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「あの」
待ちに待った声掛けに、私は頬を緩ませ振り向いた。
そして言う。
「はいっ、ここはアルタの街です!」
たっぷり一拍、間が空いた。
ややあって相手は苦笑を浮かべ、そう、とだけ返す。
私も思う。
こんな言葉、そうですかとしか返せない。
でもこれが私の役割だったりする。
(なんでもうちょっと有意義なことを話せないかな!?)
内心で地団駄を踏む私に、相手は視線を彷徨わせ。
「えと、君……」
「是非当街一番の宿で、疲れを癒して下さいね!」
残念ながら、二回目の言葉も決まっている。
ごめん! と心の中で詫びながら、それを間違うことなく言い放つ。すると相手は視線を逸らし、頬を掻いて頷いた。
「……そうだね。うん」
ありがとう、と微笑んで、彼は街の中へと歩を進める。
(くっ、いい人……!)
私だったらキレそうだ。あの、と声を掛ければ、どうしましたと返されるのが普通だろう。
何故唐突に街の名前を聞かねばならん。
誠に申し訳ないと思うのだが、名も無き街娘と『勇者様』との関わりは、この噛み合わない会話で精一杯なのだ。
***
この世界では百年に一度、『魔王』が生まれる。
魔王とは魔物を生み出し、世界を破滅に導くと言われる存在だ。そして、この世界の魂を持つものには決して倒せないのだとされている。
(だから、神様は他所から勇者様を喚ぶんだけど……)
喚ばれた勇者は魔物が蔓延る世界を巡り、各地の神殿にある結界を展開させなければならない。そうして魔王の力を徐々に削ぎ、最終的には直接対決に挑むのだ。
――その命を懸けて。
理不尽な話だ。
他から喚べるのならその力を我々にとか、百年後が分かっているなら対策をとか、色々思うところがある。
けれどそれが難しいから、こんな事態になっているのだというのも分かる。
分かるけれども。
(もっと出来る事があってもいいのにな……!?)
勇者のために、神が人々に課す『役目』。
食事や宿を供する役や、武具の練成を担う者など、全ての者が何らかの役割を負う中で、自分に許されたのは時期に応じた二つの言葉だけだった。
しかもびっくりする程中身が無い。
街の名前と休息のすすめなど、言われなくとも分かるだろう。あまりに意味が無さ過ぎて、役目を振った神を恨めしく思うほどだ。
とは言え、役割に背いたり、役目以上の関わりを勇者と持てば『天罰』が下る。何が起こるかは明確ではないが、神官によると個の死亡または世界の終わりの二択らしい。
酷い話だ。
自分だけならまだしも、他人を巻き添えにするのは有り得ない。となれば、意味不明な言動であろうがやるしかないのだ。
「はぁぁ……」
深く息を吐き、かくりと頭を傾ける。
先程のやり取りで、勇者には話の通じない奴だと刷り込まれたことだろう。会話がなければ、もはや自分は置物だ。
ならせめて。
役目の期限を終えるまで。
世界を救った礼を告げ、勇者を見送るその日まで。私はここで、彼の無事を祈っていよう。
読んで下さりありがとうございます……!
街の名前を繰り返すモブさん。
あっさりと数話で終わる予定でございます(_ _)❀




