【季節の無い現実】
使い魔達と一緒に暮らし、共に生き続けて。
リアルは22歳を迎え、努力を重ね続け、魔法使いとして、中間辺りの地位まで上がった頃。 平穏な甘く優しい時間と日々は、終わりを告げようとしていた。
何者かによって創り生み出された、人間を惨殺し、その遺体を食い荒らす怪物と。
また突如として、大量発生した人食いの魔獣がリアル達の住む場所まで現れ侵食され。 一瞬で一気に人間の数を減らされたことをきっかけに――。
リアルは魔法使いの一人として、その怪物を殺してでも止める役割をこの世界の王から任され。 使い魔達と共に、怪物を見つけて倒すために。まずは怪物を見つけるのにも邪魔となる大量発生した人食い魔獣を魔法や術で蹴散らし。 その反動で全身に強烈な痛みが走りながらも、返り血と異臭に苦しみながらも負けずと奮闘し続けていた。
「一体、何処に居るんだ? 八割近くは蹴散らしたっていうのに。息を吐く音すら見つけられないなんて…。 いや、悲観したって致し方ない。視界は良くなっているんだ。そのうち、見つけられるはず…! 」
「――主ィ! 見つけたぜ! 殺人怪物野郎を! 」
そう、悲観な思考には溺れず、奮闘し続けて八割近く魔獣を蹴散らした頃。
魔獣の返り血を浴びて、赤い体色が暗く黒ずんだ、使い魔達の一体であるサマーが怪物を見つけたと声を荒げて報告し。
「それと、どうやら。人食い魔獣共の血に誘われたのか、煩く足音を立てながら、俺様達の方に向かってきているぜ! 」
こちらへと向かってきているとも告げる。
サマー曰く、蹴散らした人食い魔獣から流れ出る血に誘われたお陰で向かってきているとの事だが。 人間だけではなく、魔獣の血さえも縋り求めるようになってしまったのだとしたら、人間である自分は勿論の事。人食い魔獣の返り血を浴びた使い魔達も、想定以上に生死を争う事にはなりそうだ。しかし、それは任される前に怪物が創り生み出された時から覚悟していた事。今更、此処で手を引こうなんてことはしない。だが、使い魔達を死なすということもさせない。視界は良好で、怪物の方から向かってきてくれた事で探す手間は省けたのだ。好都合であるのだ。どんなに危険度が高まったとしても関係ない。勝利は確実に見えている。
「それじゃあ…、怪物をお出迎えして、もてなそうじゃないか! いい怪物へと化けさせるくらいに――! 」
「おう! 」
「ええ! 」
「はい! 」
「ああ! 」
死を知り尽くし、互いを愛し合う自分達が負けるはずがないと、リアルは己と使い魔達を信じて立ち向かう。 吐く息を荒くして、大きな振動が発生し身体へと響き渡るくらいの足音を立てて、こちらへと向かって来た怪物に――。
先攻したのは、リアルの使い魔の一体である、サマー。
怪物がこちらの様子を窺ってじっとしているのを敢えて利用して、眩しいほど鮮やかに輝く灼熱の炎の渦を巻き起こし。 怪物の四肢を焼き尽くしながら、逃げられないように周囲を取り囲む。
先攻したサマーに続いて、他の使い魔達もそれぞれ怪物へと攻撃を仕掛ける。
リングは台風並みの竜巻を起こして、怪物の胴体を細かく切り裂いていき。
フォールは怪物が立つ地面に底の見えない深い穴を開けて、穴へと吸い込むように落とし。 ウィンは穴へと落とされていく怪物が起き上がれないよう、戻って来られないように頭上から滝のように勢いが激しく強く、海のように広い大量の水を流していく。
使い魔達の攻撃を抵抗も虚しく受け続け、徐々に弱り、穴へと落ちていく怪物に。
慈悲すら与えず、最後の止めを刺そうと。リアルは怪物よりも巨大な魔法陣を穴の周囲を取り囲むように、自分の血を垂らして描き。即死効果を持った呪文を唱える。
「死ぬ覚悟 殺される覚悟は出来たか? 眠れ!永久の睡眠」
呪文を唱えれば、魔法陣は黒く光り輝くと共に黒い光を空まで柱のように伸ばして、無数の黒く長い手を召喚し。 召喚された無数の黒く長い手は怪物の全身を包み込み、軽く握り潰す――。
