんだよ」


「もうそれ、赤の他人…知り合いでも何でもない気が……、」


「細かい事は気にしなーい。粗探しは、よろしくないよ。それと、掘り起こすのも、ね。 さてと、改変した通り。君は、ワタクシ達に興味を持ってくれたみたいだし。さっそく、行こうかね。カタルのところへ」


疑問がいくつかあり、オリ化け=お化けこと、【ムツキール】に尋ねるも。

最後には細かい事を気にしてはいけないと言われ、やや強引に話を進められる形でカタルという名のお化けのところへ、瞬間移動魔法的なモノでワープ及び案内されていく――。


ワープ及び案内されて、辿り着いたところは何も無い真っ白な空間の中央付近で。

目の前には全体的に黒い色をしたお化けが片手に古そうな本を持っており、優しく微笑みを浮かべている。


「さぁ、着きましたよ。お嬢さん。

こちらのミステリアスクールな方が、カタル」


「ムツキールから、大まかには把握し聞いておる。遠慮は要らぬ。気軽に 自由に話してくれ」


「そうそう。遠慮せず、話しちゃって」


「は、はぁ…、」


どうやら、目の前にいる このお化けこそが【カタル】ということらしく。

【ムツキール】が現れた時から、この流れに追いつけず、困惑に満ちるリアルだったが。 何故だかは分からないが、話を進めた方がいいと思うようになり、困惑を忘れて。 いつの間にか、【ムツキール】の強引さに乗っかって、目の前にいる【カタル】というお化けに悩みを打ち明け、相談する。


「え、えっと…その、あの…、二年前から使い魔達の言動が月日を重ねるにつれて、優しく甘くなっていて。 最初は、心を開いてくれたからと思っていましたが。何だか、それとは違う感じで。あと、一応、心当たりはあるのですが。それだとしても、度を越えているのです」


「具体的には? 」


「半年を過ぎた頃から、私が何をしようと褒め称えていき、私の言動全てをいい方向に肯定し。 しつこいほど、スキンシップや甘い言葉を囁いてくる等。積極的な愛情表現が多くなって。 赤の他人や第三者、敵対する可能性がある人達や魔物等に対しては、過剰を超えて異様なまでに。 憎悪・嫌悪・敵意・殺意の四拍子を遠慮なく見せ。 二年が経過した今では。私、一人でいる事の方が珍しいくらいに。四六時中、いつも離れず付いてきています。 そして、心当たりに関しては。二年前に契約を解約するという嘘の手紙を送ってしまったことです」


「なるほど。確かにそれは甘やかしすぎ、干渉しすぎ、過保護と表せるな。

たとえ、二年前が関係していたとしても。たとえ、心を開き。愛情表現として接しているのだとしても。度が過ぎていると自分も思う、と同時に。 お主が創り生み出した使い魔達であるのならば、そうなってもおかしくないと言える」


「え? 」


「失礼を承知で言うが。

お主、使い魔達を創り生み出す前は誰にも好かれなかった、愛されなかっただろう。 また使い魔達を創り生み出す際、死に関する欲望を込めると共に自分の理想と欠点を血の中に混ぜたであろう。 そして、創り生み出した後である、この二年間。お主は生きることを選び、使い魔達が満足に。幸せになるように想いと愛を注げて尽くし。何をされても、何があっても、可愛がったのじゃろう。数少なく唯一の家族として」


「――――!? 」


創り生み出す前、創り生み出した際や後の事を【カタル】に全てを言い当てられて、声なく驚くと共に。 まさか、この事が原因となっているのかと疑問符を浮かべる、も。本当にそうだと、明確に原因を教えられる。


「愛に飢え、死に縋り求め、自分の欲望・理想・欠点を血の中に混ぜて、使い魔達を創り生み出せば。 最初から、重く歪んだ一方的な想いと愛を持っているのは当然であり。その後、生きることを選び。使い魔達に献身的に尽くせば。より、その歪みが悪化してもおかしくはない。


死のうとして、死を縋り求めてきた お主が。生きると共に自分達を幸せにしようと優しく愛し、甘く尽くしてくれる。 使い魔達にとって、これほど嬉しく幸せなことはなかろう。元々、最初から歪みを持っていた想いと愛が悪化し爆発するのは当然で、お返しにと異様なまでに言動が月日を重ねるにつれて、優しく甘くなるはずだ。まぁ、爆発のきっかけを呼び寄せたのは。二年前の嘘の手紙だろうが」


「…つまり、私が全ての原因というわけですか? 」


「そうだ。お主が全ての原因と表せ、お主による自業自得と言えるな」


「……あ、え。ま、マジか…。そっか…。あぁ、そうなのか。いや、それはそうか」


二年前から使い魔達の言動が月日を重ねるにつれて、優しく甘くなっていく原因は全て自分にあると教えられ。 納得がいき、理解すると共に。こうなった原因が全て自分にあったことにショックを受け、情けなく感じる。



