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怠慢なラスボスに転生した俺、敵国に亡命して成り上がる  作者: WING
第2部

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6話:士官学校Ⅰ

 ――半年後。


「士官学校に入学か。……まさかほんとに来るとは思ってなかったけど」


 目の前で荷物を抱えたライナスが、ちょっと不満げに言った。

 訓練生がいきなり士官学校に転入だ。驚くのにも無理はない。


「いや、俺もまさかお前が推薦通るとは思ってなかったよ」

「おい、そこは『当然だ』って言えよな!」


 ライナスはぶつぶつ言いながら寮の部屋に転がり込んできた。しかも、俺と同室。どうなってんだ王国軍、いやリゼロット教官。完全に狙ってやってるだろ。


「それより、ほら。こっちの荷物も持ってあげて!」


 そう言いながら入ってきたのは、相変わらず天使みたいな笑顔のミナ。


「てか、お前らも推薦通ってるとか、どんなコネ……いや、いやらしい意味じゃなくて。リゼロット教官、どんだけ俺に手間かけたいの」

「え? 違う違う! アルクスが補佐やってた頃にさ、教官たちがうちらも見てたんだって! 『君たち、なかなかいいバランスで動いてる』とか言ってさ!」


 ……要するに、俺が引っ張り上げられたときに、こいつらも一緒にリフトアップされたってことか。うん、ありがたいけど、やっぱり想定外。


「まあ、いいけどさ。ここでも地味に頑張るだけだし」

「そう言ってる奴が一番目立つんだよなー。ほら、前も言ったけど、俺を秘書官に――」

「まだ早い」

「チッ」


 そうして、俺たち三人は新たな環境――王国士官学校の門をくぐった。

 ここには帝国とはまた違う価値観があって、軍事戦術だけでなく、政治、交渉、魔術理論、そして実地訓練まで、より総合的な知識と能力が求められる。

 しかし、それでも俺の目標は変わらない。


 ――目立たず、有能感を出しつつ、でもなるべく楽して、影で成り上がること。


 そのためには、ここでの振る舞いも計算していかないと。早速、生徒たちの序列、教官の評判、次の演習予定を調べておかないとな……。


「なあアルクス、聞いたか? 来月、王都近郊での演習に士官候補として実地参加だってさ!」

「……は?」

「まさかの、いきなり演習かよ! 俺たち一年だよな⁉」

「リゼロット教官が言ってたよ? 優秀な人材ほど早めに現場を見せたほうがいいって」


 ……俺の平穏、どこいった。


 一カ月後。

 王都近郊・実地演習場。


 空気が張り詰めていた。魔力で強化された訓練用の標的が並び、各班が実戦形式の演習に臨む準備をしている。周囲は騎士候補や魔術兵志望でざわついていたけど、俺は一歩引いた位置から全体を観察していた。


 そして今、なぜか俺は、部隊指揮の役目を任されている。


「いや、ちょっと待って? 俺、まだ一年だし、指揮経験って言っても講座の補佐レベルで――」

「適性があると判断しました。よろしくお願いします、隊長殿」


 副官役の上級生が、にこやかに言い放った。おかしい、こういうのは上級生がやるんじゃないの? ねぇ? どこ行ったの、順当な人選。


 俺は上級生たちから、リゼロットの推薦と言うのを知っていた。加えて、この一カ月での俺の戦術論などを見聞きした結果、こうして隊長を任されている。


 しかも、うちの班――ライナスとミナがいる班――だけじゃなくて、他の班の教官たちまで、こっちをちらちら見てる。あの銀髪のリゼロット教官なんて、明らかに「さあ、やってごらん?」みたいな顔しているし。


