19
♪
「十四番。愛湖原智花さん」
日本のエースだけあって、さすがに垂れ幕の数もかなり多い。
冒頭に三回転アクセルからのコンビネーションを予定しているため、会場の期待度はいっそう高いだろう。
今日の彼女の衣装はNHK杯の時とは違う赤色の衣装。
曲目はメンデルスゾーン『ヴァイオリン協奏曲』。
メリハリがあって、ジャンプのタイミングは合わせやすいナンバーではあるが、けれど終盤のステップはかなり高度なモノを用意している。
果たしてそこまでスタミナがもつか、それが重要だった。
ヴァイオリン協奏曲というだけあって、ヴァイオリンの音色から演技が始まる。
まずスローパート。
智花は軽い身振りからストロークの後、ジャンプの助走に入る。
アクセル独特の助走。
後ろ向きのスケーティング、右足に乗せた体重を左足に移し変えて、振り向きざまに──三回転半! さらに今度は片手を挙げて二回転トウループ!
弾け跳ぶ歓声。
テレビの向こうでは解説が叫んでいることだろう。
けれど──。
今のジャンプ、見たところ最初の三回転半が回転不足。
即ち、三回転アクセルと認められながらも、点数は二回転アクセルのそれになり、その上〝失敗〟とみなされ、二回転トウで片手を上げた分も帳消しになってしまうだろう。
それを悟っているのか、演技に集中しているのか、会場の雰囲気とは対照的に智花の顔は暗い。
ハイパートに入り、二つ目の要素、ステップからの三回転フリップを難なく終えて、レイバックスピン、フライングキャメルスピンと続ける。
そしてスパイラルに入ると同時に曲調は一転、スローになる。
けれど、二回転アクセルを終えるとともに、曲は音を増して、そして弾ける。
六十メートルの間をステップし続ける技、ストレートラインステップシークエンス。
ハイテンポに合わせて、カウンター、ダブルスリー、ロッカー、ブランケット……。
複雑な軌跡を描きつつ、しかし上半身では鮮やかに、そしてしなやかに振り付けをこなしていく。
六十メートルをあっという間に駆け抜けて、そのまま最後の足換えコンビネーションスピン。
キャメル、スタンド、シットと三つのバリエーションからチェンジエッジ。さらに足を変えてキャメル、シット、そして最後の高速スタンドスピン〝スクラッチ〟。
さながらドリルのように高速回転して──。
あっという間の二分三十秒。
ジャンプの智花と言われたが、もうそうではない、と証明する演技。表現力、という面に置いて、もう子供ではないということを日本中に見せ付ける演技だった。




