第67話 会議
「カイリまさか……」
「………」
カイリは、違う違う忘れてた訳じゃないと心の中で言い訳する。
カイリも王都に来るまでは幼馴染みのレイラのことをもちろん覚えていた。
しかし、武具屋で刃傷沙汰に巻き込まれて詰め所で調書とられたり、選考会だの、騎士副団長と模擬訓練だの、魔法師団幹部から召喚魔法教わったり、魔道具について教わったり、あれ?何かほんとに色々ありすぎじゃね?と自分の境遇に疑問を浮かべるも色々教われるのはありがたいんだけどと無理矢理納得した。
つまり、
「……忘れてませんよ?」
思いっきり忘れていた。
しかしカイリ達が王都に来たのをレイラは知らない。
なら王都に来て10日以上経つのにまったく顔出してないこともバレてないってこと。
ならば、
「あ、もしかして驚かすつもりだったの?」
「はい?」
「ごめん、言っちゃった」
「え?」
カイリはソフィアが何を言っているのか分からなかった。
「だからレイラちゃんにカイリが王都に来てるよって言っちゃった」
「なんで?」
「何でってカイリ王都来てるし」
「いや何で師匠がレイラと会ってるんですか!?」
(この広い王都で引きこもりの師匠か鉢合わせするとかどんな確率だよ!)
「いや、だってレイラちゃん可愛いし」
「…………は?もしかしてですけど。
師匠、まさか自分からレイラに会いに行ったんですか?」
「時間はいくらでもあったからね」キリッ
「仕事しろや!」
偶然じゃなかった。
「いつ会ったんですか?」
「おととい会ったよ。
一緒に新作のケーキ食べた」
それなら明日あたりに会えば誤魔化せるか?
「その前はパフェ食べて、あ、あと行列のできるパスタ屋にも行った」
「ちょ、一体何回会ったんですか!?」
「4回くらい?」
「3日に1回は会ってるじゃないですか!?」
「だから引きこもりじゃないし」
「ずっと引きこもっててください!」
「ひどいっ!?」
さっきまで真面目な会話だったのになんでこのポンコツエルフはぐだらなきゃ済まないのか。
~王国軍会議室~
室内には4人の男女の円卓を囲み腰掛け、1人は大柄な男の後ろに控えて立っていた。
「失礼します」
そこへ赤髪の騎士が到着し、その補佐官もそれに続く。
「来たか」
大柄な男、騎士団長ヨーゼフがクラウスとその後ろに控えるヴァネッサを一瞥する。
そこでヴァネッサは軍関係者以外の人物がいることに気付く。
「お久しぶりです。
クラウス様」
「久しぶりだね。
冒険者ギルドの副本部長がいるということは遠征の件かな」
「と、僕も伺ってます」
副本部長のヨーゼンは同じく円卓に座る女性、魔法師団長クッカに視線を向ける。
「それを今から説明するから座りな」
円卓にクラウスが座ると後ろにヴァネッサが立つ。
円卓の並びは入り口から時計回りにクラウス、ヨーゼフ、クッカ、ユハナ、ヨーゼンの5人が座る。
「マルコの阿保垂れはどうした?」
クッカが苛立たし気にヨーゼンに問う。
「えーと、ギルドマスターは用事があり欠席ということで」
ヨーゼンは苦笑しながらも答えるとクッカの額に青筋が走る。
「どうせまた呑み歩いてるんだろうがあの阿保垂れは!
副団長、うちの馬鹿垂れはどうした?」
この場合の副団長はクラウスだ。
「ソフィアさんなら第二訓練場です。
カイリ君の介抱をしてますよ」
「……なら仕方ない」
「なんだクッカ導師、珍しく甘いじゃねぇか。
いや甘いのは孫弟子にか」
「何が言いたいんだい?」
「いやな、どんな奴なのかと思ってよ。
あのグータラの弟子でクッカ導師、ユハナ副団長、うちのクラウスとみんなで面倒見てるじゃねぇか」
「何が言いたいんだい?」
クッカもヨーゼフとは長い付き合いであり、言いたいことは分かってる。
そこで後ろに立つ男が口を開く。
「お察しの通りヨーゼフ団長も混ぜろと言いたいのでしょう」
慣れているのか澄まし顔の補佐官、フーゴの補足にヨーゼフはニカッと笑う。
(あれは他人あれは他人)
この面子、この状況で血縁者がまた始まったことに必死に目を背けヴァネッサは心の中で唱える。
「そもそもあんた、何を教えるのさ。
馬鹿弟子が魔力操作。
アタシが召喚魔法。
ユハナが魔道具。
あんたんとこの副団長が剣。
あんたが得意なアレは多分あの子に覚えられないよ」
「むぅ、仕方ない。
ならやっぱ剣か!