欠点を引き継いでいると思うこともあったが。

本当に自分のせいで、使い魔達は歪んでしまっていたことに教えられるまで気づかないなんて。 使い魔達を創り生み出した創造主として、引き連れる主人兼魔法使いとして、そもそも人間として、本当に駄目で無力の恥ずかしい者かつ存在だ。せめて、創り生み出す際。ポジティブな思考でやっていれば、行っていれば――いや、いくら後悔したところで今更な話で遅いのは分かっている。その上、原因が全て自分にあるとするのならば――。



「解消方法、解決の道筋、改善策は何一つ無いということですよね…? 」



解消する方法も。解決する道筋も。改善する策も。何もかも全てどうしようもない、救えないほど無いということ。


自分が全ての原因となっているのだ。

八方塞がりを超えて、完全に詰んでしまいゲームオーバー。今更、今から、今後、どうしたとしても無理である。 使い魔達の性格や思考、言動から。どうやっても、逆に悪化してしまう。もっと酷くなってしまうのは確実。 本当に、本当に無理であると――。



「いや、何も無いというわけではないぞ」


「そうだね。根本からは難しいし、無いけれど。改善する、させるという意味では、あるね」


だが、【カタル】。そして、横で話を聞いていた【ムツキール】の視点や思考は違っていたようで。 根本から治す方法は無いものの、改善には持っていける方法があると話す。


「直接、言えばいいのだ。お主らのやっていることは正直言って、迷惑だと」


「そうそう、ちゃんと向き合って、しっかり伝えればいいの。『嫌だ! 』って」


それは、真剣に明確に直接。迷惑をしていると。嫌であることを伝える事だ。

一見、逆に効果にもなりそうだが。【カタル】と【ムツキール】曰く、リアルの使い魔達はリアルが嫌がる事や不幸せになる事はしたくないタイプであるため。ちゃんとしっかり言えば、反省して控えてくれるとのこと。長引いたとしても、最終的には融通が利くとのこと。 仮に万が一、それでも改善しないのであれば。二年前以上の嘘を吐いて、本気で契約を解約するフリを見せればいい、演技をすればいいと。


「ああ、なるほど。それなら…、確かに効果的かもしれない。少しは改善してくれるかもしれない、ですね」


「お主らの関係性と愛と想いならば、必ず分かり合えるはずじゃ」


「そうそう、ワタクシが不法侵入できるくらい。隙が甘いところがあるから、大丈夫よ」


「はい。じゃあ、その方法でやってみます。

悩みを聞きていただき、相談に乗っていただき、改善策等を教えていただき誠にありがとうごさいました…って、ムツキールさん!不法侵入だと認めるって事は、やっぱり、貴方が悪いですよ! 」


「あっ、やばァ~、口が滑って、バレちゃった。てへへ、ご・め・ん・ねェー」


「は、反省していない…、貴方は融通が利かないタイプ…いや、常識やルールが通じないタイプか……」


改善方法を教えられ、これなら確かに効果的だと思い。家に戻ったら早速やってみると、お礼と感謝の言葉を告げると共に。【ムツキール】の舐め切った反省の無い態度には、不満混じりの苦言が零れていく、リアル。


そんな二人の会話と態度に何処かツボにはまったのか。

【カタル】は、目を細めて くすくすと笑いながら面白いと称賛の声を上げる。

そのカタルの称賛に対し、何処も面白くないと。すかさず、リアルは真面目に返すも。 【カタル】は笑い続け、【ムツキール】は何も反省せず調子に乗ってばかりで。 相手の原因には、しっかりと教えて改善へと導くのに。自分達の事に関しては、何も改善しないのだと。 リアルは複雑な気持ちになっていく。


「いや、改善しないものは改善しないんだ。気にしたって……。

まぁ、いいや。あの、早速、実行したいので。家に帰りたいのですが……、」



が、気にしていてもしょうがないと判断し。二人の事は諦めて、家に帰りたいと話を戻し進める。 すると、【カタル】は笑うのをやめて。【ムツキール】に家に帰すように指示をし。 【ムツキール】も調子の乗るのをやめて、瞬間移動魔法的なモノを、魔法陣を描きながら作り出し。 魔法陣の上に乗るよう、リアルに指示する。


指示に対し、リアルは素直に何の躊躇も無く、指示通り魔法陣の上に乗って。

リアルがしっかりと魔法陣の上に乗った事を確認すると、【ムツキール】はリアルを連れて何処かへと導いていく――。



―――



「はい、到着だよ」


「え、此処。私の家じゃないのですが……」


瞬間移動魔法的なモノに乗って辿り着いた先は、リアルの自宅ではなく。

今度は空間全体が灰色に染まった場所であった。


驚き、一瞬、辿り着く先を間違えられた、間違えたのかと思ったが――。


「あ、そうだね。うーん。まぁ、色々と混沌した理由があってね。様々な複雑に絡んだ事情があってさ。 なんか、間違えちゃった……」


【ムツキール】の反応を見ると、言葉を聞くと。濁し、はぐらかしているものの、間違えたのではなく明らかに意図的なようで。


「でもまぁ、いいじゃない。細かい事は気にしなーい。粗探しは、よろしくなーい。勿論、掘り起こすのも、ねェ~。 それに。せっかくだし。お家に帰る前に、ちょっと寄り道していこうよ。リアルくん」


