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竜血の愚者  作者: INAKA
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第8話:ガルーダとの対決

中央で鳥型の魔物が陽の光を浴びながら眠っている。

全身は赤茶色の羽毛に覆われており、陽の光が反射してキラキラしている。

厚みのあるくちばしには傷跡があり、戦歴を感じる貫禄がある。

翼を開いたまま微動だにせず、臨戦態勢を崩していない様に見える。

腕と脚は細いが先端には鋭利な爪がついており、鷲掴みでもされたらひとたまりもないだろう。


この魔物の正体は"ガルーダ"で間違いないだろう。

体長3m~5m程度の肉食鳥獣で、攻撃力が極めて高い。

近距離では鋭い爪や固いくちばしによる攻撃、遠距離からは翼による衝撃波。

本来は経験を積んだ中位冒険者がチームを組んで討伐する国の危険指定大型魔物の一体だ。


ガルーダは強力な魔物ではあるが、実は穏やかな性格だ。

例外を除いて、こちらから攻撃を仕掛けない限りは襲ってこない。

...まあ、その例外が問題なんだけどね。


国を繋ぐ往来にガルーダが巣食っているとなると討伐隊でも編成されているだろうか。

引き返して討伐完了するまで待ってもいいが、俺の立場ではラース・センテの街まで戻ってのんびり待つだけの余裕はない。

リスクを取ってでもこの広間を突っ切るしかないだろう。


ちなみに、ガルーダが好戦的になる例外は二つ。

繁殖期と、人間を捕食したことのある個体だ。

餌と認識されたら最後、奴らは積極的に襲ってくる。


チェルを連れて来た道を10分ほど引き返し、座って作戦を練る。

「困ったことに、先に進むにはあの魔物を倒す必要がありそうだ。」

「眠っているように見えましたが、こっそり通ることはできないんですか?」

「本当に眠っているかわからないし、正直難しいかなぁ。」

「そうですか...。ウィルさんなら倒せますか?」

「うーん...。あれはガルーダといってかなり強い魔物なんだ。五分五分かなぁ...。」


やっぱりチェルをラース・センテまで連れ帰る方が安全だろうか。

俺の監視はさておき、国に助けを求めた方が確実な気はする。

ただ、地方村出身のチェルがあの国でまともに暮らせるとは思えない。

偉い人が集まる国の中心部で奴隷のように扱われでもしたら...。

だめだな、やっぱりこのまま先に進むしかないだろう。


「大丈夫、安全に抜け切るだけの時間を稼ぐことはできるよ。」

「無理はしないでくださいね...。」

「ありがとう、それじゃ作戦を説明するからよく聞いてね。」


1.チェルは広間の手前で待機、俺だけがゆっくりガルーダに接近する。

2.ガルーダの翼を切りつけ、飛行能力に制限を与える

3.俺がガルーダの動きを抑えている間に、チェルが急いで広間を抜ける


「...ただし、ガルーダが片翼でも移動できる場合は逆走してここまで逃げてくれ。」

「わかりました。私一人で広間抜けられますでしょうか...。」

「焦らずにできる限り急いでくれれば大丈夫。こっちは見ないようにね。」

「うー...。頑張ってみます...。」

「無理だと思ったらここまで引き返して大丈夫だからね。...よし、行こうか。」


再び広間の入り口に戻り、音を立てないようにゆっくりと中をのぞいた。

ガルーダは体制を変えることなく、陽の光を浴びながら目を閉じている。

ガルーダの生体は不明点が多いが、夜行性であることはハッキリしている。

チェルを入り口で待機させ、鞄を降ろして最低限の荷物を持って広間に進んだ。


広間に入る前に洞窟の土を全身に塗って匂いを消す。

鳥類は意外と嗅覚が発達しているので、単純なこの対策は有効なことが多い。

足音を殺しながらゆっくりとガルーダに近づいていく。


道中で静かに長剣を引き抜き、ゆっくりと間合いに入った。

体内の魔素をコントロールし、スキルの発動準備に入る。

今回は討伐ではなく戦闘不能が第一目標だ。

スキルで一気に翼と四肢を攻撃しよう。


瞬間加速のような爆発的な部分強化ではなく、全体的な身体能力の向上を図る。

魔素を全身バランスよく巡らせエネルギーとして消費した。

--"能力向上(ドーピング)"--

段階的に魔素を消費することで一定時間身体能力を向上させることができる。


両腕を大きく振り上げながら地面を強く蹴って飛び上がる。

さらに腕の筋肉で少量の魔素を爆発させ、勢いをつけながら剣を強く振り下ろした。

剣はガルーダの左翼の付け根をとらえ、骨ごと切断して左翼を切り離した。


ガルーダは混乱したまま短い悲鳴を上げ辺りを見渡した。

地面に着地した後間髪入れずに右腕を水平に開き、体を捻りながら遠心力で切りつける。

ガルーダの左脚を切断し、ガルーダは甲高い悲鳴と共にバランスを崩して横転した。


ガルーダのお腹を踏みつけながら反対側に回り、今度は右翼を狙う。

両腕を振りかぶって右翼の根元に向けて剣を斬り下ろす。

しかし、ガルーダが右翼を振り上げたことにより剣は弾かれた。


攻撃を弾かれたことにより体制が少し崩れた。

ガルーダは依然転倒している、この好機を逃すわけにはいかない。

崩した体制を立て直すため重心を下げ、左足で魔素を少し爆発させた。

