第二章
2章 荒ぶる時代の風
「...ふう。」
サディオンは既に冷静さを取り戻していた。
「まあ好きなだけ言わせてあげましょ。所詮不意打ちで私の魔術を打ち消した程度ですから...ね!!」
語尾に力を込めながらサディオンはナスタに掌を向ける。
「責任もって代わりに踊ってください...デモンズランス!!」
定められた呪文を省略し、魔術を即座に発動する詠唱破棄。
術の立ち上がりが早く奇襲や不意打ちに向いている技術だが、出力は本来より遥かに落ちる。
そう、通常なら。
ボヒュッ!!
次々と宙に現れる魔術陣から暗黒の槍がナスタを狙い飛び交う。
(詠唱破棄でこのレベル...さすが魔族ね...でも。)
スノーはダメージにより体が動かせない。しかし、慌てる素振りも無くナスタを見守っている。
「さあさあさあ!!どう踊ってくれますか!?若き戦士よ!!」
「...踊るなんて言ってないけどね。」
デモンズランスがナスタの体を貫くべく最接近した
しかし
「!!」
その槍はナスタの体を貫くことなく先程と同じように塵となって消えていった。
「なっ、、なんだと!!」
「だから言ったじゃん。」
そう言いながらナスタはサディオン目掛けて飛び出す。
「クソッ...何だこの術はあ!!」
「なんだと思う?教えないよ」
襲い来る槍を軽々とかわしながら、すれ違いざまに手をかざすとその全てが一瞬にして消え去る。
(こんなレベルの相殺技術見たことがない!!なんなのだこの少年は!!)
サディオンの顔色は先程までと明らかに変わっている。いくら魔術を放ってもナスタが片っ端から消し去っていくのだ。無理もない。
(確かにテレキネシスは物体に魔力を作用させる性質上、同質量の魔力を完璧なタイミングで放てば理論上はどんな魔術も相殺出来る)
「しかし、これではまるで...」
「だから、違うって。」
サディオンが思考している間にナスタは懐に侵入していた。
「まっ、まずい...」
「...遅いよ。」
ナスタは拳を引いた。
その拳に、ほんの一瞬だけ魔力が収束する。
次の瞬間、躊躇いなくその拳をサディオンの腹部へ叩き込んだ。
「ぐっ...べばあばば...ぼあああ!!」
(なんなのだこのパンチ...とても一発食らっただけとは思えない感触だ...)
サディオンはそこまで考えるととてつもない勢いで回転しながら吹き飛んで行った。
「そりゃ、一発じゃないし。」
ここまでナスタ到着からおよそ5分。たった5分で魔族の男を単身制圧してみせた。
「流石ね...ナスタ君。」
「先生。大丈夫ですか?」
「どうってことないわよ。...それにしても面目丸つぶれね。」
「そんな事ないですよ。先生がまっさきにここに来なきゃアルスは殺されてたでしょ。」
「それはそうだけど...ね...」
スノーは結果として生徒に守られたという現実にバツが悪そうに顔を歪めた。
「アルス!もう回復してるだろ!」
そしてそのままアルスにも声をかける。
「あ、バレてた?出る幕も無さそうだし観戦させてもらったよ。」
そういいながらスっとアルスは立ち上がる。
「ええ!?アルス君大ダメージ負ってなかった!?」
その様子にスノーは驚いた。
「負いましたよ!実際先生が来なかったら死んでたし!時間を稼げたから回復出来ただけです。」
アルスはこう見えてある程度回復系の魔術を使うことができる。そのため普通の人よりも遥かに早くダメージから回復出来る。尤も、それなりに魔力も消費してしまうのだが。
「はぁ...結局一番ダメージを受けてるのは私じゃない。...心配して損した気分よっ!!」
スノーはそう言いながらも優しく笑いながら2人の頭を撫でた。
「わっ、ちょっ!」
「〜!!ご褒美...」
2人は照れながらも悪い気分では無かった。何せ学園最強の教師が笑顔で褒めてくれたのだ。
「先生、そろそろ。」
そしてそんな幸福タイムを自ら終わらせるようにナスタが口を開く。するとスノーも再び意識を入れ替えてサディオンが吹き飛んだ方を見つめた。
「そうね。あのダメージならもうなにか出来るとは思わないけど。用心はして。これからあいつを拘束するわ。」
「了解です!」
2人はそう返事をするとサディオンの元へ走り出した。
一方でその頃、吹き飛ばされたサディオンは苦痛に呻いていた。
「クソッ...クソッ...!!なんなのだあいつは...!!」
まるで至近距離で散弾銃を打ち込まれたと錯覚するくらいの激痛。こんな痛みは人生で1度も味わったことが無い。
(ここは作戦通りに退却すべきか...しかし...)