詳しい説明を答えることなく。戸惑い、疑心を見せるリアルを置いて。家に帰る前に少し寄り道しようと強引に誘い。 拒否する選択ができないよう、背を向けて、一人でさっさと、空間内の奥底へと、先へと進んで行く始末だった。


「え、はぁ? 一体、何を考えているんだ。このお化けは……、」


一体、【ムツキール】は何を考えているのだろうか、と。戸惑いと疑心、そして警戒心を強めて抱きながら。 恐る恐る、慎重にリアルは【ムツキール】の後を追って付いていく――。



―――



【ムツキール】の後を追って付いていき、空間内の奥底へと、先へと進んで行くと。 玉座が五つ、均等に並んでおり。真ん中にある玉座には、全体的に白く薄い灰色をし、顔の輪郭は猫に似たお化けが深く腰を掛けて座っていて。こちらの存在に気付いているのか、じっと一直線に見つめてくる。


だが、そんな視線を遮って切り捨てるように。【ムツキール】は軽快な口調で、お化けに声をかけていき。


「やぁ、唯歩(いふ)。この物語でも。相変わらず、座って閉じこもっているようだねぇ」


「好きでやっているわけではないさ…、それと、これといって君に用は無いはずだけど? 」


「そうだっけ?いや、まぁ。そうか。勝手に上がり込んだからなァ。

でも、此処から出られない貴方の代わりに。貴方が望んでいた者を連れてきてやったんだ。 そんなに厳しい眼で見つめないでよ」


やはり此処に辿り着いたのは、連れて来たのは、意図的だと言葉から零れていく。


自ら、意図的であると零した【ムツキール】に。今までの態度を含めて、苛立ちが少し湧いてくる。 どうして、何の説明も無しに相手を振り回すのか。


だが、そう思ったのは。リアルだけじゃなかったようだ。意図的だと零れたことがお化け側からしても苛立ちを覚えたのか。表情は穏やかながらも口調は辛辣なモノへと変わり――、


「ムツキール。君っていうお化けは、相手を不愉快にさせるのが好きな利己主義者だね。今すぐに消えてしまいな」


片手を回すように軽く振ると。

【ムツキール】の頭上から真っ黒な液体を勢いよく落とし、進んだ道を戻るように流す。 その際、危うく。リアルも巻き込まれそうになったが、寸前で回避した事で免れた。 しかし、ムツキールは流されてしまったということは。自宅に帰る手段が無くなったことを意味し。 そして、この先の展開を考えるに。このお化けから――。


「さぁ、邪魔者もいなくなったわけだし。自己紹介兼、貴方へ言葉を送りましょうか」


――何かを長々と話されて、時間と動きを拘束されるのは間違いない。


いや、完全にそうなっている。

こちらの意見などを聞く気も無いと聞かせるように、一人で勝手に話をしているのだから。


「ようこそ。此処は、匿名に満ちた意味不明な イフの世界。

僕の名前は、解銘 唯歩(とくめい いふ)。この時間で、この空間で、この世界で、たった一人で過ごして生きる。監理のお化けだよ。


さて、リアル・シャインダークさん。君にいくつか言葉をお送りしたいことがありましてね。 リアルさん。貴方は……、どうして、そこまで使い魔さん達の為に命を減らすの? いずれ、身元から離れるもの。取り消しが可能なモノだよ。そんなのに縋っていたって、いい事じゃない。 …いや、でも。分からなくはないよ。どんな結末になっても、愛が勝ってしまうんだよね。 ああ、だけど。やっぱり、良くないものは良くない。うーん…、本当…… まぁ、とにかく。最期の時の最後に。僕に顔を見せてくることを忘れないでね。 少しの間、使い魔さん達と過ごせるようにしてあげるからさ。バイバイは使い魔さん達とやるのがいいからね。


ああ、あとそれと。僕以外の特別なお化け達に関して、気をつけてほしいことがある。 まず、さっき流して追い出した。ムツキールっていうお化けは、勝手に物語の展開や世界の時空を捻じ曲げ、改変させていく。自由奔放なトラブルメーカーの利己主義者お化けなんだ。仮に彼と深く関わる際には、ノリに合わせつつも慎重に動いてね。そうしないと、設定ごと改変されちゃうからね。 二人目。ムサンウンっていうお化けは、勝手に進行中の物語や設定していた時空を歪み混ぜ、変換させていく。傍若無人なトラブルメーカーの利己主義者お化けなんだ。仮に彼と出会ったしまった際には、逃げずに少しの間だけ、彼の言う事を聞いてね。そうしないと、酷い目に遭わされちゃうからね。 三人目。ディスクローズ・デッドホロウスリープっていうお化けは、自分の感情のままに破壊行動をする。荒々しく卑劣で利己主義者なお化けなんだ。仮に彼に狙われてしまった際には、嘘でもいいから愛を伝えてね。そうすると、気持ち悪がって。勝手に一人で自滅していくからさ。四人目。ディアディープ・ハートアライブレッドっていうお化けは、自分の気分のままに創造行動をする。残忍酷薄で思いやりのない利己主義者のお化けなんだ。仮に材料されそうになった時は、すぐにでも即死魔法を放って罰を与えてね。そうしないと、彼は諦めるってことをしないからさ。そして、最後。五人目。カタルっていうお化けについてだけど。カタルは確実に有効化する予言の力を使って。自分の好きなままに騙って、淡々と暴れ回るんだ。仮にカタルと語ってしまった場合は。うーん、残念ながら。対策は無い。どうしようもない。まぁ、とにかく。カタルとは語らないでね。有効なる予言で語られるからね。


