決断
少し重ためですが、読んで下さると幸いです。
「ならば、魔界へ向かえ。そこでヨルムンガンドをみつけて、魔族として生きるんだ」
真面目な顔で突然、魔族に帰化しろと言われて、ヘルは驚き、戸惑った。
当然である。幼い頃から相反する種族と教えられ、最近まで敵対していたのに、いきなり同族になれと言われれば、誰だってそうなる。
それでもオーディンは彼女の気持ちを汲んだ上で、このまま地上にいてフェンリルの野望の道具として朽ち果てるより、天国と同じ時の流れの魔界に行った方が、ヨルムンガンドと一緒にいれて、幸せに一生を終えれるはずだと説得し、深々と頭を下げた。
無論、オーディンとて快諾してくれるなど、これっぽっちも思っていなかった。今のヘルは人生を諦めて、不幸に生きようとしている。そんな彼女が、敵対種族に帰化することはもちろん、幸せに生きることを望んでいるとは到底思えない。それでも幸せに生きてほしい願うのは、単なる自己満足過ぎない。
しばらくして、頭を下げ続けても返答が無いこの状況に、オーディンはお互いに考える時間が必要だと判断し、また日を改めて来る旨を伝えようとした。
が、その前に口を開いたヘルから出た言葉は、意外なものであった。
「……わかりました。私、行ってみます」
「いいのか?」
「はい。兄さんのことも気になりますし、こうなった以上、どこにいても同じです。なら、落ちるところまで落ちるのもよいかと。それより、オーディンさんの方こそいいんですか? あっちに行ったら、私達は敵同士ですよ?」
そう聞かれたことで、オーディンの中でヘルに対する心配が消え失せ、ほっとした。
「そのことならば気にするな。君は君の信じた人生を進めばいい。だから、元気でな」
オーディンからのエールを受けたヘルは強く頷き、魔界について何か知ってそうなフェンリルを捜しに出かけた。
新たな人生を歩み始めたヘルを見送ったオーディンはその後、隠居しつつ、天国の法を改正して、重罪で裁かれる者を一族郎党から当人のみに変更させるなど、天国のために尽力した。
その一方で、あることを一族の決まりに加えるよう遺言した。それは『今後オーディン一族は、ロキ一族を見殺しにした償いとして、ロキという名の子を必ず一世代に1人作り、末代に至るまで亡き友の一族を弔うべし』というものであった。
この遺言は今なお続いているが、皮肉なことに現代のオーディンの次男・ロキが初代ロキに憧れを抱いたことで、同じ野望を持つようになり、自ら堕天し、邪神となってしまっている。
ちなみに現代のオーディンは、軍神ではなく、武器の神になっています。(趣味は刃物の手入れ)




