表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異能×屍 -終末における俺の異能の有用性について‐  作者: ペリ一
偽花の章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/51

第4話

 カタカタと、歯が鳴っていた。


 その絶えず来る震えは。


 寒さでも、ましてや武者震いでもない。


 恐怖。


 恐怖恐怖恐怖。



 ただそれ一色であった。



「はぁ、はぁ……ッ!」


 自分の脚が捻り切られるのではないかと思う程の激痛。


 一度でもペダルを踏む事をやめてしまえば、もう二度と車輪を回す事は叶わないだろう。


「……くそ!!」


 耳をすませば、未だ聞こえる足音。


 所詮どれだけ頑張った所で劣化肉体強化だ。


 道をしっかり選ばなければ、疲労した所を囲まれ殺される。



 ……それにしても。


 ここまで追跡が可能という事は、そこそこの知能を有しているという事だろうか。


 それとも……



「俺が遅すぎってか……ハハ」


 このままでは埒が明かない。


 今現在、無理やり身体を動かせてはいるが、長くは持たない。



 ならば。



 各個撃破できるような場所に誘導し、仕留める。



 生前の異能者が立ち入りそうになく。


 かつ、各個撃破に向いた場所……


「……ビルの屋上で迎え撃つ……か」


 階段や部屋を通る中で個体により屋上に来るまでの時間に差が出るはずだ。


 それに、アイツらはどうも小回りがきいていないようであったし、この選択が……


「ベスト……って程じゃねぇが……」


 ベターと言った所か。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーー


 机、椅子、通常のゾンビ……


 ビルの中にあるあらゆる障害物を力押しで突破し、屋上を目指す。


 だが次第に重くなる身体。


 それに喝を入れるように栄養剤を口に放る。


 これで栄養剤の3分の1程を消費してしまった事になる。



「……やっぱりか……」


 そこで、下から階段を駆ける音が響く。


 建物内までは追ってこれないのではないか、という淡い期待は潰えた。


「……ちくしょう……ッ!!」


 あまりの絶望感に、正気を手放してしまいたくなる。


 一切の思考を放棄し、狂気に沈む事が出来たなら、どれだけ楽だろう。




 だが、生きたいのなら。


 それは許されない。


 抗うためには、思考を捨ててはならない。



「……よし!!」


 そこでようやく屋上のドアに到着する。


 ドアノブを引きちぎらんばかりの勢いで回し、ドアを開ける。


「ゾンビは……いない……」


 屋上のゾンビの有無を確認。


 ドアを少し開いた状態にし、ドアのすぐ隣で兵装……剣を構える。


「殺す殺す殺す……」


 階段を駆け上がる音が次第に近づく。


 そして、その音がドアに達した瞬間。


 殺意を迸らせながら、剣を振る……おうとした。




 ガキィン!!



 衝撃と共に握っていた剣が吹き飛ばされ、それと同時に腹にも衝撃。


 そのまま宙を舞った後、地面に叩きつけられた。



 朦朧とする意識。


 こちらへ近づく足音を聞きながら俺は。



「……そうか」



 そんな、諦念の色濃く混じった呟きをこぼし、意識を手放した。


 少しでも痛みを感じないために。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーー




 俺は。



 一向に水面の見えない、水の中で。



 必死にもがいていた。



 そして、どういう事か俺は。


 息をしたいのではなく、日を直接浴びる為に、もがいていた。


 息をしなくては生きる事は出来ないというのに。


 日光は、直接浴びずとも良い物なのに。


 ただただ、無駄なもがきを続けていた。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーー



「……う……ん……?」


 妙な夢から覚め、俺が真っ先に抱いた感情は。


 生きている事への戸惑い……ではなく。


 拘束具への不快感であった。



「……」


 グイ、と引っ張ると、カシャンと音をたて、腕に圧迫感を与えてくる手錠。


 そして同じ物が脚にも着けられていた。


「……何だこれ」


 そこでようやく、自分が気絶する直前の行動を思い出す。


「…………ゾンビの食料庫か何かか?」


 そういえばあのゾンビはやたら強かったし知能もあった。


 もしかしたらそれを統率している存在が……



 そんな事を考えていると、正面からカツ、カツ、と、誰かの足音が聞こえてきた。


 そしてその音は、次第にこちらに近づいてきていた。



 そして遂に、ガチャリという音。


 入ってきた者を確認したいが、生憎首にも拘束具が着けられており、見る事が出来ない。


「……誰だ」


 恐怖で声を上擦らせながらも、尋ねる。


 だが、それに対する返答はなく。



 唐突に、ぬっと顔を覗き込んできた。



 その覗き込んできた顔は。



赤嶺(あかみね)……さん……」


「……お久しぶり」


 見知った顔であった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーー



 事の顛末は、こうである。



 まず、戦闘音を聞きつけた赤嶺。


 そしてそのすぐ後に、自転車で全力疾走する俺を見つけたのだという。


 接点は少ないとはいえ知人が生きていた事に喜び。


 そして、保護すべく追跡を開始した。



 ただ、思ったよりも俺が速く、なかなか追いつけずにいると。


 唐突に俺がビルの中に入った。


 これ幸いとばかりに自分もビルの階段を駆け抜け、俺の元へ。





 そして、屋上で俺が赤嶺に切りかかり、返り討ちにあった、という訳だ。





「……いや、なんか……すんません」


 俺は拘束されているため、頭を下げる事が出来ない。


 その事に歯噛みしつつも謝罪を行う。


「いやぁ、私が剣豪(ソードマスター)で良かったよ……他の人だったら、反応出来なかったかも」


 確かに、あの一撃は一生に一度出せるか出せないかくらいのキレだった。


 いや、まぁ、それでもあっさり防がれてしまった訳なのだが。


「……まぁ、赤嶺さんが無事で良かったよ……ところで、此処はいったい?」


 拘束具については聞かずともわかる。


 感染の疑いがあるせいだ。


「生存者を集めて……学校を再現してるの」


 ……はぁ?学校を再現?


「……えぇと、それは……」


「馬鹿馬鹿しいよね、そんな事したって日常は戻らないのに」



 ……これは……なんともまた、胡散臭い場所に来てしまったようだ。


「……でも、仮初でも日常に縋り付きたくなる気持ちはわかるよ」


 ……わかる、わかるが……


「さっさと踏ん切りをつけないと……まずい事になる」


 実際に俺は、まずい事態に追いやられた。


 奇跡的に命を繋げたものの、次は無いだろう。


「……それは……経験則、かな?」


 ……その通り。


「……まぁ、いっか………確かに、ね」


 赤嶺は、少し考えるような素振りを見せた後。


 でもね、と続け。


「案外、トップが上手くやってるからさ……それに、仮初とはいえ皆が一体になってる…………まぁ、私はその輪から外れてる訳だけど」


 なるほど、確かに数は力だ。


 それを統率する者の技量が高いとなれば尚更だろう。



 一方で何故、クラスでトップカーストであった赤嶺さんが輪から外れているのか。


 そういった疑問が浮かぶ。


「じゃ、そろそろ……会議があるから」


 会議。


 その一言だけで、俺は大方の察しがついてしまう。


「……会議って?」


 だが、敢えて訊ねる。


 違う事を祈って。



 だが、俺のその祈りは。


「……門の軍人異能ゾンビ達を倒す為の、攻略会議、だよ」


 あっさりと、裏切られた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