あ、そうだ。えーと、それから、もういくつかあってね……」


「長い上、しつこい…、」


「え? 」


「何行、何文字を使って。話しているんだ…、頭痛が生まれるわ」


しかし、話を最後まで進めることは出来ず、途中で停止させられる。リアルの酷く冷たい非難と愚痴の声によって。


話としては。いや、台詞量としては長すぎるのは勿論だが。リアルにとっては、怒りと憎しみを覚えるレベルの長さだった。 内容が全く入ってこらず、ただ長いだけの話と台詞。何行何文字も使った割には意味の分からない中身の無い、頭痛が生まれるだけの言葉。ただ一方的に時間と手間をとって、いつまでも子供のように語る姿。 それは、リアルにとって。未熟で不安定だった過去の自分を掘り返されるようで、とても気味が悪かった。


そのため、本性として、心の底に根付き溜まっていた負の黒い感情が酷く冷たい非難と愚痴として飛び出し。 飛び出したことで、使い魔達ですら見た事のない、殺意に満ちた眼へ徐々に変わっていくのもおかしくはなかった。


「リアルさん、急にどうしたの…? 」


だが、お化け側からすれば。突然、変貌したようなもの。

自分に非があるとしても、ここまで変わり果てたようになるのは分からない。感情の流れを上手く読み取ることはできない。ただ困惑するだけで、何も気づかない。


これは、リアルだけではなく。

自分が流し追い出した、【ムツキール】が関わっている事も。

いや、【ムツキール】により。展開を変えられてしまったことに。そうなるように仕組まれていることに。 半ば、裏切られていることに気づけないでいる。


リアルがどんな動きをするのかを読めず、その動きに回避することができなかった。


「……えぇ、急展開すぎるよ。どういうこと? 僕は貴方に言葉を送っただけじゃない。 殴るなんて、酷い。最低。失礼」


「物事を早く終わらせたい時は、やはり力技で押し通すのが一番はやいですからね」


「あぁ…、送る前に。貴方もムツキールに改変されちゃったのか」


殴られた左頬を両手で抑えながら、お化けは理不尽だと不満げな目と声色で零し。

ようやく、【ムツキール】の仕業であることに気がつき。


気がつけば。何処か悲しそうな表情に変えて、最後は話した時よりも手短に言葉を送ると共に。 【ムツキール】が居るだろう場所へと、瞬間移動魔法的なモノでリアルを飛ばしていく――。


「改変されてしまった貴方の最期の運命は、もうどうすることもできないけど…。

最期の時、僕に顔を見せに来なくとも。後悔なく、幸せにはしてあげるよ。

それと、今此処で僕と会った記憶も。僕を殴った事も。都合の悪い記憶は全て消してあげる。 残り少ない人生だもの、短い寿命だもの、死に縋り求めていた分。ムツキールとは違って、君の都合よく幸せにしてあげる」


その送られた言葉と身勝手な行動に。リアルは負の黒い感情を一層強めるが。



―――


――【解銘 唯歩(とくめい いふ)】。

加工した感じのある機械的で幼く高めだが、落ち着いた声質に。全体的に白く薄い灰色の体色をし、指は両手どちらも四本、青緑から暗めの赤までグラデーションした二本の翼、二又にわかれた身体の下先を持つ。瞳は白く吊り上がり、歯と牙の境目が分からないほど口の中も真っ白。顔の輪郭は猫に似ている。服装は青みのある紫系統の耳飾り、ケープ、ワンピースのようなモノを着用している。種族としては、オリ化け=お化けであり、この世界を管理するトップに君臨するお化けでもある。



―――



「――おい。起きろ。いつまで、寝ているんだァ」


「あ…? あれ…、私は一体、何をして。そもそも、何があって…うん? 」


「人間って奴は、相変わらず寝ぼける時間が長いな。起きたのなら、さっさと俺から離れろ」


「う、わぁ、おぅ!? 地面に顔をぶつけた…いたい、って、あれ? ムツキールさ、」


「誰と間違えているんだ。まだ寝ぼけているのか? つーか、あんな愉快犯と一緒にするな」


「え、じゃあ…誰!? というか、此処はどこ!? 」


「はァ…、あの馬鹿二人にだいぶ、改変されられているな…、ああ、面倒な事になった」


地面へと顔をぶつけた痛みと目の前にいる【ムツキール】似たお化けの登場に。

意識を完全に取り戻し。此処は、一体何処なのか。このお化けは誰なのか、とリアルは慌てふためく。


確か、記憶違いでなければ。

【ムツキール】の何かしらの意図で、灰色に染まった空間に連れてこられたはずで。 それで、寄り道しようか何とかで。先へと進む、【ムツキール】の後を追って、付いていって。それから――、


