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黒龍殺しの付与術師  作者: しきな かいどう
少年期 ~王都編~
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第68話 買い物は一人がいい

 カイリはあらためて思った。

 “誤算だった”と。

 選考会までの三日間を休息日にあてるということで、クラウスとの訓練ではあえて無茶をした。

 ソフィアには無茶なんてしてないと言ったがかなりの無茶をした。

 それは魔力を使いきること。

 今までも魔力は枯渇するまで特訓したことはあった。

 そのときは軽い酩酊状態に襲われた。

 一般的に言われている魔力の枯渇は厳密には0になることではない。

 無意識的に微量の魔力は残すように人は出来ている。

 何故なら必要なものだから。

 カイリの前世と今の人体の構造は違う。

 魔法を使えない人も微量の魔力は保持している。

 そして身体の仕組みとして備わってるものに不要なものなどない。 

 それを雑巾に残った水を絞り出すかのように無理矢理引き出す。


 ソフィアから魔力欠乏にも危険度があるとは事前に聞いていた。

 それでも敢えて実行した。

 その状態でどこまで動けるのか、どこまでコンディションが落ちるのか試してみたかったのだ。


 その結果激しい頭痛と吐き気、脱力感に教われた。

 そんな状態でクラウスに挑み続けたところ膝蹴りを受けて全く動けなくなり、ソフィアに魔力譲渡を受けた今も未だに動けないでいる。


 そんな体たらくなので運んでもらっている。

 その手段が()()を生み出している。


 長くなったが何が誤算ってその()()が一番の誤算だ。


 (めっさ恥ずい)


 カイリは仰向けになりながら()に背負われて運ばれている。

 その亀は陸亀より大きく、子ども一人を背中に乗せるなど造作もない。

 歩く速度も普通の人とそう変わらぬ速度で歩いてくため地面が近く、結構な勢いで通りすぎるため何気に怖い。

 何より怖いと思ってるのは周囲の人達だろう。

 大きな亀におぶさり死んだように運ばれる子どもとその前を上機嫌に鼻唄を歌う青エルフ。

 シュールだ。


「ママ、亀さんが女の子乗せてる。

 私もアレ乗りたい~」

「しっ、見たら駄目よ!」


 町中で注目されない訳がない。

 この亀はソフィアの召喚魔法による聖獣だ。

 名前はリプラテス

 ソフィアは略してリプと呼んでいた。

 ちなみにカエサルは精霊だがリプテスは聖獣、大精霊のカエサルとは比較出来ないが精霊よりも聖獣の方がずっと存在は希少だ。

 エルフは森の種族のはずなのにペンギンといい亀といい水族館でも開くつもりなのか?


「すみません。

 こんなことさせてしまい」


 そんな聖獣は誇り高いと導師から授業で聞いていた。

 子供のおんぶの為に呼び出していい存在ではない。

 それは大精霊にも同じことが言える。


「なぁに、いいんじゃよ。

 たまには運動せんと体が老いぼれていく一方じゃから」


 返ってきた声音は優しい好々爺といった感じだ。


「それにソフィアが小さい頃は四六時中ワシが背に乗せて移動していたからのぅ。

 トイレ以外で地面に一度も足をつけん日もあった」


「一度もって」


「今でもたまに呼び出されて運ぶこともあるしのぅ。

 ほっほほぅ」


 穏やか笑う亀だが、あのポンコツがぐーたらな要因この亀にもあるんじゃ……。


 そんなことを話していると宿についた。

 宿の女将さんは一瞬驚いたがすぐに営業スマイルに戻った。

 人の出入りの激しい王都の宿を切り盛りしているだけあって関わらない方がいいと判断したのだろう。


 部屋に入るとカイリをベッドの上に寝かせ、リプラテスは帰っていった。

 聖獣というだけでなく優しいおじいちゃんを足に使ったようでカイリは罪悪感がすごい。

 次にあったときにお礼に何か渡そうと心に決めたものの亀って何食うんだろ?と頭を傾げる。


「調子はどう?」


 ソフィアは自分のベッドに帽子をぶん投げると振り返り訊ねてきた。

 カイリは「帽子はちゃんと荷物掛けにかけてください、シワになりますから」と告げると上半身を起こす。


「少し落ち着いてきました。

 明日の昼には動けると思います」


「そう、それでも明日は魔法禁止だからね」


「いや、魔力は師匠に補充してもらったので基礎練は大丈夫ですよ?」


「禁止」


「大丈夫ですって」


「ねぇ、カイリ?

 君の魔力回路は普通じゃないってこと忘れてない?