前屈したまま剣を構え、一気にガルーダの右翼に近づく。


ガルーダは転倒したまま右翼を振り上げた。

翼を振り上げるタイミングに合わせ、翼をなぞるように剣を斬り下ろす。

剣は翼をなぞり、翼についている羽を剥ぎ取った。


ガルーダは右翼を羽ばたくが、翼は空をきり風を起こすことはできない。

これで両翼を無効化することができたはずだ、今がチャンスだ。

「チェル!今のうちに進め!」

チェルは合図を聞いて入り口から走り出した。


意識がチェルに向かないよう、ガルーダの右脚に長剣を突き刺した。

甲高い悲鳴を聞きながら腰の短剣を掴む。

ガルーダの顔の前に立ち、くちばし攻撃を短剣で捌きながら時間を稼いだ。


しばらく時間を稼いでいると、チェルが広間を抜けて反対側に入っていくのが見えた。

これだけ無効化できれば問題はないだろう、引き際だ。

短剣を腰にしまい、右脚に突き刺した長剣を引き抜いた。


瞬間加速ほどではないが、スキルの副作用で全身の筋肉が痛む。

そろそろ切り上げたいところだな。

動かないとは思うが、念のため剣を構えてガルーダの方を向く。


ガルーダは体を回転させ、うつ伏せの状態でこちらを見ている。

翼と脚の怪我でまともに動くことはできないはずだが、その目に宿る闘志は衰えていない。

ガルーダはこちらを見つめたまま、小さく鳴いた。


次の瞬間、体制を変えずに勢いよく突っ込んできた。

咄嗟に左側に飛びのけて回避するが、避けきれずに右腕をくちばしが掠った。

肉が抉れて血が噴出している、動かすと痛いし右手での戦闘は無理だ。

あいつ、動けない身体を魔素で無理やり動かしやがったな。


ガルーダは壁に激突し動かなくなっている。

ガルーダの元まで近づき、左手で剣を握って首筋を突き刺した。

念のため心臓にも剣を刺すが悲鳴は聞こえない、何とか倒せたようだ。


運良く討伐する事が出来たが、正面から戦ったらやられていただろう。

相手が実力を出す前に倒しきる、ソロ冒険者の鉄則だ。

剣を腰にしまい、チェルの元に合流した。


鞄から取り出した薬で腕を洗い、包帯で傷口を保護した。

チェルを連れて広間に戻り、中央に穴を掘ってガルーダの亡骸を埋める。

「ウィルさん、これ卵じゃないですか?」


チェルに言われて見ると、そこには複数の卵があった。

産卵後で衰弱して眠っていたのか、どうりで簡単に討伐できたわけだな。

心苦しいが、卵は全て割って同じ穴に埋めた。

ガルーダの素材や卵は高く売れるが、倒したことがバレるリスクを考えて今回は諦める。


「手伝ってくれてありがとう、助かったよ。」

「お役に立ててよかったです。それにしてもやっぱりウィルさんは強いんですね。」

「今回は運が良かっただけだよ、まともに戦ったら負けてたと思う。」

「でも、あんなに強そうな魔物を簡単に倒していたじゃないですか。」

「簡単じゃないよ。それに...。」


魔物とはいえ命を奪うことに抵抗がないわけではない。

このガルーダも人を襲って討伐されたわけじゃなく、俺らの安全のために殺されている。

弱肉強食は自然の摂理だが、この気分の悪さはいつになっても慣れないもんだ。


「それに、なんですか?」

チェルの問いかけでハッとした。

「ああ。...ほら、俺も腕を怪我しただろう?さあ、進もうか。」


広間を抜けて再び洞窟を進む。

半日ほど進んだところで、ついに洞窟を抜けて外にたどり着いた。

外はすっかり夜で、少し肌寒い。

すぐにでも休みたいところだが、川辺を探してから休むことにしよう。


「んん-っ!やぁーっっと出れましたね!」

「お疲れ様、もう少しだけ歩いて今日は休むとしよう。」

「えーっ、まだ歩くんですかぁ...?」

「うん、地図によると近くに川があるみたいだからね。身体洗いたくないかい?」

「洗いたいです!まだ頑張れます!」


チェルのやる気に火を着けたところで洞窟付近を散策する。

少し森の中を散策すると地面が湿り気を帯びてきた、この辺だな。

予想通り少し進んだところで大きな川を見つけた。


まずは飲み水を確保し、今日の食事のためにお湯を沸かす。

「俺は食事と寝床を準備するから先に身体を洗っておいで。」

「わーい!ありがとうございます!」

「服は明日陽が出てから洗おう。2日程この辺で準備だな。」


呪詛の都合で離れるわけにはいかないので、川を見ないようにしながら寝床と焚火を準備する。

しばらくしてチェルが川から上がってきたので、タオルを渡して焚火に当たらせた。

その後は自分も川で体を洗い、チェルからタオルを受け取って体を拭く。

味をつけただけの水のような食事を取り、そのまま眠りについた。


翌朝、陽の光で目を覚まし、衣服とタオルと洗って乾かした。

服が乾くのを待ちながら地図を見てこの後の動きを考える。

ここから関所までは1日、テムレジーまではさらに1日あれば到着できそうだ。

途中で獣を狩って腹を満たしつつ、交易品代わりにでもしようか。


しばらく休憩して服が乾いたのを確認し、洗った服に着替えて片づけを始めた。

ここまでかなり大変だったが、なんとか無事にチェルを街まで送れそうだ。

チェルと過ごす残り少ない時間を噛み締めながら、関所に向かって歩き出した。

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