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天使狩り  作者: 飛鳥
第1章
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JORKER


 日が暮れた街を彷徨い歩いた。駅前の方は人混みだが、少し外れればそうでもない。

「…………」

 飲み屋からいい匂いがしてきた。遊んでる場合じゃないが。

 点々としかし綺羅びやかに灯された明かりの集合、そんな夜の街を行く。深海を漂うクラゲのようだった。

 ゲーセン、ファンシーショップ、100円ショップ本屋CD屋マクドナルド。丹念に練り歩いて見たが――

「……学生服は、いっぱいいるんだがなぁ」

 しかし誰一人として羽なんて背負っていない。土台具現化していなかったとして、霊視できるレベルの翼なのかは知らないが。

「でもなぁ……A-で、予兆のカケラすら感じないなんてねぇと思うんだよなぁ」

 相対すれば、いや、一目見れば嫌な感じがするはずだ。俺の目は何故だか奴ら関連に関してのみA-まで跳ね上がるのだ。

 …………どうしてなのかは分からない。春子さんいわく天性か、どこかで呪いに触れてしまったか。

 呪いというのは実に不安定で意味不明で怖ろしいものだ。怪談やホラー漫画そのままの「おまじない」みたいなものばかりかと思いきや、直球で発火能力者が出てくることもある。そう、“発火の呪い”つまり、焼き殺すための呪いというわけ。

 そうやって拡大解釈していけばどこまでも広がっていけるように、事実呪いってのは千変万化だった。現状、人間が現実物理に超常的に干渉できる手段は2つ、呪いと、第四現象だけだと言われている。――番外で呪いに対する耐性なんかもあったか。

 そんな中、突然この現実に現れた“天使”っていう存在――

「…………」

 意味不明極まる。理解不能でおぞましい。実在すら信じられていなかった脅威が、いまから十年ほど前、ついにこの街で猛威を振るった。

 ……あの件に関しては、赤木市所属の裏側の人間なら誰でも知っているだろう。誰だってトラウマなはずだ。この俺も例外ではない。

 この街は、一度、天使あいつらに滅ぼされかけたのだ。

「おっさん、ラークマイルドくれよ。あとライターおまけして」

「あい、四百円ね」

「チッ」

 いまどき少なくなった出窓式のタバコ屋で魂のガソリンを購入した。きっちりライター代は請求されたが。新品のタバコの封を切る。世の中全部がどうでもよくなる瞬間である。

 大通りからけっこう外れて奥まった、人気の少ない通りで月見タバコする。日本人が忘れ去ったゆとり。タバコは思索の翼である、なんて太宰治の格言はもう二度とテレビでは流されないのだろう。

 立ち上りあっけなく霧散していく紫煙と、あの日大破した自動車から漏れていた白い煙とが重なる。窓ガラスに投射された俺は黒く濁った生き残りの目をしていた。

 ―――かつて、天使が地上に舞い降りて、密やかに人間を殺しているとの噂があった。

 狩人間でのものらしい。狩人ってのは異常現象全般の方で、その頃は天使狩りなんて存在はいなかった。

 初めに気付いたのはうちの親父だった。学生時代、天使と出会い、そして殺されかけた。

 わけが分らない。親父はその頃、普通に高校生やってた無力なその他大勢だったってのに、いきなり夜道で羽の生えたいきものに殺されかかったんだそうだ。

 為す術もなく逃げまわる。どうしてか夜道が永遠に続いていて、いつまで立っていても逃げ切れなくて、羽人間は手から雷光を飛ばして親父を追い詰めたらしい。

 ――――まるで“魔法”のようだった。

 そして――


 その夜殺されるはずだった親父は、何の間違いか生き残って(・・・・・)しまった。


「………………」

 それがすべての間違いの始まり。親父は多分死ぬはずだった。だって、ただの高校生なんだぜ? それがなんで、いきなり現れたバケモノを返り討ちにして生き残っちまったってんだ。

 血まみれの両手を見下ろして親父は気が狂っちまった。いいや正気だったのだろうか。どのみち大差はないだろう――以降、親父は妹の春子さんに黙って毎晩街へ繰り出し、運良く出会えた正体不明な羽人間を大喜びで全殺する死神ジョーカーになった。

 人外と殺しあう喜び。勝利と惨殺っていう名の正義、そして。

 ――――天使狩り、浅葱聖一。それがすべての始まりだった……。

 以降は大した話でもない。

 所詮は兄妹だったのか、春子さんも同じく天使狩りっていう趣味なんだか仕事なんだか分からない行いに手を染めた。親父が死んだ。十年前の事件が起こり、春子さんは視力を失うと同時に赤木市の異常現象狩りと和解。

 で、3人目たる俺が残る、と。

「ちぃ……ダメだな。遅すぎたんだ」

 駅前の目撃情報から一時間半、学生服の羽人間などどこにも見当たらない。それどころか人の気配すら引き始め、こんな小道にいたっては俺しかいない。

「ま、無駄足は慣れっこだけどな……」

 気怠いままに歩き出す。異常現象全般と出会うことすら稀なのに、その中でも羽人間だけに限定すれば日夜空振りの連続だ。

「あー……ったく、今日はハズレの空気だな……」

 ぴん、と吸殻を水たまりに落として消火。ほどなくして俺の予想は外れた。


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