第一章 転生と運命の宴
「──まさか、本当に死ぬとは思わなかったわね……」
目が覚めたとき、私はベッドの上で部屋の天井を見上げていた。
白いレースのカーテンが風に揺れ、甘いバラの香りが鼻をくすぐる。
「ここは……何処だろ?」
どこか見覚えのある部屋。
私の手は──小さくて、白かった。
「まさか……?」
鏡に映った顔を見て息を呑む。
赤い髪をふわりと肩に垂らし、紫の瞳に冷たい光を宿す。
顎を少し上げたその表情はどこか傲慢で、どこか哀しげで──
「ヴァルミナ・デルフィア・グラックフォール……?」
そう。
私は前世でプレイした乙女ゲーム『王太子の花嫁』の悪役令嬢──ヴァルミナ・デルフィア・グラックフォールその人に転生していた。
前世の私はOLとして毎日残業に追われ、ストレスで胃を壊し、ついには過労死。
それが終わって目が覚めたら、この世界にいたのだ。
今のヴァルミナ──つまり私は十六歳。
物語の序盤。
王太子ジェームズ・アーサー・グラントリーとの婚約披露宴の前日。
「……つまり私はこれから、ヒロインの敵として登場し、そのヒロインを陥れ、王太子に嫌われ、最終的には国外追放か牢獄行き、か……」
前世の記憶が鮮明によみがえる。
ヴァルミナは傲慢で高飛車、ヒロインである平民出身のヴィヴィアン・ライトモアを妬んでいた。
彼女を陥れて王太子を独占しようとするが、すべて失敗。
そして、反乱の罪を着せられて国を追われる。
──だが、今なら違う道が歩める。
「悪役令嬢なんて、ごめんだわ」
私は鏡に向き直り、唇を引き結んだ。
今度は──私が成り上がるのよ!