――――――――――。


――それからの事が何も思い出せない。


加えて、それからの事が何も分からない。

どれだけ、思い出そうとしても。返って来るのは空白だけ。

それならば、無理に思い出す必要は無い。とりあえず、此処が何処なのか見渡して確認しつつ。 この目の前にいるお化けが何者なのかについて、尋ねよう。そう、リアルは思い出すことを諦めて。周辺を見渡していく、時だった。


周辺を見渡す必要や尋ねる必要は無いというほど、目の前にいるお化けから此処が何処かなのかについて。 そして、リアルの身に何が起きて今に至るのかを面倒くさそうな声色で説明を自らした。


「此処は、ムツキールこと愉快犯馬鹿野郎が作り出した森林の空間で。

お前は、その愉快犯馬鹿野郎と。この世界を管理しているお化けに。ストレス解消として。 記憶が吹き飛ぶほど、気絶するほど、長い話を聞かされ。長い話が終わり、用済みとなったお前は。ゴミ箱に投げ捨て入れられるように。その馬鹿共から、この森林の空間へ気絶した状態で飛ばされたんだ。それを、偶然にも、面倒な事に知ってしまった俺、ムサンウンは。これ以上の面倒事を増やさないため、お前を元の世界へ帰らせようと、飛ばされていたお前を起こしに。俺もこの空間にやってきたわけだが…、まさか、気絶から睡眠に変わって。抱き枕にされるとは、とんだ地獄だったなァ……」


一部、重要そうな事を隠し、濁してはいるものの、目の前にいるお化けこと、【ムサンウン】の説明曰く。 此処は【ムツキール】が作り出した森林の空間で。リアルは【ムツキール】とこの世界を管理しているお化けに。記憶が吹き飛び、気絶してしまうほどの長話を聞かされ。用済みとなれば、気絶した状態のリアルを此処へと飛ばしたとの事。


確かに。これならば、いくら思い出そうとしても空白しかないのにも納得がいく。

そして、あの【ムツキール】の自由奔放ぶりから。余計に面倒事になるのは御免だというのにも腑に落ち。 よく見れば、似てもいないのに。間違えられて嫌気が差すのも分からなくはない。 説明を聞き、偶然とはいえ。【ムサンウン】を巻き込んでしまったことに、リアルは申し訳ない気持ちで一杯になり謝罪する。


「そうでしたか…、いやぁ、ご迷惑をおかけしました……」


「別に。お前が原因じゃねぇし。馬鹿共の自由奔放ぶりには慣れているから…。

それより、説明した通り。これ以上の面倒事が起きないために。お前を元の世界に返すから。ついてこい。 この先に元の世界へと帰れるワープ装置があるから」


「あ…、はい」


巻き込まれた事に関しては、リアルのせいではないと、いつものことだと。特に気にしていない様子で。 そんなことよりも、説明をした通り。これ以上の面倒事を防ぐため、ワープ装置にて、リアルを元の世界へ返すから。 自分の後をついてきてほしいと言い。リアルの返事を聞く前に、素早い移動速度で先へと進んで行く。


気にしていないことに安心すると共に、【ムサンウン】の素早い移動速度に驚き。

見失わないよう、慌てて走りながら、【ムサンウン】の後を付いていき。

比べるのは何だか失礼な気もするが。

自由奔放な言動をしていた【ムツキール】でも、移動する際は、自分に合わせて先へ進んでくれていたのだと。 【ムツキール】のさりげない優しさを、【ムサンウン】の移動速度を見て、今更ながらにリアルは感じた。



―――



――【ムサンウン】。

加工した感じのある機械的で掠れた低い声質に。顔の体色は灰色で丸く、左右で形が違う深い緑色の瞳で、瞼の上から涙袋の下にかけて道化師のような半月の形をした縦線が入っており、左は真っ黒。右は上がオレンジにも見える赤と下は鮮やかな青であり、また左の縦線と同じく、口の中は鮮やかな青色系統に染まっている。服装は全体的に緑、黒、赤の暗めのハロウィンカラーとなっており、主にその三色で創られた襟巻や服装等を身に着けている。種族に関しては、オリ化け=お化けだが。とても不気味で謎めいた印象があり、あまりお化けらしさは、そこまで感じられない。



―――



少々、息切れを起こしながらも。なんとか、見失わずに【ムサンウン】の後を付いていき。 ワープ装置がある場所まで、辿り着くことができた。


「ぜ、はー、ぜぇぇ…お、あ、なんとか、付いていけた…、あぁ、これがワープ装置か……、」


「そうだ、これがワープ装置だ。操作は俺がやるから、お前は魔法陣の上に立っておけ」


「ぜー、はぁぁ…あ、ぁぁ、は、はい。了解です……」


「……人間の中でも、お前は特に体力がねぇな。

愉快犯馬鹿のムツキールと。ワープ装置じゃ、流れの勢いと強さは違うっていうのに。 そんなので、時空の流れに耐えきれるのか? 」


「うぐ、え? だ、大丈夫ですよ…! こう見えて、生存率100%なので…はぁ、」


しかし、息切れを起こす、リアルを見て。体力が無さすぎると解釈したのか、【ムサンウン】は不満げな声を上げる。 その不満に対し。すぐさま、生存率が100%であるため、耐えきれると返す、も。