「――――」
――握り潰され、即時に死を受けた怪物は。
表情一つ変えずに、声も出さずに、時間が止まったようにゆっくりと穴の見えない底へと落ちていく。
ゆっくりと落ちていき、姿が見えなくなる頃には。
空は温かなオレンジ色に染まって、空気は緩く穏やかな流れになり、勝利を宣言していた。
怪物は倒れたと。
そして、怪物が倒れた事に関係しているかは分からないが、残り二割であった人食い魔獣もその場で眠るように倒れ込み。数十秒、経過すれば。まるで、何事もなかったように。灰になり、塵となって、風に揺れて完全に消え去ってしまった。この世界から怪物と人食い魔獣は、もう居なくなった。リアルと使い魔達は勝利したのだ――。
「主? 」
「主人! 」
「ご主人様」
「リアル様……」
怪物、そして人食い魔獣も居なくなったことに安堵と嬉しさが込み上げてくる。
時間は少しかかるかもしれないが、これでまた以前の日常へと戻れると。一緒に幸せに暮らせると。満足に過ごせると。
――あっさりと倒せて、居なくなってしまったことに疑問も抱かず。
リアルと使い魔達は喜びに満ちていた。
何故、こうも簡単に出来たのか。
いくらリアルと使い魔達の実力が上がっていたとしても。即死効果の持つ魔法を使用していたとしても。 人間を惨殺し、その遺体を食い荒らす怪物が簡単にあっさりと倒れることなんて、ありえる話なのだろうか。 そう都合よく物語は展開するのだろうか。まだ物語や話は始まったばかりだというのに――。
「サマー。リング。フォール。ウィン。私、……はっ」
リアルは柔らかく幸せに満ちた声で使い魔達の名前を順に呼びながら、想いと愛を伝えようとした矢先。 使い魔達の背後に立つ姿を見て、大きく目を見開き。驚きと困惑、疑問の息を吐く。 そして――、
――――。
――――。
――――。
――――。
使い魔達を勢いよく掴み、自分側の後方へと投げ飛ばした。
――――。
――――。
――――。
――――。
突如として、リアルに投げ飛ばされて。地面へと叩き落された衝撃による痛みと共に驚き、一体どうしたのかとリアルの方を振り返る――、と。
――――。
――――。
――――。
――――。
肉が半分ほど無くなり、地面へと広範囲に血だまりを作る、無残なリアルの姿と。
倒したはずの怪物が時より重ねるように咀嚼音を鳴らしながら、リアルの身体を貪り喰っていた。 遠慮も無しに、躊躇なく、ただひたすら――、
――――。
――――。
――――。
――――。
だが、それも黒ずんだ使い魔達に魔法で二度目の死を与えられ。強制的に終わりを余儀なくされる。 今度こそ、本当に倒れた。
――――。
――――。
――――。
――――。
怪物を本当に倒した後。すぐさま使い魔達は、リアルの元へと駆けつけ。安否を確認する、が。 現状は想像をしていたよりも酷い有様で展開だった――。
「主? 」
「主人! 」
「ご主人様」
「リアル様……」
身体の半分の肉を失い、地面へと広範囲に血だまりを作り続け、小さく息を吐きながら、目が虚ろになっていく リアルに必死に訴えかける。取り戻そうと、回復や治療といった魔法・術をかける。延長させようと、自身の生命力を分け与えて、治す目的を改めて含めて傷口から流し込む。
それを四分ほど、続けた時の事。
リアルは穏やかに微笑み、ゆっくりと小さく口を開く。
「サマー。リング。フォール。ウィン。私、皆の事を愛しているよ。今日も皆と一緒に過ごせて幸せだよ。ありがとう、」
柔らかく幸せに満ちた声で使い魔達の名前を順に呼びながら、想いと愛を伝え――返事する時間も猶予も与えずに。 瞼を重く閉じ、優しくも冷たい寝顔と体温で、使い魔達を置いていった――。
――――。
――――。
――――。
――――。
リアルが使い魔達を置いていってから、どのくらいの時間が過ぎたのだろうか。