クラウスたまには変われ。
俺が特訓つけるから」
「やです」
「そう言うなって」
「やです」
「な、お前、なら団長命令だ!変われ!」
「カイリ君とは個人的に指導してますから軍務とは別です。
実際仕事が終わって職務時間外で教えてますから」
「くっ、そっちは職務時間内じゃないのか!?」
クッカを見るも
「職務時間だろうがなんだろうがアタシの魔法師団だ。
あんたにとやかく言われる覚えはないね」
軍を私物の問題発言だが実際導師に文句を言える人物は少ない。
導師はこんなことを言うも王国の不利益になることはまずやらないし、長年仕えた忠義があることはみな理解している。
また、ごく少数しか知らないが密かに国王の相談約兼飲み仲間だ。
現国王も導師には特に若い時分世話になったので頭が上がらない。
「ずりぃな、みんなしてよ」
不満そうに言ってヨーゼンを見る。
「副本部長もそう思うだろ?」
「ギルドからもカイリ君に指導者つける予定ですよ。
遠征中ですけど」
「かぁー、ヨーゼフとヨーゼンで似た名前だからお前だけは信じてたのに」
「あの、僕が子どもの頃からそれ言ってますがそこに引っ掛かってるのヨーゼフ団長だけですから止めてくれませんか?」
(あれは他人あれは他人)
「なら俺は実技戦闘以外を教えるかな」
「なんだい?戦略や戦術でも教えるのかい?」
「まあ堕とし方という点では一緒だが、敵じゃなく女のな」
どや顔で述べた騎士団長を導師は鼻で笑う。
「はっ、酒場のウェイトレスにフラれてビービー泣きべそかいてた奴がよく言うよ」
「おい、あれは俺がまだ10代のころの話だろうが!」
(あれは他人あれは他人あれは他人あれは……)
王国軍ツートップのしょうもないやり取りを、クラウスが家に帰りたいのか時計をチラ見して、ユハナがニコニコと眺め、ヨーゼンが困った顔で笑い、フーゴは適当に流し、ヴァネッサは顔を真っ赤にして俯いていた。
「で導師、この面子でお話とは?」
いっこうに話が進まないのでクラウスが本筋に戻す。
ヴァネッサはほっと息を吐いた。
尊敬している騎士団長の父が会議で関係ないところでゴネ始め、モテる発言の上、知りたくもない失恋話にまで発展。
しかもそれが複数人の前でだ。
娘としては耐え難い時間だったのは想像に固くない。
ヴァネッサはとても真面目で素直な子どもだった。
父であるヨーゼフが仕事でなかなか家にいないことを寂しく思いながらも、母や執事から父は国を守っている立派な人と聞かされ育ってきた。
こうして大人になり軍に入ってその言葉に偽りはなかったと思っているがヨーゼフの豪胆で奔放な性格に子供のころは気付いていなかった。
(妹はまだ父のこの性格を知らない。
私以上に父を尊敬しているあの子には黙っていよう)
どうせ黙っていても父や私の後を追って軍に入れば知ることになるのだし、とどこか遠い目をする新人補佐官。
そんな様子を先輩補佐官のフーゴが優しい目で見守る。
真面目な者にしか分からないなら苦労があるのだ。
そしてそれは奔放な者の近くにいるほど重なる。
導師は一度全員を一瞥すると本題に入った。
「皆に集まって貰ったのは遠征に聖教国から聖女が参加することが決まった」
ヴァネッサはこの時、クラウスの顔が一瞬嫌そうに歪むのに気付かなかった。




