伝説の始まり 2
【ニナ視点】
ニナは、地下へと続く階段を降りていた。
『この臭いが嫌なのよね……』
暗殺者かもしれない族が捕まったというのに、今まで地下に足を運ばなかった理由がこれだ。
ほとんど来る事はないが、もし、ここに来なければならないような用事があったとしても、何かしら理由をつけて極力避けるようにしていた。
しかし、今回は行かなければならない。
もし本当に言語が分からなければ、ニナしか話せる人間がいないのだ。
何もわからないまま処刑でもしてしまえば、後悔しか残らないだろう。
階段を降りきって、目の前にある牢屋を見る。
生気のない若者が呆然とこちらを見ている。
『こんな普通の子が私を暗殺に来た? 魔力どころか、筋力も無さそうなのに……』
牢屋の前に立ち、一応声をかけておく。
「私の話す事がわかりますか?」
返事はない。
であれば、最後の手段だ。
牢屋の彼にマジックポーションを渡し、飲むようにジェスチャーで伝える。
そして背中をこちらに向けるよう指示する。
迷い無く私の指示を理解し、従順な犬のように言うことを聞いてくれた。
『……拍子抜けだったけど、好都合だわ。このまま刺激しないで、手早く済ませてしまいましょう』
ニナは彼の背中に手をかざし、魔力の流れを調整する。
……だが、いくら魔力を注ぎ込んでも、底が見えない。ニナの魔力はどんどん吸い込まれていく。
『ちょっと、嘘でしょ!? 一体どれだけの器を持ってるって言うの!』
このままではニナの魔力が尽きてしまいそうだった。
『ダメ、このままじゃ魔力切れを起こしちゃう……。まだ完全じゃないけど、やるしかないわ!』
「ギフト!」
ニナは、魔力調整を程々に切り上げ、最後の仕上げに言語理解を促す魔法をかける。
「どうかな? わかるかな?」
「!!」
彼は、目を見開きこちらを凝視していた。
今までにない反応……理解出来たのだろうか?
「ぁ……ゎ……わか……ります」
か細い声を必死に絞りす。
見開いた目からは、大粒の涙が溢れ出していた。
必死に笑おうとしているようなのだが、溢れ出る涙が止められず、笑えていない。
何か言葉にしようとしているようなのだが、声がうまく出せないようだった。
私はいつのまにか、彼の頭を撫でいた。
まるで、泣いている子供をあやすように。
『……きっと暗殺者じゃないわ』
ニナは子供のように泣き噦る彼を見て、情に負けてしまった。
しかし、ニナはただ情に流されていた訳ではない。
底が見えない魔力の器を持っている囚人に、淡い期待をしてしまっていたのだ。
八方塞がり、万事休すの戦況をひっくり返す、ジョーカーが転がり込んで来た……そんな都合の良い期待を。
そして、ニナはすぐに行動を起こした。
囚人を謁見の間に誘導し、先に王に根回しをしておく。
大した罪を犯したわけではなかったため、交渉は簡単だ。
ニナは王に「精霊使いの素質あり」と助言。そして、責任を持って育てあげると確約した。
もし素質が無かった場合は、捨て駒として使い捨てると条件付きになってしまったが……その時は上手いこと逃してあげればいい。
そして、形式だけ簡単に済ませて、謁見の間を後にする。
「あっあの。ありがとうございました!」
謁見の間を出てすぐ、囚人から御礼を言われる。
動揺こそしなかったが、ニナは少し心が痛かった。
暗殺者だと疑い、何日も拘束、尋問を繰り返してしまった。
戦争に勝つために、精霊使いになれなかったら捨て駒として葬られてしまう運命を約束してしまった。
全部自分の都合で囚人を苦しめてしまったニナは、感謝の言葉を素直に受け止める事は出来なかった。
「んーん、どーってことないわ」
気の無い返事をしてしまう。
囚人からの感謝を受け流せば、感謝されたことにならないとでも言うのだろうか?
自分のした事を話しても、この囚人は感謝してくれるのだろうか?
ニナにとっては気になるところだが、今のマローダイムにとっては、そんなことはどうでもいい事だ。
囚人ごときにかまけている暇は無い。条件無しで助けたとしても、戦争で負けてしまえば同じ事。
この囚人が精霊使いになって、戦争に勝つ。
そうしなければならない、そうでなければ助けたとは言えないだろう……。
そんな都合の良い言い訳が、ニナの思考を埋め尽くす。
だが、そんなくだらない責任転嫁はすぐに無意味なものとなり、それどころか、偉大な伝説としてマローダイムに後世まで語り継がれる事となる。
皆さま、GWはいっぱい遊べましたか?
僕は……