妃としての想い
少し重ためですが、読んで下さると幸いです。
結婚から1年後、17歳になったヘルは、大魔神であるアバドンを支える良妻となり、執政の補佐や居城の管理・防衛に尽力していた。
付き合い始めこそ恋愛感情がなかった彼女だったが、アバドンの男らしさとたくましさに徐々に惹かれていき、夫婦となった今では彼を愛し、信頼している。
そんなある日、ヘルはいつものように羅王らが作ってくれた車輪の無い浮遊式の車椅子に乗ってアバドンを見送り、技師として雇われ、出勤してきた羅王と挨拶を交わした。
ただ、いつもと違うのは、城門の両脇にキチンとお座りしている巨大な狼と、ヨルムンガンドがいたことである。
「ヘルさん。その狼は?」
「あぁ、アバドンが番犬として飼ってくれた子。ガルムっていうの」
「へー。よろしく、ガル……」
そう言いながら、挨拶代わりにお手をさせようとした羅王に向かって、ガルムは一吠えした。そのとてつもない声量と迫力に羅王は完全に圧倒され、びびってしまう。
「やめなさい、ガルム。あの子は不審者じゃないよ。大丈夫? 羅王君」
羅王はまだ震えつつもなんとか頷き、ガルムも反省したのか、落ち着きを取り戻し伏せをした。
「ごめんね。まだ躾がなってなくて」
「いえ、お気になさらずに」
そう答えた羅王は、ヨルムンガンドの方に目を向けた。
ヘルに尋ねると、3ヶ月前に衰弱した状態で発見されたらしく、適切な治療とヘルの看病のおかげで今ではすっかり元気になっているらしい。
ただ、自我までは戻っておらず、今はガルム同様鎖に繋いで、外で飼ってる状態にしている。
「けど、いいの。兄さんが側にいて、兄様に似ているガルムがいるだけで十分。それだけで寂しさなんて微塵も感じない」
そう言うヘルの心中を察し、羅王は同情した。
おそらくここに至るまでに、郷愁の念や、兄達に何もしてやれなかった事に対する後悔や後ろめたさ、そして、それらがありつつも結婚という幸せを享受する事への罪悪感などといった感情があったに違いない。
それらを経たであろうヘルが、この2匹をペットとして受け入れたのは、彼女なりの妥協があったからかもしれない。
そう考えた羅王は話題を変えた。
「そういえばヘルさん。先程アバドン様がお出かけになるのをお見かけしたのですが、もしや……」
「えぇ。また遠征よ」
確かにアバドンは第2代大魔神で、彼の領地は魔界の4割を占めている。同盟相手のと合わせると、確実に過半数を超えているだろう。
が、それは逆を言うと、大魔神である彼に刃向かう輩が少なからずいるということであり、この頃のアバドンは、敵対勢力が多い第3層~第5層にしょっちゅう遠征していた。
「また、ですか……ヘルさんが嫁いできてから、もう10回目ですね」
羅王の言葉に頷くヘルの胸中にはやはり、寂しさもあったが、それとは別にもう1つあった。
「アバドン様なら心配いりませんよ。あの方は強いですから」
励ますつもりで言った羅王の言葉に、ヘルは首を横に振り、
「確かにそれもあるけど、できれば平和的に解決してほしいの。誰も死んでほしくないから」
と、想いを口にし、羅王の方に向き直した。
「だから羅王君。今更かもしれないけど、今の魔界の情勢を教えて。私だってもう、魔族の1人だって自覚はあるし、いつまでも何も知らないまま、城を攻めてきた同族の相手をしたくないから」
ヘルの心からの頼みを聞いた羅王は素直に頷き、車椅子の点検後に説明すると約束し、彼女と共に城内に入った。
魔界は全部で7層あり、基本的に下の層に行けば行くほど強い魔族や魔物がいます。




