19.不運の連続と私
ノエル様のおかげでチャリティー活動は順調だった。
毎日来てくれる常連さんもいるほどだ。
レオン様と同学年の貴族子息数名は、募金をしてくれると私やレベッカ、アランと何気ない世間話をしてくれる。
私達と同学年のおとなしい令嬢二人組も、お菓子を楽しみに毎日募金に来てくれる。
特に同学年の令嬢達が来てくれた時は、私はなるべく静かに微笑んで佇んでいる。性悪の噂があるため、変に私から話しかけると怖がられて避けられる気がしちゃうからだ。
それに、私が静かにしていると向こうからお菓子作りについて質問をしてくれるのでそれもまた嬉しい。
話しかけてもらえたら、お菓子の作り方やコツを教えている。
そうして、毎日足を運んでくれる人とは少しづつコミュニケーションが取れるようになってきた。
…このまま性悪の噂が無くなってくれればいいのに。
やはり容姿端麗、成績優秀、性格最高のレオン様と無理矢理に婚約した我が儘令嬢というレッテルは、なかなか消えてくれないようだ。
そんな中、お兄様から有力情報を得た。
明日、久しぶりにレオン様が学園に登校するらしい。
サンブール街のデート以来、それはそれは燃えるように侯爵家にこもって仕事をしていたらしいレオン様。
その合間に学園の出席日数を稼ぐためのレポートを提出している、とはお兄様から聞いていた。
多忙なレオン様の久しぶりの登校…私は嬉しすぎてなかなか寝付けず、ベッドの上でピョンピョンと飛び跳ねるくらいテンションは爆上がりだった。
明日は一緒にランチを食べたい、お弁当は栄養いっぱい詰め込んだサンドイッチにしよう、チャリティー活動のこと、話したいことがいっぱいだ…と、私の頭の中はフル回転だった。
ーーそんな日に限って、不運は起きる。
翌朝、目が覚めたら頭が割れるんじゃないかと思うほどの激しい頭痛がした。そのせいで、目眩も少し。
…私は絶対認めたくなかった。レオン様と久々に会える日に体調を崩したなんて。
家族にバレないように風邪薬を飲み、自分の頬をペチペチと叩いて気合いを入れる。
しれっとした顔でいつも通りキッチンに立ち、お弁当作りを始めた。
しかし体調不良のせいか、いつもより手際が悪く、ベーコンを焦がしてしまったり包丁で指を切ったり…
いつもやらないミスばかりして、時間がかかってしまった。
一緒に登校しようと言ってくれたフレデリクお兄様には、先に学園へ行ってもらった。
お兄様の分のサンドイッチも作ったから、あとでお兄様の教室へ届けに行こうと思う。
体調は悪いし、サンドイッチ作りはミスばかりだし、お兄様と登校できないし…これだけで十分不運の連続だった。
授業開始ギリギリの時間に学園に着いた…間に合って本当によかった。
そのときには身体が本格的に熱っぽくなり、怠さが増していたが、私はバレないように再度しっかり気を張ることに努める。
バレたらレオン様に会う前に家に帰ることになる…それだけはなんとしても避けたい。
「あ、あの…バシュレ様っ」
一限目の授業が終わり、フレデリクお兄様のサンドイッチを届けに行こうと教室を出たところで、ふいに声をかけられた。
振り向くと、毎日募金に来てくれている同学年の令嬢二人組だった。思いがけず、私は目を見開いた。
「…あの、昼休みに裏庭に来てほしいと、先ほど…ノエル様の伝言を承りました…」
二人は眉を下げ、困った顔でオドオドしていた。
別に怒ったりしないのに…そんなにも悪評の私が怖いのか…。
「わかりました、教えてくれてありがとうございます」
ノエル様から人づてに呼び出しをされるのは初めてのことで少し違和感を感じたけど、それよりも令嬢二人から話かけてもらえたことが嬉しくて、私は笑顔を向けた。
…でもよく考えると、お昼休みということはレオン様とのランチタイムと被っちゃってる…。
先にノエル様の用事を早々に終わらせて、レオン様に会いに行こう。
待たせるのは申し訳ないから、先にレオン様の分のランチボックスを渡しておこうかな。
私は教室に戻り、レオン様のランチボックスも抱えた。
そんな私を見たレベッカが「どうしたの?レオン様と一緒に食べないの?」と心配そうに声をかけてきた。
私は安心させるように、事の経緯を伝えるとレベッカも「ノエル様がそんな誘い方…珍しいね」と言っていた。
「でも、ノエル様のおかげで令嬢二人とお話しできて、私は嬉しいよ」
私はレベッカに笑顔をむけた。レベッカにも私の気持ちが伝わったのか、親が子を見るような優しい微笑みで返してくれた。
そして私は、急いでお兄様とレオン様の教室へ向かった。
……が、教室へ着いた途端。来なければよかったと心底後悔した。