空を見れば、まだオレンジ色に染まっているから。それほど、時間は経過していないかもしれない。 だが、空とは違って。リアルは変わり果ててしまった。何も残らないほど、原形が消えていた。
――いや、違う。消えたのではなく、入ったのだ。
何も残らぬ前に、使い魔達の中へ入ったのだ。食べられて、飲まれて、入ったのだ。 だから、消えたわけではない。使い魔達の中にリアルは存在しているのだから。
「……なァ、テメェら。やることは決まっているよなァ? 」
使い魔達の一体、サマーが淡々とした抑揚の少ない声で他の使い魔達に話しかける。
「……うん。勿論、決まっているさ」
「……いつでもOKですよ」
「……ハッ。決まっている以外、他にあるのかよ? 」
サマーの話しかけに対し、異論はないと賛成の声を返す、他の使い魔達。
「そうか。じゃあ、行こうぜ……、」
他の使い魔達も賛成であることを聞けば。
少し口角を上げて、決まった やることをするため、他の使い魔達を引き連れるように、一足先に前へと出る。
「主の仇を討ちにィ……! 」
そう、決まった やることである。
リアルの仇を討ちに、復讐心と殺意を抱いて、元凶達の今生きている場所へと――。
―――
「よくぞ、此処へと辿り着き。自分達が今いる場所を突き止めたことだ。
それにしても、これが、愛の力というモノか。ふふっ、面白いのう」
面白そうに嗤う声が、訪れた使い魔達を引き入れる。
そして、使い魔達の目的。此処へ訪れることは想定していたのか。今度は威風堂々と余裕のある不敵な笑みを浮かべて。 仲間達と共に、使い魔達と戦う姿勢及び態勢を取る。
「さァ、始めようとするかのう。この物語と予言。そして、この先の未来の展開を更に面白くするために」
全ては自分達の欲望を自由奔放に叶えるために――。
温かなオレンジ色から怪しげな紫色の空へと変化すると同時に。
サマーは、目の前にいる仇を焼却しようと、感情と思考さえも激しく燃やして。
噴火したように火の玉と灼熱で大量に地面を溶かし焦がしながら覆い尽くす。
それから、二秒。
サマーに続いて、リングは。目の前にいる仇を斬殺しようと、感情と思考さえも切れ味よく吹かして。 竜巻や暴風のように大きな風を巻き起こして、周辺にある草木を削りながら飛ばしていく。
またそれから、二秒。
リングに続いて、フォールは。目の前にいる仇を窒息させようと、感情と思考さえも重く深いものにして。 地面を割るように崩し、土や砂、岩を頭上から鋭く、重く、素早く、落として。
それから更に、二秒。
フォールに続いて、ウィンは。目の前にいる仇を溺死と凍死の両方を与えようと、感情と思考さえも冷たく凍らせて。 逃げ場を無くすように、この場所全体を硬く高い氷の柱と流れの激しい滝で、隙間なく塞いだ。
これだけのことをされれば、仇も上手くは動けず。立ち回れない。
――と、そう思ってしまうのは。思い込んでしまうのは。
リアルは使い魔達の中にはいても、現実にはいないという悲しさと悔しさからくる精神的な不安定さだろう。 精神的に不安定となって、極端で単純な事しか考えられない結果だろう。
だから、全て予言にて無効化され。独自の能力で改変させられ、変換させられ、消去させられ、破壊され、上書きされる。どんなに方法を変えても、どんなに姿勢を変えても、目の前に届く事すらない。
――いいや、そもそも。
この世界を創ったとされる一人の者と。物語と時空等を改変できる、変換できる者達と。この世界を管理する者と。全てを破壊できる者。全てを創造できる者に勝てる事など。傷一つ、与える事など。意思や話が通じる事など断じて無い事だ。
「チェックメイト。バッドエンド。デッドエンド。ですねぇ~
ワタクシ達に目を付けられては、いや。全てにおいて、ワタクシ達のシナリオ通り。 残念ですけど、此処で終わると結末が決まっているのなら、もう無理なんです。
まぁ、でも? 最期の時間くらいは、伸ばしてあげてもいいかもしれません。
