第四.五:『不器用な情と、二人だけの誓い』
【一】
最初は、明里は凛玲のことが気に入らなかった。
御針司からやってきて、あっという間に中宮様の信頼を勝ち取った可憐な少女。いつでもすました顔をして、何を考えているか分からない。
「ふん、どうせ要領よく立ち回って、中宮様に媚を売っているだけでしょ」
だが、ある事件で明里の評価は一変する。
明里が上級側室の陰謀に巻き込まれ、無実の罪(中宮様の貴重な調度品を割ったという濡れ衣)を着せられて処罰されそうになった時のことだ。
誰もが巻き添えを恐れて明里を見捨てる中、凛玲だけが平然と割れた器の断面と現場の状況を検分し、冷ややかなジト目で真犯人の仕掛けた罠を完膚なきまでに暴いて見せたのだ。
「な、なんで私を助けたのよ……! 私、あんたに意地悪ばかりしてたのに……!」
処刑を免れ、陰で涙を拭う明里に、凛玲はすました顔で言った。
「助けたわけではありません。曲がったことが嫌いなだけです。……それに、明里様が追放されたら、この宮で一番仕事が早くて正直な方がいなくなって困りますから」
「……っ、あんたって本当に……可愛げがないんだから!」
明里はポロポロと涙を流しながら、凛玲の肩を叩いた。この日を境に、二人の距離は急速に縮まっていく。
【二】
ある夜。月明かりの差し込む鳳凰宮の縁側で、二人はこっそりお菓子(干し柿と温かいお茶)を分け合っていた。
「ねえ、凛玲。あんた、本当は何のためにこの奥宮に来たの?」
明里のまっすぐな瞳に見つめられ、凛玲は少し躊躇したあと、初めて自分の秘密を打ち明けた。
亡くなった姉・鈴華のこと。復讐のために素性を隠して潜入したこと。
「……私の側にいると、いつか命を落とすかもしれません。明里様は、私に関わらない方が——」
言いかけた凛玲の額を、明里が指でパチンと弾いた。
「いたっ……」
「馬鹿ねえ。あんたが一人で背負い込んで、本気になるとジト目になって無茶ばかりするから、放っておけるわけないじゃない!」
明里は凛玲の手を力強く握りしめた。その手は温かく、少し力強かった。
「私にはあんたみたいな頭脳もないし、綺麗な刺繡も刺せない。でもね、走ることと、あんたの背中の隙間を守ることならできる! 姉さんの無念、一緒に晴らしてあげるわよ!」
「……明里様……」
「『様』なんてやめてよ! 明里でいいわ。その代わり、あんたが生涯私を裏切ったら……私がそのジト目を潰してやるんだからね!」
明里が冗談めかして笑うと、凛玲の冷たかった胸の奥が、じんわりと温かくなった。
「……ふふっ。分かりました、明里。私の背中は、貴女に預けます」
互いに笑い合うふたり。
冷徹な暗闘が渦巻く奥宮の中で、生死を共にする「一生の親友」の絆が芽生えた瞬間だった。