「……信用できねぇな。まぁ、いい。途中で死のうが、元の世界に返せれば、結果的には無問題だ」


最終的には納得してはくれたものの、信用はできないと言われてしまった。

いや、それだけじゃない。最終的に納得した事に関しても、移動の途中で死んだとしても、元の世界に返せれば結果的に問題はないという、冷淡な納得の仕方であった。 とはいえ、【ムツキール】と比べれば。すぐに元の世界へと返してくれるため。話が通じる点では、マシなのかもしれない。複雑な気持ちにはなるが。


複雑な気持ちを抱えながら、魔法陣の上に立つリアル。

すると、数秒もせずに。抱えているうちにでも終わったのか。あと十秒でワープ装置が発動すると、【ムサンウン】から告げられる。


これで、ようやく。元の世界へと返され、家へと帰って、使い魔達にハッキリと伝えることができると。リアルは安堵し、瞼を瞑る。――いや、数秒程、瞼を瞑っていた時の事だった。物事の進み具合は、そう上手く都合よく進まないのか。【ムサンウン】の罵声が耳から頭の中まで刺さるように響き渡る。


「何しやがるんだッ!? この、塵しか創らねぇ、無駄破壊ディスディアコンビ! 」


「自分にとって不都合な事が起きれば、破壊しに回るのは当然のことだろう? 」


「そう、ディスクローズの言う通り。我にとって、不利益な事が起きそうなれば。事前に護りを創るのみだ」


「ふざけるな。お前ら人殺しかつ無責任な害悪質の化物共にとって。不都合も、不利益も無いだろうがッ…! 」


耳から頭の中まで刺さるように響き渡る【ムサンウン】の罵声に何事だと、瞑っていた瞼を開ければ。 いつの間にか、見知らぬ生物二匹が。【ムサンウン】の目の前に立って、一匹は不敵に嗤いながら。もう一匹は真顔で淡々と喋っていた。


あの二匹は一体、何者なのだろうか。そして、何があったのかと不安と疑問が浮かぶ、が。 それは、あっさりと理不尽かつ残酷に。リアルの存在に気づき、目の前まで近づいて来た、二匹よって自己紹介混じりに伝えられる。


「ワシは、破壊のお化け。ディスクローズ・デッドホロウスリープ。

また、破壊のお化けとして。汝、リアル氏の自宅に帰る手段を破壊して消滅させた、悪役的な存在でもあるぞ」


「我は、創造のお化け。ディアディープ・ハートアライブレッド。

加え、創造のお化けとして。貴様、リアルが家へと戻る方法を削除という創造で上書きして無くした、厄介な生物である」


元の世界へと帰る手段や方法を消した。つまり、ワープ装置を破壊したということを伝えられた――。



――【ディスクローズ・デッドホロウスリープ】。

加工した感じのある機械的で荒く低い声質に。全体的に濃く暗い灰色の体色をし、指は両手どちらも三本、針金のような黒い二本の尻尾を持つ。瞳は黒く吊り上がり、歯と牙の境目が分からないほど口の中も真っ黒。顔の輪郭は猫に似ている。服装は黒・灰・白といったモノトーンやモノクロ系統の色の耳飾り、襟巻、ワンピースのようなモノを着用している。種族としては、オリ化け=お化けであり、この世界の破壊者としてトップに君臨するお化けでもある。



――【ディアディープ・ハートアライブレッド】。

加工した感じのある機械的で少し低く、淡々とした声質に。全体的にサーモンピンクの体色をし、指は両手どちらも四本、悪魔の尻尾のような形をした二本の翼、骨のような二本の尻尾を持つ。瞳は白く少し吊り上がり、口の中も体色と同じくサーモンピンクの色に染まっており、顔の輪郭は猫に似ている。服装はサーモンピンクや虹色を基調とし、グラデーションとして、赤・黄・黄緑・水色・青・紫・桃の七色を掛け合わせた耳飾り、襟巻、ワンピースのようなモノを着用している。種族としては、オリ化け=お化けであり、この世界を創造者としてトップに君臨するお化けでもある。



そう、破壊のお化け【ディスクローズ】と創造のお化け【ディアディープ】の二匹にワープ装置を破壊され。 元の世界へと帰る手段や方法が無くなったことに。【ムサンウン】が罵声を口にするのも無理はなく。リアル自身も自然と荒んだ驚きの声と敵愾心を衝動のままに表へと出すのは当然だった。