跳ね返されて、死ぬなんて。殺されるなんて。面白くは、ありませんから」
加工した感じのある機械的で透き通った高めの声が不敵に、不気味に、おかしく嗤う。 確定演出をもう少し先延ばしすると。延命をさせると、優しさの無い独善を宣言して。
本来ならば、使えないはずの魔法や術を何らかの形で使えるようにして、放とうとする使い魔達を。 じっくりと瞳の奥まで焼き付けて、それぞれ仲間達の顔を見合わせると、ゆっくりと両手を合わせて軽く叩く。
「――全ての物語、時空、歴史などを改変せよ。クリエイティブ&クラッシュ」
最後に、優しく呪文を唱えて。
――――。
――――。
――――。
――――。
「そんな、もん。効くなんて…、利くことなんか…、俺様達にあるわけねぇだろうォ」
だが、たとえ不可能でも。絶対に無理な事だとしても。
サマーは諦めの悪い使い魔であったため。リングは魅力のある使い魔であったため。 フォールは自分にも厳しい使い魔であったため。ウィンは一番に歪んだ想いと愛を抱えていたため。 シナリオ通りには決して動かなかった。動こうとはしなかった。いや、シナリオを自らの意志で打ち砕いた。
だから、予言を騙る者と変換させる者の二人を除いて。致命傷にも近い、大ダメージを何も動かずに与えることできた。 不可能を、無理な事を、上書きすることができたのだ。
「ぐっ、わぁ、は…。お、ぇ……」
「テメェらは、地位の高いお化けさん達なんだっけ、かァ?
それにしては随分と弱く、自分の力を過信し驕っていたようで。加え、俺様達を舐めていたようだなァ」
「あ、ありえない…、ありえません! いくら、彼女の能力や魔法、術を手に入れたとしても……、」
「主人は、元々は極度の死にたがりだったんだ。だから、どうやったら死ぬのかなんて知っていたし」
「貴方達が使用する魔法や術も容易に取得することができた上」
「俺達も最初は…いや、喰った時、一緒になった事で気がついた事なんだけど。リアル様、ただの人間じゃなかったらしい」
「ただの人間じゃない…まさか、」
使い魔達がシナリオを自らの意志で打ち砕き、自分達に致命傷にも近い、大ダメージを何も動かずに与えることができたことにも。驚きを隠せないほど、動揺を見せる仇だが。それがどうして出来たのかに気が付けば、更に動揺をして、気づいた答えを――。
「だから、俺はやめておいた方がいいと。お前らに警告したのに。あの時、元の世界へと帰したっていうのに。 まぁ、やるにしても。他のやり方があったというのに。お前らは…、本当に今しか考えていないな? 」
――口にする前に、仇の一体が呆れ返った口調で愚痴と文句を言う。そして、続けざまに。
「はぁ…、もういい。お前ら、使い魔共の好きにしてくれ。仇討ちでも、復讐でも、何でも受け入れてやる。どうせ、俺達は自分の意志で死を選ばない限り、死ぬことは無いんだ。蘇るんだから…、だから、お前らの好きにしろ」
重大な秘密であろうことをさらっと暴露しながら、諦観し降参するとも口にする。
それを聞き、仇の間で冷ややかな空気が一瞬流れるも。すぐさま、手のひら返しするように自分達も仇討ち等を受け入れると口にして姿勢を取る。
「しょうがないですねぇ…、いや、此処は素直に受け入れることにします。
ご自由にしてください。親愛なる魔女様の使い魔様達」
「……ふざけているのかァ? 」
「え、ふざけてなんかいませんよ、ワタクシ達はただ」
「テメェら、何一つ。反省などしていない。ただ逃げたいだけだ。罪から逃れたいだけだ」
しかし、根本からは反省していないその姿勢は。ただ使い魔達の怒りを買うだけで。何の解決にも至らない。 いや、少しは解決に至る可能性はあるが。それでも、結果的には誰も救われないエンディングを迎えるだけになる。
「永遠と逃げ続ける奴には、絶対に逃げ切れない事を与えるのが一番だ」
「ん? 」
「テメェら、って。自分の意志で死を選ばない限り、死なないんだろう?