サディオンが思案していたその時
「やっぱりこの程度じゃくたばらないか。」
「!!」
スノー、ナスタ、アルスの三人がサディオンの元へ到着した。
「さあ、観念なさい。今からあなたを拘束して洗いざらい喋ってもらうわよ。」
スノーは既に魔術の詠唱を終えていつでも発動できる体勢を整えている。
「...ぷっ。」
しかしサディオンが見せた反応は意外なものだった。
「何がおかしいの!!」
スノーが詰め寄る。しかしサディオンの笑いは止まるどころかどんどん大きくなってくる。
「クハーッハッハッハ!!私を捕らえたところで何の問題もありませんよ!!既に目的を隠す必要も無くなりましたしねぇ...」
「どういうこった?」
「...何を企んでる?」
アルスとナスタも攻撃の構えをとる。
しかし
「今、校舎はどうなってますかねぇ...」
不敵に笑うサディオンが放った一言で三人は意図を察した。
ナスタはすぐさま振り返り来た道を戻ろうとする。
しかし、スノーがそれを制止した。
「待ちなさいナスタ君!」
「先生!どうして!」
「状況が分からない今一人では行かせられない。最優先はこいつの拘束に変わりはないわ。」
「...はい。」
「ああ、ついでに言うとそれも敵いませんよ、ほら。」
サディオンは笑みを浮かべたまま三人の頭上を指さす。
反射的に三人は頭上を見上げてしまった。
「素直ですねぇ...」
罠だった。3人の視線の先には小さい球体のエネルギーが浮遊している。
「ただのシンプルな目眩しですよ。───ブラインド。」
次の瞬間強烈な光が当たりを包み込み、視界はホワイトアウトした。
「うわあ!」
「うおっ!」
ナスタとアルスはモロに食らってしまい視界を奪われた。
「クフフ...この隙に私はおさらばさせてもらいます。また逢う日までご機嫌よう。」
サディオンが闇の魔力を集中させ大穴を作り出す。自身を指定した地点へ移動させる魔術だ。
しかし
「ちょっと軽々と逃げられるなんて思わないで欲しいわね。」
「え?」
「───アクアベール!」
スノーの声が周囲に木霊すると同時に帯状の水が放出されサディオンを捕らえる。
「なっ、なんだと!!」
「あなた随分小賢しいみたいだけど...私も小技は得意なのよ?」
アクアベール。本来は水の膜を操り自分の身を守る初級防御魔術だが、スノーはここに来る前から練り上げていた魔力を全てこの魔術に使った。
目眩しに気づいたスノーは自身に降り注ぐ光を水の守りでいなしたのだ。
「初級の魔術でも使い方次第ね。これだけ魔力を込めたら弱っちい目眩しは届かなかったみたいよ。」
「き、きさまあああ!!」
「てことだからその水の拘束、解けると思わないでね。」
そういうと再びスノーは魔力を練り上げた。
「さっきのお返しよ。あなた何するか分からないからしばらく寝てなさい。」
そう言うとベヒーモスを倒した時の様にスノーの目が蒼く輝く。
「刹那と永遠。願わくばその狭間で罪を胸に抱き眠れ───」
フーッとスノーが白い息を吐いた。
「・・・・」
サディオンは止まっていた。
「エイジエンド...初めて見た。」
「ああ...一見ただ固まってるだけに見えるけど」
「今の彼は文字通り全てが止まっているわ。私が凍らせたのは彼の【時】。長くはもたないけど、拘束するには十分よ。」
エイジエンド。対象の"時"を短時間完全に停止させる氷属性魔術の秘術。扱える人間はごく僅かだ。
「アルス君。木属性で拘束してくれる?」
「わかりました!」
「絡み取れ───バインドウィップ!」
アルスは木属性の拘束魔術を発動した。たちまち頑強なツルでサディオンは縛り上げられてゆく。
「ナスタ君。こいつの運搬をお願い。アルス君は道中私の回復を!さあ、最速で戻るわよ!」
「はい!」
「よっしゃ!」
奇襲犯の拘束という目的を無事に果たした三人は校舎へと走り出した。
─────────────────────
その頃、学園の校舎。
「お逃げ下さい!校長!」
「むぅっ...!!」
模擬戦場で起こった大爆発を調査するべく大勢の教師が出払った直後、まるで狙っていたかの様に大量の魔物が校内に発生した。
「一体どこから...発生源はまだ突き止められないのか!?」
(なんという事だ...このままでは生徒を守るどころではない!)