「はァああぁあああ!? 何やってくれたんだ! せっかく、帰れるところ、戻れるところだったのに! 」


「リアル氏まで、そんなに怒らなくとも。別に此処に居座ったところで、互いにそれほど負担にはならねぇだろ? 」


「不都合で不利益なのは、ムサンウンのみ。何の問題も無い」


「すっごく、不都合で不利益だわ! 元の世界には、使い魔達が残っているというのに…、 今すぐに、元に戻せ! 破壊の方での創造が出来るなら、復元の方での創造だって出来るだろう!? 」


「創造を軽視し、随分と欲深く我儘で面倒な人間だな。

そんな程度の事、自分で創ってしまえば早いというのに」


「なんだ、って…? 人の事、言えないくせに…そっちの方が創作を軽視し、遥かに欲深く我儘で面倒なお化け…いや、人間だというのに」


「いや、どちらかといえば。お前らの方が軽視して、貶している。

いい歳なんだから。少しは、傲慢に暴れ回るのをやめて。相手に協力する心を身に付けろよ」


「はぁ? 」


しかし、どんなに敵愾心を見せようが、二匹には利かず。

ただ自分の事を棚に上げて、見下すばかりで、リアルの怒りが徐々に燃え上がるだけ。 そんなリアルに重なるように言葉を並べて、【ムサンウン】も苛立ちを次々と露わにして罵声を言うが。 二匹の片方、【ディスクローズ】は、何処か苛立ちを見せるも。根本では、やはり、どうにも利かない。


だが、リアルはそれでも諦めず。ふと、ある方法を思いつけば、それをすぐさま実行していくのみ。


「好意を利用するのは、よろしくないけれど。利かすためには、これしかない!

皆と協力して取得した魔法術……、その名も使い魔召喚魔法術!

我の血を代償に呼び寄せ!我が使い魔達よ、集合時間だ! 今すぐに色を染め上げろ――! 」


リアルは声をより多く荒げて呪文を唱えると。何処から発生したのか分からない鋭い痛みに襲われ、耐えられず、地面に向かって思い切り吐血し。地面にある程度の大きさまで血が広がると、怪しい黒い光と共に血が魔法陣を描き出し、使い魔達を召喚する。


「……あァ? (あるじ)。こんなところに…いいや。

俺様達を呼び出すなんて、何かあったのかァ? いや、言わなくていい。呼び出した理由は、この俺様達と顔の輪郭や形が似ている化物二匹を倒してほしいってことだろォ? 」


召喚された使い魔達は、すぐさまリアルの求める事に気がつき。

それぞれ、眼光をちらつかせながら。【ディスクローズ】と【ディアディープ】の二匹を見下して。 リアルが「そうだと」答えることなく。指示することなく。敵意と殺意のままに自ら、二匹の元へと魔法を放ちながら飛び込んでいき。


「あーあ、まさか、此処で召喚魔法系を使えるなんて、予想外だ。しょうがねぇ、帰るか」


「愛に狂った奴らと今の状態では勝ち目はない。仕方あるまいが、此処は降参して撤退するしか無さそうだ」


二匹の気を素早く変えさせるほど圧倒させ、退却する決断に落としつつ。

退却しようとする二匹を逃がさないと、リアルを想う愛だけを剥き出しにして、身動きが取れないように激痛を与えながら、魔法で身体を拘束させ。責任を取るべきだと荒々しく冷淡に責め立てる。


「やるべき事をやってから、退却するのが道理ってもんだろォ? 」


「反省もせず、逃げようなんて。随分と悪質で最低な行為だねェ」


「今すぐに相応以上の責任を取りなさい。出来ないのであれば、土の中に埋めて差し上げます」


「焼死。斬殺。圧死。溺死。凍死。どれがいい?

いや、どれもいいか。全部にするか。お前達はどれも似合う事をリアル様にしたのだからなァ? 」


「…なんて、奴らだ」


「……此処は、合わせないと。余計な不具合が生まれ、大変な事になりそうだな」


使い魔達の攻撃には、流石の二匹でも効いたのか。

反省はしていないものの、退却するのは一旦、諦めて。【ディアディープ】はワープ装置を創り直し、装置の上に乗れば、何もしなくても、数秒もかからず一発で無事に元の世界へと戻れるようにした。


「これで、リアルも。貴様ら、使い魔も元の世界へと戻れるはずだ」


「主を連れ去った挙句、元の世界へと帰れなくするとは、悪い度胸と本性だなァ? 」


「いや、連れ去ったのはワシ達じゃないよ。ムツキールっていう…、」


「言い訳無用! 主人とワタクシ達を引き離した罪。その命で償いなさい! 」


「だから、違うって…、おわぁッ!? や、やめろォおおぉおおおぉぉお――!? 」


「やれやれ…、暫くは此処に戻れそうにもないね」


しかし、使い魔達にとっては。それだけでは許せるものではなく、リアルを連れ去った誘拐犯として決めつけ免罪を負わせながら、モザイクをかけなければいけない程まで、徹底的に痛みつけていく――。