だったら、それすらも出来ないようにしてやる。いや、死んでも本当の意味では死なないようにしてやるさァ」
「それは、どういう意味で…? 」
「あの世にすら、逝けないってことだよォ。
どれだけ、心から反省や後悔をしても。魂は死無く、この世界で彷徨い続けるだけ。不老不死のままだ」
「わーお、それは残酷だねぇ。ただでさえ、なかなか死なない長命のワタクシ達に、それを与えるとは」
「それだけじゃないぜ。主を俺様達が死ぬ前に蘇らせることができなかったら――、」
――テメェらが心の底から望み、願い、乞い、縋り求めることは一生、叶わないことにしてやる。 ――一度でも、テメェらにとって不都合な事が起きれば。負の連鎖、悪循環、生き地獄の繰り返しが止まない日々にしてやる。 ――最愛する者が出来た場合は、俺様達と同じ運命に、最期にしてやる。
「それが、俺様達の仇討ちだァ」
不老不死のまま、縋り求めることは一生叶わない、不都合な事が一度でも起きれば、負の連鎖等は止まず。 最愛する者が出来た場合は、使い魔達と同じ運命や最期にするという。仇討ちを使い魔達は躊躇なく選び、同意なく契約をして。異常なまでに口角を上げて、この場を立ち去った。仇達を、リアルの想いを踏みにじって置いていった。
――――。
――――。
――――。
――――。
リアルの望まない事をして置いていった。こんな事をしてもリアルは かえって 来ないと知りながら置いていった。 こんな契約を身勝手にしても、自分達の気持ちは、黒ずんだ色は晴れることは勿論。緩和することも、消えることも無いと理解しておきながら置いていった。ただこの喪失感を埋めるためだけに。ただリアルのいない世界を生きるために。ただ残された時間を過ごすために。ただそれだけのために、契約をして置いていくしかなかった――。
――――。
――――。
――――。
――――。
―――
リアルが いなくなった世界は。使い魔達にとって、自然や季節の無い非現実的な世界のようで、暗く居心地が悪かった。
リアルが いなくなってからは。サマーは、この世界の王として。全てを傲慢に行い、酷く熱く暴れ回った。 リアルが いなくなってからは。リングは、サマーの道化として。全てを狡猾に振る舞い、酷く鋭く吹き回した。 リアルが いなくなってからは。フォールは、サマーの護衛として。全てを厳格に対応して、酷く重く埋もらせた。 リアルが いなくなってからは。ウィンは、サマーの側近として。全てを冷淡に処置して、酷く寒く凍えさせ溺れさせた。
リアルが いなくなり 残された使い魔達の現状を把握した カードの使い魔達は。
自分達の弱さ 愚かさ 身勝手さ を 酷く後悔し 罪悪感を抱き 自分自身を責め続けた
入院なんてしなければ。 いや、自分達が協力しなければ。 いいや、主人であるカードがあの時、声をかけなければ。 怪物に食われ 今亡き カードに想いと憎しみを抱きながら カードの使い魔達も日に日に衰弱していった。 何も出来ず、何もしないまま、置いていった。
リアルが いなくなったことで。人間は全滅してしまった。残ったのはお化け等のモンスター達のみ。 この世界の名前、カラフルモンスターワールドのモンスターの部分が より強調されたとも表せる。 それはさておき、何にせよ。人間が全滅した以上は、異世界等から呼び寄せない限り、新たに人間が創られることも、生まれることもない。途絶えてしまったのだから、致し方ない。記憶や書物に居たと残しておく他ない。置いていかれてしまったのだから。
