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黒龍殺しの付与術師  作者: しきな かいどう
第1部 序章
3/101

しがない人生

 

 途中まで、そこそこの人生だった。


 容姿、中の下

 成績、中の上

 運動神経、上の中

 部活、努力の甲斐あって上の上


 自分で言うのもなんだが真面目でそこそこ優しかったこともあり、彼女もいた。


 そこそこのランクの大学に入り、無事卒業。

 公務員になった。

 後は割かし、予想のつく人生を送るはずだった。


 だが、そうは行かなかった。


 職場で、お金が盗まれた。

 俺の財布からと、他の同僚数人からだった。


 上司に訴えるも盗まれるやつにスキあるからだと言われた。


 普通の会社以上に大事になるからと問題になるのを嫌ったんだろう。


 数ヵ月後、2回目の盗難があった。


 今度は俺の財布からだけだ。


 同じ上司に言うと盗まれる大金を入れていたお前が悪いと言われた。


 てめぇ、一般市民の被害者にも同じことが言えんのかと頭にきたが、お前が我慢すれば丸く収まるんだという周囲の圧力に負け黙った。


 そう、俺が我慢すればいいんだと。


 盗まれた時間帯はいずれも専属業務中で、貴重品はダイヤル式金庫に入れていた。

 つまり内部犯行は確定していた。


 翌年、3回目の盗難があった。


 俺はあれから別に個人で保管するようにしていたので被害は無かった。


 さすがにまずい(とっくにまずいだろうが)とさらに上の上司に連絡がいった。


 監査が入り、聴取をうけた。


 俺は被害者で関係ないと余裕こいていた。


 一週間後、個別に呼び出しを受けた。


 みんな、順番で受けるものだと思っていた。


 監査の人間は俺がやったと決めつけていた。


 頭が真っ白になった。


 納得が行かず、監査官になぜ俺がと情けなくも裏返った声で尋ねた。


 3度目の盗難の日に俺が金庫の前をうろついていたと証言する者がいた。


 証言者は同期と後輩だった。



 はめられた。



 必死に俺じゃないと説明するも聞く耳は持たれなかった。

 それが朝の9時から夜の7時まで続いた。

 明らかに違法な取り調べだった。

 もちろん記録に残すわけにはいかないので任意による聴取という形で。


 調べが終わり職場に一度戻ると、同僚は腫れ物を扱うような目で見てきた。

 同僚の絆を声高に叫ぶ職場で疑われたこと、そして疑われるような人間と思われていたことにショックを受けた。


 怒りでおかしくなりそうだった。

 悲しくておかしくなりそうだった。

 今の扱ってる業務が一段落ついたら、自分の命を絶って無実をうったえるつもりだった。




 翌朝、また違法な取り調べが始まった。

 この時点で弁護士を呼べばよかった。

 ただ調べる監査官も仲間にこんなことはしたくないと言った。

 この人も命令を受けているだけだと思ってしまった。

 公務員も社畜と変わらない。

 同じように税金を払い、上司の命令には逆らえない。

 外部に情報が漏れにくい分、パワハラやモラハラはもっとひどいかもしれない。

 今、考えれば命令だからといって何をやっていいわけでもない。  

 結局、俺も社畜根性に染まっていた。 


 朝から夜まで、やった、やってないの押し問答を続けた。

 といってもずっと調べ室にこもりっぱなしで外に出してもらえず時間の感覚がおかしくなり、ストレスもあいまって吐き気をもよおしてくる。


 監査官二人に他に犯行の可能性をいくつか示唆するも、()()()()()()()()()()()と言われた。


 この時に、犯人は誰でもいいんだと気づいた。


 それからもやったやってないの問答が続く。


 何も考えられなくなってきた。


 やってないけど認めれば楽になると思った。


 そうだ、認めよう。


 けど・・・俺、やってないのに?


 それとも俺、やったのかな?


 ほぼ限界だった。


 やりましたと言おうとした。


 けど俺の口から出たのは「やってない」の言葉だった。


 自然と涙が出てきた。


 もう、自分でも何の涙か分からなかった。


 犯行の内容だってわからない。


 わからないんじゃ説明のしようがない。


 ああ、そうか。


 俺が未だに認めずにいられるのは犯行内容を知らないという理由だけだった。


 職場の直属の上司が様子を見に来た。


 私じゃない、やってません。

 帰らしてください。


 返ってきた言葉は“いいからこのまま取り調べをうけろ”だった。


 二人いた監査官のうち一人がお前が認めるまで明日も明後日も取り調べは続くと言われた。


 気持ちが折れる音が聞こえた


 ここまで耐えたのは仲間に信じてもらいたかったから。

 けど、こんなやつらに信じてもらうことに何の意味があるのだろう。

 死んでまでうったえる価値なんて  

 あるわけないじゃん

 はは


「辞めます」


 すぐに退職届けを渡され受理された。


 組織は俺に罪状を認められるより、依願退職という形で臭いものに蓋をした。

 何らかのアクションを起こしましたと上にアピール出来れば良かったのだ。


 結果、真犯人を捕まえなくても再発防止の抑制になればいいという考えで。






 5年後、車に轢かれそうな子供を庇って死んだフリーターがいた。


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