第6話:美少女(女装)の本気
深層級魔法。
それは本来、人間が正面から受け止められるものではない。
ましてや下層。
迷宮そのものを崩壊させてもおかしくない威力だった。
だが――
「う、そ……」
美月が震える。
目の前では銀髪の少女が片手を前に突き出し、巨大な魔力の奔流を押し返していた。
銀色の障壁。
そこから無数の魔法陣が展開されている。
ゴゴゴゴゴゴゴ……!!
迷宮全体が揺れる。
ひまりは呆然と呟いた。
「人間……なの?」
玲人は答えない。
答える余裕がなかった。
(やっぱり強い……!)
ヘルアビスは深層上位の存在。
無理をして倒れ。
何らかの形でもし正体がバレれば。
学校生活は終わる。
平穏な学校生活が。
それだけは避けたい。
「だから……!」
玲人は魔力をさらに解放した。
銀色の障壁が輝きを増す。
そして。
「吹き飛べぇぇぇ!!」
ドォォォォォン!!
魔法を強引に弾き返した。
ヘルアビスの身体が大きく後退する。
コメント欄は大混乱だった。
『化け物だろ』
『この子S級?』
『国家級探索者でも無理じゃね?』
『銀髪ちゃん強すぎる』
だが。
玲人の額には汗が流れていた。
余裕などない。
長引けば不利。
決着を付ける必要があった。
ヘルアビスが怒りの咆哮を上げる。
六本の腕が同時に振り下ろされた。
玲人は飛び込む。
一撃。
二撃。
三撃。
斬る。
避ける。
反撃する。
だが再生される。
「面倒だな……!」
その時だった。
凛が叫ぶ。
「胸!」
「え?」
「胸の赤い核!」
玲人の目が細くなる。
確かにある。
装甲の奥。
わずかに見える赤黒い結晶。
(あれか。)
ヘルアビスが再び突進する。
玲人は地面を蹴った。
一瞬で加速。
残像が生まれる。
「なっ!?」
美月たちが目を見開く。
速すぎた。
ヘルアビスの視界から完全に消えている。
玲人は真上へ跳躍した。
そして。
剣へ魔力を集中する。
銀色の光が収束する。
「終わりだ。」
ヘルアビスが見上げる。
その瞬間。
玲人は剣を振り下ろした。
「銀閃一刀――」
光が走る。
「天断。」
ズバァァァァァァン!!
巨大な斬撃が迷宮を縦に裂いた。
静寂。
次の瞬間。
ヘルアビスの身体が真っ二つになる。
胸の核も同時に砕け散った。
怪物は絶叫する暇もなく崩壊する。
そして光となって消滅した。
勝負は終わった。
「勝った……?」
ひまりが呟く。
誰も信じられなかった。
災害級魔物。
国家級案件。
それを目の前の少女が単独で倒したのだ。
だが。
玲人はホッとした瞬間、
ぐらりと身体を揺らした。
「え……?」
魔力切れ。
無理をしすぎた。
意識の維持も限界だった。
銀色の髪がわずかに揺らぐ。
玲人の顔色が変わった。
まずい。
ここで倒れたらバレる。
玲人は即座に転移スクロールを取り出した。
「待っ――!」
ひまりが手を伸ばす。
だが。
光が玲人を包み込む。
転移発動。
消える直前。
ひまりと玲人の視線が一瞬だけ重なった。
そして――
玲人は消えた。
静まり返る迷宮。
残された三人。
ひまりは消えた場所を見つめながら呟く。
「絶対見つける……。」
美月が苦笑する。
「2回も助けてもらっちゃったね」
「まだまだ遠いね」
凛もため息をついた。
3人ともヘルアビスにやられた怪我のせいで動けずにいたが持っていたポーションを使い少しだけ回復した。
そうして3人は配信を切り。
さっきの戦いを見て銀髪の彼女への憧れがより強くなったのと同時。
別の感情も生まれていくのだった。
しかし。
誰も気付いていなかった。
ヘルアビスが現れた穴の奥。
さらに深い闇の中で。
二つの赤い瞳が静かに開いたことを――。
「ようやく見つけた。」
低い声が響く。
「鬼神の後継者を。」
その存在が立ち上がった瞬間。
深層全体が震え始めた。
玲人すら知らない、本当の異変が動き出そうとしていた――。