リアルが いなくなってから。何年の時が過ぎたのだろう。
使い魔達は今年で、469歳。人間で表せば、この世界の基準からすれば、まだまだ若いが。 精神面は、かなりボロボロのようだ。心は、完全に壊れてしまったようだ。 ようやく、仇の一体であるムツキールが蘇生効果のある魔法薬を作ることが出来たと城に訪れた頃には。
もう遅かった。いや、リアルが いなくなった時点で遅かった。城には誰もいなかった。使い魔達は いなかった。
何故ならば、使い魔達は。最期の時を、自分達が創り生み出された場所。リアルの自宅に戻って。 それぞれ、思い出に浸りながら。想いに満ちながら。愛に溺れながら。置いていったのだから。 リアルの元へと 戻ったのだから。かえったのだから。リアルと再会して 改めて満足に 幸せに 過ごしているのだから。 だから、いなかったのだ。その事に気づいて、現状を把握し、安らかな寝顔を見た、ムツキールは。
「魔女様といい、使い魔様達といい、せっかくの舞台の結末を…いい方向に、ハッピーエンドにしようとして改変させたのに、勝手に自分達で打ち砕いて!改変を上書きするなんて! ……本当に酷い度胸ですねぇ、最低な本性ですねぇ。 あれほど、細かい事は気にするなと。粗探しは、よろしくないと。掘り起こすのもダメだと。忠告や警告をしたのにぃ」
いつもの道化が崩れて、演技を忘れて、ただ怒りと悔しさ。そして、憎しみと絶望を口にして。 使い魔達の遺体を丁寧に火葬し、リアルの分も含めてお墓を作れば、次なる世界へと重い身体で進んで行く。 今度こそは、季節の無い現実ではなく。全てを生存させ、明るく鮮やかな物語を創るために――。
―――
解銘 唯歩とムサンウンは、リアルと使い魔達が生きていた日常の記憶をいくつか再生しながら。 次なる世界の物語や結末、展開等が予言の者に邪魔されない方法がないかを考える――。
――――。
――――。
――――。
――――。
午前四時。
ウィン・レインフロストが起床し、リアルと使い魔達の日常の一つが開始される――。
ウィンは起床後、すぐに朝の身支度を済ませて。リアルをサポートする準備に取り掛かる。 そして、午前六時頃。準備が終われば、寝ているリアルに優しく声をかけて起こす。
午前四時、二十二分。
フォール・クロックデザートが起床。
フォールは起床後、丁寧に朝の身支度を済ませて。リアルを鍛えさせるための準備を始める。 五時半頃。準備が終われば、寝ているリアルに穏やかに「朝ですよ」と声をかけ、数秒もしないうちに静かに立ち去る。
午前四時、四十四分。
リング・ストームエアーが起床。
リングは起床後、時間をかけてゆっくりと朝の身支度を済ませれば。
午前七時頃。リアルの魅力をより引き出すために。朝の身支度の中のお化粧等を手伝う。
午前五時。
サマー・ブレイズフレイムが起床。
サマーは起床後、少し面倒くさそうに朝の身支度を済ませれば。
午前七時半過ぎ。今日の朝食は何かと楽しみに待ちながら、リビングへと向かう。
午前六時頃。
フォール、ウィンの二人に順番に起こされて。ようやく、リアル・シャインダークが起床。
リアルは起床後、すぐには動けないため。一時間ほど経過してから、朝の身支度を、一部、リングに手伝ってもらいながら済ましていく。 午前八時、ウィンに手伝ってもらいながら、朝食の準備を進める。
午前九時。
リビングにて、皆で朝食を食べ飲む。
今日の朝食は、シリアル。野菜をそれぞれ、一口サイズに切り分けられたミニサラダ。半熟の目玉焼き。南瓜とサツマイモとジャガイモのふりかけをかけた白米。バナナスムージー。ホットミルクココアだ。