「教育長!私はここまでで良い!君は一人でも多くの生徒を救いに行け!」
教育長───アデクは決めかねていた。
確かに自分が校長を退避させるまで付きっきりでいるより、現場に赴いた方が多くの生徒を救える。
しかし、ギリソー校長はこの学園のトップだ。ここに仕える者として傍を離れる訳にもいかない。
「───しかしッ!」
「アデク!命令だ!行け!」
ギリソーが声を荒らげる。その言葉を聞いてアデクの揺らいでいた気持ちは固まった。
「───校長。必ず逃げ切って下さい。」
「大丈夫だ。あと少しで退避シェルターへ辿り着く。ここで十分だ。」
ギリソーはニコリと笑う。
「さあ行け!こちらは心配無用!」
「承知!!」
瞬間、アデクは全身から超高密度の魔力を展開した。
「───夢と、現実と、境界を超えてその身走り燃え尽きん...」
「アップスター!!」
詠唱が終わると展開した魔力が再びアデクの体へと還ってゆく。
「神速のアデク...行きます。」
そう静かに口上を述べたアデクの姿は、既にそこには無かった。
「任せたよ、アデク。」
アップスター。大量の魔力を体に循環させ、全ての身体能力を爆発的に向上させる強化系の上位魔術だ。
その力を身にまとったアデクは常人では目で追い切れない程速く鋭く動く。
そんなアデクの行手を阻むかのように、廊下を塞いでいた魔物が唸り声を上げる。
しかし、次の瞬間。その首を断つ一閃だけを残し、アデクは既に遥か先へ到達していた。
魔物が倒れる音は、彼の背後から遅れて聞こえた。
(なんて惨状だ...一体誰がこんな事態予見出来ようか...)
アデクが駆け抜けた廊下には、倒壊した壁や砕けた机が散乱していた。救助を待つ生徒、動けなくなった教師、ボロボロになりながら魔物と相対する生徒達。目に映る光景だけでも、被害は決して少なくない。
アデクが制圧してきた箇所だけでも、既に数十名は怪我人が出ている。
「皆!私の背後へ!道を切り拓く!動けるものは退避シェルターへ向かうのだ!」
「アデク先生!!」
「やっと助けが来てくれた...」
教師がほとんど校内にいない今、戦えるのは未だ未熟な生徒達と戦闘向きでは無い教師だけだった。むしろよくこの程度の被害で持ちこたえたと言えよう。
(アップスターの持続時間は10分。それまでに魔物の発生源を突き止めなければ。)
そう。この術の欠点は長時間持続する事が出来ないことにある。もし時間を超えて発動すれば体が負荷に耐えきれず崩壊するリスクがある。
その時、アデクの通信アイテムに着信が入った。
「アデク先生!魔物の発生源は校庭だ!私も向かいたいが校舎の魔物制圧でそれどころじゃない...」
「わかった!既に私はアップスターを発動している。今いるフロアを制圧しつつ発生源へ向かう!」
「無理はするなよ...うぉっ!?」
ザザー、、、
着信は同僚の教師からだったが短い会話の後ノイズが走り切断された。
「どうした!?...戦闘に入ったか。」
(このフロアはほぼ制圧済み、校庭に向かおう。)
「───ふんっ!!」
アデクは魔力を練り瞬間移動かのような速度でその場を後にした。
その頃、ナスタ達三人ももうじきで校舎に辿り着くという所まで帰ってきていた。
「はぁ...はぁ...流石に大技連発の後は疲れるわね...」
「スノー先生...魔力どれだけあるんですか...俺の方が干からびそう...」
走りながらもアルスはスノーを回復させるべく魔術をかけ続けている。しかし圧倒的な魔力差のせいかなかなか上手くいかない。
(これ以上はこの子にとっても危険ね...)