 本来の自然なモノと違って変形しているの。

 いくらアレから数年経過したからと言っても様子見が優先。

 自己管理の出来ない魔法師を遠征に連れていく気はないから」


「わかりました」


 いつになく厳しい気がするが確かにソフィアの言うことが正しい。


「出掛ける程度は構わないけど、カイリは明日どうするの?」


「元々予定していた裁縫屋に行こうかと……」


「えっと……服に何かご不満が?」


 なんで敬語なんだ?


「いえ、師匠から貰ったこの服は軽いし丈夫だし気に入ってますよ。

 同じモノたくさん貰ったから洗濯も回せますし。

 明日は魔狼の毛皮がやっと加工できる段階に入ったので採寸させてほしいと連絡をもらったんです」


「そ、そう」


 なぜかほっとしている様子を訝しげに思うも今日は疲れてうまく頭が回らない。

 次第に眠気が強くなってくる。

 魔力を使いきるとスキルと関係なく眠気が強くなることに何か関係あるのかなと思うも「(もう頭が……働かない)」


「取り敢えず今日は寝ます」


「うん、おやすみ」


 今にも眠りそうなカイリだが顔だけ上げると晩酌の準備を始める蒼エルフを見つめる。


「……」


「なあに?」


「ありがとうございました」


「何が?」


「今日は色々面倒かけたので」


 ソフィアは一瞬キョトンとすると穏やかに笑う。


「いつもはあたしが面倒掛けてるんだからこんなことで気にしなくていいの。

 それに面倒だなんて思ってないから」


「面倒掛けてるという自覚はあったんですね。

 ……そうですか。 ちなみに僕はいつも面倒だと思ってます。」


「今そこ拾わなくてよくない!?

 あと後ろのいいセリフをもっと良い意味で拾ってよ!」


 今度はカイリが声に出さずに笑うとソフィアのツッコミを聞きながら抗い難い眠りに誘われゆっくりと眼を閉じた。




 目を覚ますと既に日が上っていた。

 以前、魔狼の時にぶっ倒れたときもそうだったが魔力欠乏を起こした際はどうやら普通に寝れるようだ。

 まあ普通に眠るために毎回こんな状態に陥りたくはないが。


 いつものようにソフィアを起こして(以下略)


 出掛ける準備をしているとソフィアもなにやら服を取り出し始めた。


「今日は師匠も出掛けるんですか?」


 もしかしてついてきてくれるのだろうか?


「うん、今日はレイラちゃんとデートたから。

 話題の氷菓子のお店に行くんだぁ!

 この時期に氷菓子とか珍しいから楽しみ!

 そのあとは服屋巡りして。

 あ、カイリも行く?」


「……裁縫屋がどのくらい時間かかるかわかりませんから」


「寸法測るだけならすぐでしょ?

 なんなら服屋行くついでに付き合うよ」


「大丈夫です」


 きっぱりと断る。

 女性の買い物、特に衣装関係はろくな思い出がない。

 女性経験が少なく付き合い始めの頃はいいのだ。

 彼女が何をしていても、ワガママを言っても可愛く見えるという、頭がお花畑の時期があるのだから。

 それも2ヶ月が経つ頃には花も枯れ始める。

 荷物は持たせれるし、いろんな店をひたすら歩き渡り、試着した服は褒めねばならず、つまんなそうにしていると怒り出す。

 そんな理不尽なイベントに巻き込まれてたまるか。

 前世の知り合いでモテる奴は顔が良いか、それともとてもマメか。

 そのどちらにもあてはまらなかったのでやはりモテなかったが、だからと言ってあのマメさは真似出来ないししたくない。

 毎日メールを送り電話をして、時間が合えば会いに行き、彼女が不機嫌なら一生懸命理由を考え……そんなのが楽しかったのは高校生までだ。

 人それぞれだとは思うが、自身は自分の時間が大切で必要な人間だったから、空いた時間を全て彼女に捧げるとか無理だし、第一彼女の方もいちいち彼氏から干渉されて嫌じゃないのかと思うのだが。

 合コンでこの手の話をすると大概女の子はヒいていた。

 ただ中には“私はサバサバ系なんで”ツラした女の子はそれわかるーと言って盛り上がった為、付き合ったところ一月でフラれた。

 マジまんじ。



「カイリ、カイリ?」


「あ、はい」


「大丈夫?

 なんか遠い眼してたけど」


「ああ、気にしないでください。

 それに、師匠には分からない話ですから」


「そう?」


「レイラに明日予定空いてるか聞いといてもらっていいですか?」


「大丈夫だよ。

 確か空いてるって言ってたから。

 レイラちゃんの予定は完璧に把握してるから任せて!」


「そ、そうですか。

 じゃあ行きますね」


 自分の半分も生きていない少女とばかりと遊ぶ、年齢イコール彼氏いない歴のエルフを部屋に置いて宿を出ると空はどんよりと曇っていた。

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