精霊の儀
あれからニナさんとみっちり個人レッスンを受け、火の魔法と風の魔法の基礎を教えてもらった。
結果は上々で、すぐにでも精霊使いになれるレベルらしい。
あとは、精霊が来てくれるかどうからしいなのだが……。
***
「さあ、舞台は揃ったわ! 国民も半数以上集まってくれたし、あれだけ練習したんだもの、きっと物凄い精霊が現れると思うわ!」
精霊召喚の儀で顕現する精霊は、人それぞれ精霊の姿が違うらしい。
ニナさんの時は、そのままズバリの姿をしたサラマンダーが出たと言っていた。
シルフも小人の様な姿だった様だ。
『一体どんな精霊が出て来るのやら……』
僕はまだ、全然想像がつかないまま、精霊の儀を迎えてしまった。
こんな事では、失敗して何も出てこないかもしれない。
そんな不安と期待を携え、儀式の間……と言っても、王様とかがよく国民に姿を表す様な城から張り出した部分に向かう。
「じゃあ、教えた通り頑張ってね!」
ニナさんに背中を押され、表舞台に出る。下を見下ろせば国民が盛大に集まっていた。
『うわぁ……皆んな盛り上がってる。これで失敗とか笑えねぇ……』
引きつった笑みを浮かべながら、集まってくれた国民に手を振る。
俺は、大臣の言葉の後に祝詞? を唱える事になっていた。
「静粛に! 静粛に! これより、精霊の儀を執り行う。
新たな精霊使いの誕生を願い皆の思いを捧げよう!」
大臣の言葉の後、国民は皆お祈りのポーズをしながら、こちらに目を向ける。
これで、場は整った。
あとは、俺が精霊を呼ぶだけだ。
「中島の名をもって命ずる! 出でよ、サラマンダー!」
思い切り叫んだ。
そう、もうそれは張り裂けんばかりの大声で。
失敗なんて考えていられない、頭の中は真っ白だ。
叫び終わり、静寂が辺りを包んだ頃、目の前の少し上の空間に亀裂が起こる。
亀裂はバリバリと奇妙な音を立てて、だんだんと広がって行く。
やがて、その亀裂から黒く長い爪を持った大きく厳つい手が出て亀裂の両端を掴み、一気に亀裂をこじ開けると……それは出てきた。
落雷の様な音ともに姿を見せたその精霊は……牛の様な頭を持ち、全身が毛で覆われた大男だった。
『これ……イフリートじゃね?』
そんなツッコミを入れたくなる様なサラマンダーを見て、取り敢えず成功? した事に安堵する。
大男は空中にできた炎の床に降り立つと、俺に向かって手を差し伸べてきた。
「おまえが私を呼んだのだな? では、契約だ。汝は私の力を使い、存分に暴れろ! 良いか?」
「ああ、わかった。契約だ」
「では、さらばだ!」
そう言うと、イフリート的な何かは消えてしまった。
事前に聞いてはいたが、こんなにもあっさりとしたものだとは思わなかった。
そして、俺はもう一度、祝詞を叫ぶ。
「中島の名をもって命ずる! 出でよ、シルフ!」
叫んだ後の静寂が重い。逃げ出したくなる様な間は、すぐに変化が起きた。
上空の雲が厚くなり、日の光を遮ると、辺りを暗い闇が襲う。
すると、民衆の周りから、小さく淡い緑色の光が無数に浮かび上がってきた。
闇を照らすその光は、幻想的な空間を演出すると、つむじ風を巻き起こしながら目の前で集約し始める。
「私を呼んだのはあなたね? じゃあ、契約しましょう! あなたは、私の力を存分に自分のために使ってね!」
そう聞こえたのだが……この、ただの大きな緑色の光はどこから声を出しているのだろうか?
あまり深く考えたら負けだと思い、粛々と契約を結ぶ事にする。
「ありがとう。では、契約だ!」
「わかった。じゃあね!」
これまたあっさりとした契約を結ぶと、分厚い雲は晴れ、緑色の光は消えて行く。
以上で俺の役目は終わりだ。
『取り敢えず良かった……よくわかんないけど、契約が結べたのだから、問題ないだろう』
そう安堵すると、突然民衆から盛大に祝われる。
怒号の様な民衆からの声援に、苦笑いで手を振り返す。
「静粛に! 静粛に! これにて、精霊の儀を終了する。
今宵は国を上げての祝賀会を開く! 新たな精霊使いの誕生を盛大に祝おうではないか!」
「「「うおぉぉ!」」」
更に音量を上げて民衆が騒ぎ始めた。あとは大臣に任せてさっさと退散だ。
大臣はまだ何か言っていたが、俺の役目は終わった。
俺は頃合いを見て城に戻る。
「ナカジマ! やったな!」
「はい。ありがとうございます、ニナさん」
城に戻ると、すぐにニナさんがお祝いの言葉をかけてくれた。
ニナさんは、今まで見たことのない笑顔で迎えてくれた。
彼女のそんな笑顔に釣られて、自然とこちらも笑顔になってしまう。
「今夜は城下で盛大な祭りが行われる予定だよ。あとで一緒に行こうね!」
「はい!」
国中で祝われる様な時の人となった自分が未だに信じられないが、ニナさんと一緒にお祭りを楽しめるなら何も問題は無い!
むしろ、うまく行きすぎて怖いくらいだ。
異世界に転送されて、投獄という地獄を味わった後、国民総出で祝われるなんて、あまりにもギャップがありすぎて心労がハンパ無かったが、ニナさんとお祭りを楽しめるならばそんな心労など構っていられない。
こんな出来すぎた運命だが、僕には受け入れる事しか選択肢は無かった。
僕にはまだ、未来を選択する力も、助けてくれる仲間も居ないのだ。
それに、ニナさんとのお祭り見物を断るなど、そもそも僕の選択肢には無い。
こちらから願ったとしても、叶えられるとも思えない程の幸運だ。
今はまだ、運命に流されていよう。
そしてその中で、がむしゃらにでも、着々と己の力をつけていくよう努力する事を誓う。
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