WELCOME to HEAVEN
「な……」
んだこれ、と続く言葉を紡ぐこともできなかった。ポロリと落ちたくわえタバコが足に当たって、その熱さに地団駄踏んでようやく冷静になれたくらいだ。
話は数分前に遡る。あきらめ半分で住宅地を歩いていたのだが、まるで景観の一部を侵食するように木々が生い茂っていて奇妙だと思った。
緑緑緑、街なかの一軒家や錆びアパートの並びに紛れ込んでも紛れ込めない大きな林。工場ひとつぶん程度に相当する大きな面積がフェンスで囲まれている。俺の記憶違いでなければここは、意味も味もない土の地面だけがあって、ガキどもがボール投げて遊び場にしていたはずなんだが。
そんな空き地が、何故だか樹齢いくらだか分からんような木々に埋め尽くされてドーム状になっていたのだ。怪奇現象甚だしい。
「……こりゃ、何事だ」
俺の霊視が異常事態を訴える。霊視でなくとも、この粘着質に地面にへばりついたような歪な木々は生きてるようで不安に駆られる。
春子さんに連絡を入れた。面倒だがタケルにも連絡を入れておいた。我ながら義理堅いと見せかけて、保険を忘れないがめつさである。
『俺が行くまで動くなよ、光一』
「るせぇ」
ぶっつり切った。腹立たしいのは、タケルの重々しい声が、直感がこの状況を正しく感じ取っていたことだ。
――――俺だって自分の危機を察知できないほど鈍感ではない。人間の街にこんなもんこさえて侵食するなんて仮に羽人間じゃなくても重大事件だ。
俺の目は舞い散る白羽なんかを幻視していて、吐き気を堪えながら真っ暗な林を突き進み、奇跡のように無事・おおよそ目的地と思しき場所にたどり着いてうめくのだった。
「な……」
んだこれ、と続く言葉を紡ぐこともできなかった。ポロリと落ちたくわえタバコが足に当たって、その熱さに地団駄踏んでようやく冷静になれたくらいだ。
この雲海みたいな林もそうだが、それにも増して目の前のコレはおかしい。
割れた窓ガラス、煤けコケの生えた壁、年季を感じさせるそのすべて。
「………………ついこの前まで、空き地だったんだけどな」
ドーム状の林の中心部に、隠れ潜むようにして古めかしい大教会がそびえていた。
ほとんど城だ。古城くらいの面積はあるだろう、それが空き地の面積よりもゆうに大きくて、そして林の面積はそれより更に大周りだってんだからつくづく歪んでいる。
「……チッ」
扉を蹴倒して封を開ける。早くも両手に二丁拳銃、口にはいつも通りのくわえタバコ。噛み締める。
「気に食わねぇ……」
荘厳かつレトロなあかり一つない内装。壁にこびりついた、またしても無数の凝固血液。
――血文字で綴られた『WELCOME to HEAVEN』。
神を称える大教会は、まさしく奴らの住処に相応しい醜悪さで俺を歓迎していた。