「アルス君。もう十分よ。ありがとう!」
「...恐らく戻せたのは使った魔力の半分くらいですよ。」
「上等!流石優秀な教え子だわ。」
スノーはにっこり笑う。
「二人とも聞いて!ここからは別行動するわよ!」
「ナスタ君とアルス君はその男を安全な場所に。そしてもっとガチガチに縛っちゃって。意識が無いとは言え魔族よ。絶対に油断しないこと。その間に私は状況の確認をしてくる!」
スノーは既に作戦を立てていた。校舎の状況が分からない以上最適な答えといえる。
「わかりました。先生無理はしないで下さいよ!」
「そうだぞスノー先生!すぐ駆けつけますから!」
「よし、それじゃ散るわよ!」
「はい!!」
三人は2班に別れ行動を開始した。
だが、この時の三人はまだ知らなかった。
学園で起きている異変が、想像を遥かに超えるものだったことを───。
─────────────────────
「───なんだこれは」
校庭に辿り着いたアデクが見た光景は想像を絶するものだった。
あちこちにワームホールが展開され、そこからゾロゾロと魔物が出てきている。
(この規模...一体何人侵入したというのだ。ともかく今は魔物共を一掃する!)
「───古より流るる星の脈動。その力、その身を焦がし、全を滅さん。」
アデクの眼が紅く輝いた
「ストリーム・インフェルノ!」
瞬間、アデクから炎の魔術陣が急速に展開される。
「さあ、燃え尽きよ。」
地鳴りと共に溶岩流が吹き出し魔物を焼き尽くす。
余りの威力に何が起きてるかを考える間もなく次々と魔物は消し炭と化してゆく。
「これであとはワームホールを消せば...」
アデクが更に魔術を詠唱しようとしたその時
「素晴らしいな。人間にもこのような使い手がいるとはな。」
「!! 何者だ!」
一際大きいワームホールから声が聞こえた。
その声は姿を表す様子もなく、淡々とアデクに告げる。
「まさか、長年我々魔族が探し求めていたモノがこんな所に隠されていたとはな...突き止めるのに随分苦労はしたが、回収させてもらったよ。」
「まさか...」
アデクの顔に一筋の汗が通る。
「封印された四つの古代魔術がひとつ───その名を"アポカリプス"」
「貴様...それを手にして何がしたい。」
アデクは務めて冷静に問いかける。
「それは千年前に永久に封印された禁忌の魔術。それが何を意味するのか分かっているのか。」
アデクがそこまで言うとワームホールから人影が姿を現した。
(こいつは...魔族...か......?)
余りにも美麗。それが第一印象だった。
緩くウェーブのかかった金髪を肩まで伸ばし、シンプルな先頭装束を身にまとったその姿は一見、人間の女性と見間違う程だ。
その男は額の魔石を輝かせながら口を開いた。
「無論。普通に戦えば到底魔族に勝ち目のない愚かな人間が生み出した...狂気に満ちた滅びの魔術だ。」
「なんだとっ!?」
「違うとは言わせない!この術のせいで我々は...しかし、今度は違う。」
男がアデクを指さす。
「次は我々がこの力を用いて、貴様らをこの星から根絶やしにする。」
一切ブレの無い覚悟の目。立ち居振る舞い。
(この男が指さしているのは、私などではない。
私よりも先...遥か彼方...人類の全て...)