暫くして、気が済んだのか。使い魔達は二匹を痛みつけるのをやめると。

リアルの元へと駆けつけ、表情を柔らかくして。心配や安堵が入り混じった愛をリアルへと与えていく。


その一連の流れを見届けていた【ムサンウン】は。


「……主人の為ならば、どんな黒色な事も躊躇しない異常さ。それを知った上で、使い魔達を上手く動かす残酷さ。 あの無駄破壊コンビよりも。破滅的、破壊的行動をしているな。下手に関わったら、些細な事でも機嫌を損ねたら。 骨の塵すら残らなそうだ」


呆れきった口調で使い魔達の異常さとリアルの残酷さを密かに非難する、も。

結果的には、リアルを元の世界へと帰すことができるため。それ以上の非難はせず。

【ムツキール】の気が変わらないうちに、見つからないうちに、今すぐにワープ装置の上に乗った方がいいと。 そして、二匹を倒してくれた事に礼を告げ。リアル達が元の世界へと帰ったのを見送ると。すぐさま、この場を目にも止まらない速さで去って――いく途中で。事前の連絡も無しに目の前へ現れた【ムツキール】に声をかけられ、足止めをされる。


「君が、他者に協力するなんて意外だねぇ? もしかして、君は。あの人間とは戦う気は一色も無いってことなのかな? 」


「邪魔だ。どけ」


「君って、意外と。改変や変換させることはしないんだねぇ。これには、ワタクシ、ムツキールさんもびっくり」


「テメェの言葉を聞いているほど、暇はねェんだよ。さっさと、どけ。この強欲だらけの愉快犯」


「んー。相変わらず、君は。ワタクシに意地悪で冷たいですねぇ、ハッ」


不満の声を出してぶつけるが、【ムツキール】は淡々と言葉を並べていくだけで一ミリも通すことはせず。 声だけではなく、強引に魔法を仕掛けても、寸前で防がれてしまう他。


「ああ、そうだ。この世界線の物語が完結したら、今度は極度の死にたがりのいる世界線に行って、改変させていくのだけれど。…勿論、ムサンウンも協力してくれるよね? カラフルモンスターワールドを無色に変えるために、さ」


外堀を埋めるように、逃げ場を無くすように、どうにもならない強制をされて、逆に更に行く道を塞がれ消されてしまった。


この強制と【ムツキール】には、改めて酷く嫌気が差し。

【ムサンウン】の心は憎悪と殺意、悔しさがドロドロと混ざり合って。渦を巻いて、終わり無く回っていく――。



―――



【ムツキール】に連れ去られ、【ムサンウン】達が居た世界からワープ装置で抜け出し。 無事に元の世界へと帰り、また自宅へと戻ることができたリアルは。


リビングにて、使い魔達に自分の悩んでいた事や思いを正直に伝える。


「私さ、皆の、優しく甘い言動は全て…正直に言って、迷惑で。

私の意思に関係なく、事前に護って。勝手に誰かを傷つける行為もハッキリ言って、流石に此処までは嫌なんだ」


使い魔達の優しく甘い言動は迷惑であると。流石に此処までは嫌だと。


「あァ…? 俺様の言動は全て迷惑だとォ…? 」


「え、ワタクシの魅力ある言葉は全て、嫌…? 」


「なんですって…、私の行動は全て、負担になっていると…? 」


「リアル様の為にやっていた事は全て、ダメ……、」


迷惑だと。嫌だと。正直に伝えられ、その事実に使い魔達はショックを受けるも。

すぐさま、考えを改めて。迷惑や嫌になるまで、負担になっていたことに謝罪して。


「まぁ、確かに。しつこく絡むのは、迷惑でしかないよなァ。(あるじ)、迷惑をかけて、すまなかった」


「うん、確かに。一方的な言葉は、嫌でしかないですよねェ…。主人、ゴメンなさい。嫌な思いをさせてしまって」


「ええ、よくよく考えてみれば。負担になりますよ、こんな事。ご主人様、負担をかけてしまい誠に申し訳ございません」


「そうですよね。リアル様にとっては、ダメな事なんですよね。二年前にも同様の事で注意され、ダメであると教えていただいたのに。同じ過ちを繰り返してしまい、すみませんでした。リアル様、俺を許さないでください」


「今後は、迷惑をかけない。嫌にならない。負担をかけない。適度で適切な言動をすることを心から誓うぜ」


今後は、負担にならない適度で適切な言動をしていくことを誓う。


思っていた以上にすんなりと反省し理解して言動を改める、使い魔達の態度にリアルは驚くも。 ちゃんと正直に伝えれば、使い魔達は理解して改めてくれるのだと学び。 一応、これで。悩みは解消解決したため。今までの事は目を瞑ることにして許し。 お互いの為、今度は適切で適度な言動で一緒に暮らし生きていこうと。リアルも使い魔達に誓った――。


―――


いいや、使い魔達は本当に反省していないことに。内心は相変わらず重く狂った愛のままで、何一つ、変わっておらず。 表=リアルの前では、適切で適度な言動をしていくだけで。裏=リアルが知らない所では、言動を一切辞めることはないのを気づかないまま。狡猾で巧妙に隠されたまま。リアルは穏やかな心で使い魔達に誓ったのだった――。使い魔達は重く狂った愛で誓いを騙ったのであった――。


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