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閑話休題 大いなる意志

 

 人間は嫌いでは無かった。


 どちらかと言えばむしろ___好きである、と言えるかもしれない。


 いや、より正しく言うとすれば___



 人間の意志が、好きであった。



 自らが意志しか持たぬ精神のみの存在だったからだろうか。



 自分の意志とは違い、人間の意志は多様性に富んでいた。


 同一人物ですらまるで違う意志を複数持っている事もあったのだ。



 __だから、その意志に。


 少しだけ自分の力を渡してみる気になった。



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「良いか?お主はストッパーじゃ。ワシは力をばら撒きすぎた……。もし世界が危機に瀕したのなら、その時は_____」



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「……人間等という下等な存在に肩入れし過ぎたのかのぅ」


 妙に老成した喋り方で__マリアはぽつりと呟く。


 だが発せられている言語は英語でも、ましてや日本語でもない。


 何と言っているか分からないのに、ただただその言葉の意味、意志だけが伝わってくるという異様な…最早言語ともつかぬ…ナニカであった。


 そのマリアの尋常ではない様子__見る人が見れば、こう呼称していたに違いない。


 神憑り、と。


 またとあるカルト宗教団体から言わせてみればこれは_大いなる意志の顕現と呼ばれる現象なのだろう。



 だが呼称がどうあれソレが存在している事に変わりは無い。


 あらゆるモノ、現象を凌駕する、超越者的存在。


 そんな存在が今、少女の身体を借り、この地上へと降り立っている。



「能力も最早人の意志で歪み取り戻す事も叶わん」


 適当に分け与えた力の元のようなモノなどいちいち回収しようとも思わないが、『ストッパー』という役割を与えた少年……

 彼に与えたモノだけは、他とは一線を画すモノだったのだ。


 壊してバラバラにし再構築しても良いが……出来ればそのまま回収したかった。

 いや実際そうするつもりであったし、そうなるはずだったのだ。



 その力__権能は、一度『科学』がこの超越者に迫り、暴き捉えようとした際に行使されたモノだった。


 その頃は初めて見つけた『正義感』という概念にハマっており、それが人一倍強いと思しき少年に気まぐれと__軽い実験的意味合いでその力を引き渡した。


 初めの内は良かった。


 人間のヘマの修正という面倒な仕事をその少年がこなすようになったからだ。


 超越者は空いた時間でひたすらに娯楽に走り、好奇心を満たした。



 だがそうして超越者が娯楽に興じている間に、与えた力は少年の意志と交じり合い、最早取り出す事の叶わぬ別の力へと変容していたのだ。



「……チャンスくらいはくれてやろう。人間よ」


 だが。幸いな事にこの超越者はここまでの惨事に至っても人間の意志を好いていた。


「かぼそい道。一つでも道を誤れば容易く閉じる」



 気がつけば少女は先ほどとはまるで違う道……いや、違う国を歩いていた。


 視線の先にはあまりにも場違いなその少女の存在を見、固まる男と___


 異様な姿の人形が、居た。



「過去の遺産。ワシを模した出来損ない……ソレを始末しに来た」


「な、何だ?どういう事だい嬢ちゃん!?」


「世界を壊してもその人形だけはしぶとく生き残りそうじゃからの。邪魔なのじゃ、ソレは」


「……何者だ、アンタ」


 何か勘付いたのか、その男__異能具売り(タレントツールディーラーのジョンの顔つきが変わり、少女に警戒の眼差しを向ける。

 潜った修羅場の数は伊達ではないという事なのだろう。


「……ふむ。いやしばし待つとするかの。おそらく無理じゃが……今の世界が修復される可能性もまだある」


 ジョンの問い掛けをガン無視し、独り言を呟くと少女はドカリ、と地面に座り胡坐をかいた。


「……な、なぁギミーク。知り合いか?」


「……」


「……勘弁してくれよ…………」



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『何だかんだ意外と何とかなるもんさ』


 これはジョンの信条であり、実際にこの信条を抱き諦めなかったお陰で命を拾った事は何度もある。


 最高にヤバい宴への招待も、異能精鋭隊の隊長とのエンカウントも、肉塊共との死闘も。


 何とかなってきた。



 だが、今回ばかりは___


「何とか、ならねぇかもなぁ……」


 分かっている。


 その少女は突如として現れ、何を言っているか・・・・・・・・分からない・・・・・のに分かる・・・という摩訶不思議な言語を使っていた。


 それだけじゃない。


 ジョンは以前、とあるカルト教団への武器の密輸にも一枚噛んでいた。


 その時情報屋で仕入れた情報の中には。



 大いなる意志。

 そしてその巫女たる___幸運猫の異能者についての情報もあった。



 平時であれば「そんな馬鹿な」と一蹴したであろう考え。



 だがこの異様な世界と、異様な行動、言語。


 そして情報と一致する容姿。



 根拠なんて無い。強いて言えば先ほど述べたものくらいの物だ。


 だが確信はあった。


 商人としての勘が告げている。


 間違いない。





「___アンタ、大いなる意志、だな?」




 少女はそのジョンの決死の問い掛けに対し、チラリと一瞥をくれた後、どうでも良さそうに。



「ああ、そう呼ぶ奴等もおるのぅ」



 そう、答えた。



 眩暈がする。


 夢なら早く覚めてくれと願うも、目の前の少女は依然として胡坐をかいて座っている。



 ___あぁ。



「最低で最悪の日だぜ……まさかこの数日で何度もワースト1が入れ替わるとは思ってもみなかった」


 ジョンは頭を抱え崩れ落ちた。

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