「うわー……絶対これ、踏み絵だ」


 ぼそっと呟いたつもりだったけど、横のライナスが吹き出した。


「でも、アルクスならやれるって思われてんだろ? なら、やってやれよ。俺が秘書官になる日は近いぜ!」

「お前の野望、どんだけ秘書官に固執してんだよ……」


 とはいえ、ここで変に拒否しても、かえって目立つ。ならば逆に、徹底的に合理的で、リスクの少ない戦術で、やり過ごすしかない。


 今回の演習の目的は『拠点防衛と偵察情報の活用』。つまり、守りきれば勝ち。よし。俺は静かに成り上がるんだ。だから消極策で行こう。


 開始早々、俺は各班員に命令を飛ばした。


「全員、定位置に。魔法班は前衛じゃなく、中衛に置く。遊撃組はあえて外周を回って、情報収集を重視。敵の初動を捉え次第、報告を」

「え? でも、攻め込まないのか?」

「攻めるのはバカのすること。今回は『防衛』がテーマだ。情報と待ち伏せで勝つ」


 部隊員たちは少し戸惑っていたが、命令には従った。


 そして、開始十分後――……


「敵、左翼に展開中! 魔法部隊が主力っぽい!」


 偵察に出した班員の報告を受け、俺は即座に指示を切り替える。


「全体、左翼に戦力を集中。魔術障壁を張る準備。敵の進行ルートに、地形を利用した罠を設置。ミナ、例の斥候ルートを再確認してくれ」

「了解! アルクス、なんかかっこいい! 様になってるよ!」


 ……やめてくれ、褒めると逆にプレッシャーになる。


 結果から言えば、俺たちの班は圧勝だった。

 敵の進行は罠で分断され、魔法の集中砲火で敵主力を無力化。こちらの被害は軽微。しかも、最小限の戦力で最大の成果。上の教官連中がニヤニヤしながら拍手してくるのが見えた。

 演習後、講評の場で名前を呼ばれた。


「アルクス訓練生。今回の戦術、あなたが立案したのか?」

「はい、そうです……」

「見事だった。奇をてらわず、戦力の特性を活かした堅実な布陣。情報活用も完璧だ。将来はぜひ王国軍参謀部へ――」


 あーもう、まただ。また「使える奴認定」されちゃったやつだ。俺の『静かに成り上がる』って目標はどこいったの。


「目立ちたくはないんだけどねぇ……」


 ぽつりと漏らしたら、すぐ隣でミナが笑いながら言った。


「でも目立ってるよ? みんな、すごいって言ってたもん!」

「お前が笑ってると、もう何も否定できんわ……」


 リゼロット教官の視線を感じて、ちらっと見れば、満足げに頷いていた。

 ……これ、完全にロックオンされてるやつだな。今さら引き返せない。

 でも、いいさ。次は「目立ってるのに、楽してるように見せる」方向に戦略修正してやる。


 ――俺は怠慢なラスボス。主役はあくまで、他の誰かでいてくれ。俺は裏で操って、のんびりしてたいんだ。



 演習後の帰り道、俺たちは王都近郊の草原を歩いていた。

 夕陽が地平線を染めて、長く影が伸びている。そんな中で、ライナスが突然言い出した。


「なあ、俺たち、けっこうイケてたよな今日」

「……お前が最前線で突っ込もうとしてたの、俺が止めなかったらどうなってたと思う?」

「それはそれで派手で良かったかもだろ? インパクト重視で!」

「戦争はエンタメじゃねぇっての……」


 ため息をつく俺の横で、ミナはにこにこと花を摘んでいた。なんだこの平和な図。今日、ガチの魔法戦闘やってたのに。


「でもさ、アルクスが指揮してくれてよかったよ。わたし、最初はびっくりしたけど……うん、なんか、信じられる感じだった」

「……そう?」


 そう言われると、なんか変にくすぐったい。


「ていうかアルクスって、あれでしょ? 指揮してる時はめっちゃ冷静なのに、終わると『あー目立った』って凹んでるの、ちょっとおもしろいよね」

「うるせえよ」


 俺の葛藤、わかってくれ……!


 士官学校に戻ったその晩。

 個室のはずの部屋に、当然のようにライナスが転がり込んでいた。ていうかお前、なんでパジャマ持参なんだよ。


「演習のこと、明日また教官に報告するんだろ? そのときにさ、俺がいかにサポート役として優秀だったか、強調しといてくれよな?」

「いやいや、俺の話でいっぱいいっぱいだと思うけど……ていうか、勝手に副官ヅラするな」

「でもほら、目立ってたじゃん? お前、今日の演習で『鬼の一年』とか呼ばれてるって噂だぞ?」

「やだなにそれ、呼び名が物騒すぎるだろ……!」


 そんなやりとりをしていると、部屋のドアがノックされた。開けると、そこにはリゼロット教官が立っていた。


「アルクス訓練生、少し話がある。明日の特別講義に、君にも出席してほしい」

「……え、明日、休日じゃ?」

「特別だからこそだ」


 そう言ってリゼロット教官は意味深に微笑んだ。

 ……この人、本当に俺の計画をぶち壊してくる天才なんじゃないか?

 もはや俺の天敵だろ。


「さて、次のステージに進む準備はできてるわよね? アルクス」


 ――ああ、もう。まるで運命に踊らされてるみたいだ。


 でもまあ、どうせ流れに巻き込まれるなら、泳ぎながらちゃっかりいいポジション取ってやるさ。

 影で、こっそりと――でもしっかりと成り上がるために。



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