伝説の始まり
【ニナ視点】
マローダイム王国最強の精霊使いニナ・シーベルは悩んでいた。
戦火は日を追うごとに激化し、この国も近いうちに戦争をする事になるだろう。
この国は強国に囲まれ、にらみ合いが続いている。
リヒト王国、アイラート王国、リビルナ王国、ライアーク王国、その中でもリビルナは、隣国を落としたと報告を受けたばかりだ。
比較的仲の良いアイラートも近海の島国が大変な事になっていて、何かあってもあてには出来ない。
「はぁ……」
最近はため息ばかりが続く。
うちの戦力は隣国と比べると三番目。次に狙われるのは間違いなくマローダイムだろう。
マローダイムの戦力は、魔法使いよりも屈強な戦士が多い。
しかし、近年の戦では魔法を使える者が多い国ほど有利となる。
ニナ自体は、世界的に見ても五本の指に入る程の精霊使いであったが、魔法使いが束になって向かってくればひとたまりもない。
要はいかに魔法使いを抱えているかなのだ。
そんな時に慌てた兵士から報告が入る。
「シーベル様の寝室にて変質者を捕らえました! 襲われたメイドは無事です!」
「なっ……本当ですか?」
こんな昼間から不法侵入とは大胆な奴もいたものだ。
メイドに欲情したとしても、私の寝室では勘弁願いたい。
しかし、私の寝室という事は、もしかすると……暗殺目的だったかもしれない。
ただ、私を襲うにも昼間に寝室なんているわけが無いだろう……。
そのまま夜が更けるまで隠れるつもりだったのだろうか?
「それが——」
兵士が言うには、メイドを襲おうとしたのは血気盛んな若者という事だった。
メイドの話では、下半身を露出していたらしい。
何も話さないため、これから尋問するという手筈になっている。
「絶対に殺さず、必ず素性を聞き出しなさい!」
「はっ!」
精霊使いを暗殺する話は良くある事なのだが、事はそう単純なものでは無い。
魔法使いよりも強力な術を扱える精霊使いは、それだけで脅威となる。
たった一人の精霊使いの所業で、三万の大群を一夜にして壊滅させられてしまった可哀想な国もあった。
しかし、精霊使いも所詮は人である。暗殺可能であり、成功した時の実入りは喉から手が出るほど欲しいはずだ。
今では、精霊使いの暗殺は、宣戦布告と同じ意味合いになっている。
『どうしよう……どうしよう……もし私を狙って来たのであれば……』
強国に怯えながらも、水際で保たれていた平和は、崩壊の音を立て始めていた。
***
「まだわからないの!?」
「はっ! 申し訳ありません」
二週間程経った所で、ニナの我慢が限界に達する。
暗殺を恐れ、眠れない夜が続いたため、部下への態度が荒くなっていた。
「どこの国の言語で尋問しようと何も話さないのです。
魔力も持っていないので、ただの変質者……言葉を理解出来ない下層の平民ではないかと……」
「わざわざここに侵入してまでする事? 絶対におかしいわ! 他に何か気になった事はないの? 小さな事でも良いわ」
「はっ! 捕らえた者の報告では、奇妙な服を着ていたそうです」
「じゃあ、持ってきて!」
「はっ!」
ニナは、藁にもすがる思いで情報を精査する。本当にただの平民であれば良いが、安易な考えで間違えてしまえば、確約された死が待っている。
「こちらなのですが……」
兵士が持ってきた服は、本当に奇妙であった。
どこの国にもないデザインで、今まで見たことがない。
機能は洗練され、縫製技術も信じられない程に高い……綺麗に染色された素材も見たことがない物で作られていた。
それは、下層の平民が着る様な服ではなかった。
『一体何者なの……。もしかして……いや……でも……』
一つの疑念が浮かぶ。
かつて、魔法が生まれた時に現れた大賢者の事を。
『でも、あれは……おとぎ話で……』
もう二百年も前の話ではあるが、この世界に魔法の有用性を大きく発展させた大賢者がいた。
魔法自体は二百年前に突如使えるようになったらしい。
その時、異国の装いをした者が、魔法の有用性を説き、今の魔法史に多大な貢献をしたという有名な話だ。
その中でも、「精霊使い」として初めての人物が彼だと言うことの方が有名なのだが。
しかし、その者が居たと言われる国も今は無い、さらに、話は肥大し続けてしまい、今では信憑性の無いおとぎ話のような扱いになっている。
「どうかされましたか?」
「……直に会いたい。案内して!」
「はっ! かしこまりました!」
ここで何かを考えていても始まらない。
直に会えば、何かしらわかるかもしれない。
ニナは、地下に捕らえられた不審者に、少なからず興味が湧いてきてしまっていた。
花と魔王では出来ない主人公以外の視点。
やっぱ面白いね!