「...戦争になるぞ」
「そうだ。千年前の再現。今度はクソみたいな和解は無い。積年の思いを...貴様らの罪を精算する。」
アデクは構えを取る。
「そんな事など、させる訳にはいかない。今ここでお前を討ち取り再びその魔術は封印する。」
「残念だが、今ここで戦うつもりは無い。」
「逃がすと思うか?」
瞬間。アデクは飛び出した。何としてでもその魔術を持ち出される訳にはいかない。
しかし
「すまないが時間が無い。今日はここで退散させてもらおう...だが。」
「知っての通り我々の弱みは頭数が少ないことでな...ここには優秀な戦士が多いと聞く。何人か頂いていこう。」
そう告げると2人の間にワームホールが出現した。
「何!」
「さらばだ、次会う時は存分に相手をしてやろう...生きていれば、だがな。我が名はアンモビウム。覚えておくと良い。」
「...チッ!」
アデクはすぐさま他の教員に通信を繋ぐ。
「アデクだ。突然現れるワームホールに気をつけろ!吸い込まれれば連れ去られる!極力散らばり、校外へ逃げろ!」
「良い判断だ。だが、果たして...」
既にアンモビウムの姿はそこには無い。
(やられた...せめて生徒だけでも守らねば...)
アデクは踵を返し、校舎へと戻っていった。
その頃。校庭から離れたナスタとアルスは人気の無い道場を訪れていた。
「ここなら誰も来ない。暫く置いておくには絶好の場所だぜ。」
「ああ。アルス、頼む。」
「よし」
アルスは更にサディオンの縛りを固める。未だに意識は無く、悲鳴すら上げない。
「これだけやればそう簡単に逃げられないだろ。」
ふう、とアルスが一息ついた。
「よし、俺達はスノー先生を探そう。連絡待ちより、動いていた方が状況も把握出来る。」
「そうだな...ん?」
その時、アルスがふとした異変に気づく。
「な、なあ...ナスタ。こいつってこんなに小さかったっけ?」
「え?何を言ってん...だ...」
ナスタは目を疑った。
確かに細身ではあったがサディオンという男、身長はゆうに180cmはあろうかと言う長身だったのだ。
それが、気が付けばまるで子どものような大きさになっているのだ。
「まさかこいつ...!!」
ナスタが攻撃を仕掛けようと手をかざす。
しかし、それは叶わなかった。
「甘いですよ...命の取り合いを知らない青少年諸君...あの女がいなくなってくれて本当に助かりました...」
意識を失っている筈のサディオンが突如目を開けた。
「───ブラインド」
「───しまっ」
「まずい...!!」
再び2人に目眩しを浴びせ、高らかに笑い声を上げる。
「クハーッハッハッハ!!魔族を舐めないで貰いたいですねぇ...」
小さくなったサディオンの身体が光の粒子となり霧散した。そして拘束されていたすぐ隣に粒子が集結し人の形を形成していく。
「こういう術もあるんですよ。緊急用ですがね...さ、我らが当主も目的を果たした様ですし、私も退散しましょう。」
「待て!」
「待ちませんよ。ただ...」
サディオンは口を手を当てて冷酷な笑みを浮かべる。
「一人...攫ってこいと言われてるんですよねぇ...魔族は数が少ないですから。駒が欲しいんです。」
そしてワームホールを展開する。視界の潰された二人は無闇に動くことが出来ず、逃げることも攻めることも出来ずにいた。
「誰を連れていくか悩ましいですが...」
「ここはあなたにしましょう。」
「アルス!!全力で飛べえええ!!」
「うおおおおお!!」
四の五の言っている状況でないと判断したナスタは全力で逃げる選択をした。
「走れ!アルス!」
「ああ!逃げるぞ!」
ナスタは目を潰されている中直前の記憶を頼りに走った。
走り続けて暫く経ったのち、ふと立ち止まると視力が戻ってきた。
「よくやく見えるようになったか...アルスお前は?」
後ろにいるアルスへと声をかける。
しかし、そこにアルスの姿は無かった。
「...アルス?」
そしてサディオンの姿も気配も、既に近くからは感じられなくなっている。
「まさか...」
「クフフフ。目的の人物とは違いますが、まあ我慢しましょう。」
そう笑うサディオンの腕には意識を失ったアルスが抱えられていた。
そして───アンモビウムとサディオンが姿を消した後2時間後。学園内に侵入した魔物の全てが討伐された報せが入った。




