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勇者様に街の名前を教えて送り出したら、世界を手にして帰ってきました。  作者: やなぎ いつみ


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* 1 *

 


「あの」


 待ちに待った声掛けに、私は頬を緩ませ振り向いた。

 そして言う。


「はいっ、ここはアルタの街です!」


 たっぷり一拍、間が空いた。

 ややあって相手は苦笑を浮かべ、そう、とだけ返す。

 私も思う。

 こんな言葉、そうですかとしか返せない。

 でもこれが私の役割だったりする。


(なんでもうちょっと有意義なことを話せないかな!?)


 内心で地団駄を踏む私に、相手は視線を彷徨わせ。


「えと、君……」

「是非当街一番の宿で、疲れを癒して下さいね!」


 残念ながら、二回目の言葉も決まっている。

 ごめん! と心の中で詫びながら、それを間違うことなく言い放つ。すると相手は視線を逸らし、頬を掻いて頷いた。


「……そうだね。うん」


 ありがとう、と微笑んで、彼は街の中へと歩を進める。


(くっ、いい人……!)


 私だったらキレそうだ。あの、と声を掛ければ、どうしましたと返されるのが普通だろう。

 何故唐突に街の名前を聞かねばならん。

 誠に申し訳ないと思うのだが、名も無き街娘と『勇者様』との関わりは、この噛み合わない会話で精一杯なのだ。





 ***





 この世界では百年に一度、『魔王』が生まれる。

 魔王とは魔物を生み出し、世界を破滅に導くと言われる存在だ。そして、この世界の魂を持つものには決して倒せないのだとされている。


(だから、神様は他所から勇者様を喚ぶんだけど……)


 喚ばれた勇者は魔物が蔓延る世界を巡り、各地の神殿にある結界を展開させなければならない。そうして魔王の力を徐々に削ぎ、最終的には直接対決に挑むのだ。


 ――その命を懸けて。


 理不尽な話だ。

 他から喚べるのならその力を我々にとか、百年後が分かっているなら対策をとか、色々思うところがある。

 けれどそれが難しいから、こんな事態になっているのだというのも分かる。

 分かるけれども。


(もっと出来る事があってもいいのにな……!?)


 勇者のために、神が人々に課す『役目』。

 食事や宿を供する役や、武具の練成を担う者など、全ての者が何らかの役割を負う中で、自分に許されたのは時期に応じた二つの言葉だけだった。

 しかもびっくりする程中身が無い。

 街の名前と休息のすすめなど、言われなくとも分かるだろう。あまりに意味が無さ過ぎて、役目を振った神を恨めしく思うほどだ。


 とは言え、役割に背いたり、役目以上の関わりを勇者と持てば『天罰』が下る。何が起こるかは明確ではないが、神官によると個の死亡または世界の終わりの二択らしい。


 酷い話だ。


 自分だけならまだしも、他人を巻き添えにするのは有り得ない。となれば、意味不明な言動であろうがやるしかないのだ。


「はぁぁ……」


 深く息を吐き、かくりと頭を傾ける。

 先程のやり取りで、勇者には話の通じない奴だと刷り込まれたことだろう。会話がなければ、もはや自分は置物だ。


 ならせめて。

 役目の期限を終えるまで。

 世界を救った礼を告げ、勇者を見送るその日まで。私はここで、彼の無事を祈っていよう。









読んで下さりありがとうございます……!

街の名前を繰り返すモブさん。

あっさりと数話で終わる予定でございます(_ _)❀

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