時にお喋りを挟みながら、楽しく食べ飲んでいき。終われば、洗面所にて、しっかりと歯を磨いて。 リアルはフォールと共に魔法や術等を鍛え。サマーとリングは危険が無いか周辺を見回りするため外へと出かけ。 ウィンは敵対者になる可能性がある者を密かに、徹底的に潰しに回り。それぞれ、やるべきことを進めていく。
午後十二時、二十四分。
休憩も兼ねて昼食を食べ飲む。
今日の昼食は、塩トマトカレーラーメン。牛肉と生姜の入ったコロッケ。少量の焼きそば。シナモンロール。レモンの入った氷水。グレープジンジャーエールだ。
何気ない世間話や他愛ない戯言をのんびりと織り交ぜて話しながら、緩やかに気楽に食べ飲んで。 終われば、朝食を食べ終わった時と同じく。洗面所にて、歯をしっかりと磨いて。それから、数十分の自由時間を過ごしたら。途中で二時間に一回の休憩を挟みつつ、それぞれ、やるべきことを再開していく。
午後七時、二十四分。
今日の分のやるべきことも終わり、夕食を食べ飲む。
今日の夕食は、ローストビーフ。温かいクリームシチュー。固めの白米。南瓜のタルトケーキ。黒・赤・紫・桃・水の五色が使われた言葉で表しにくい不思議な味のポテトチップス。ブラッドオレンジジュース。ストロベリーピーチティーだ。
今日はどう一日を過ごしたのかを面白おかしく話し合い、賑やかに愉快に楽しく食べ飲んでいく。 食べ飲み終われば、朝食と昼食と同様。洗面所にて、歯をしっかりと磨くことは勿論。今日のやるべきことは終わっているため、着替えなどの身支度やお風呂に入るなど寝るための準備などを済ませていき。睡魔が来るまでの間は、食事の時にしていたお喋りを延長させつつ、家で出来る遊びやゲーム等をしながら、夜の時間を満喫する。
午前十二時、二十四分。
睡魔が来たため、それぞれ自室に戻って就寝する。
ウィンは、かけ布団を軽く。身体の真ん中辺りまで被って、何の夢も見ずに熟睡する。
フォールは、かけ布団をしっかりと。人間で表すならば、肩の下辺りまで被って、時より寝息を立てながら眠っていく。
リングは、かけ布団を身体に巻き付けるように包んで。様々な楽しく魅力のある夢を見ながら、寝ていく。
サマーは、かけ布団をかけず。腕を組むような体勢で、寝息を少し大きく立てながら、眠りへと落ちる。
リアルは、かけ布団を抱き枕のようにして掴み。また寝返りを左右に激しく起こしながら、睡眠を取っていく。
これが、リアルと使い魔達の日常の一つだった。
日常の一つにしか過ぎないものの、実に平穏で優しく甘い時間であったと表せる。
本来ならば、きっと、この先。何十年と続いていたはずだが。
現実は――、せめて、予言の者に邪魔をされなければ。いや、予言の者と自分達の間違った選択肢や言動のせいで。継続させることができなかった。
これは、酷い結末だ。
もう、この世界の物語をやり直す事などできない。取り戻すことはできない。取り返せはしない。 だからこそ、次の世界の物語では。誰も救われないなんていう結末は避けなくてはならない。 そのためにも、リアルと使い魔達――バケル・シントウカルテットの記憶からヒントを得て。 予言を覆す方法を見つけよう。誰もが幸せになれる、救われる、ハッピーエンドな物語と結末を創ろう。
そう、無謀な誓いを立てて。解銘 唯歩とムサンウンは、ムツキールとは少し違う別の方向から探し進めていくのだ。 次こそ、季節の無い現実ではなく。全てを幸福にさせ、曇りの無い彩り豊かな結末を創るために――。




