精霊魔法
「大丈夫ですか?」
おかしなテンションで舞い上がるニナさんを連れ戻すため、勇気を出して話しかける。
「ん。大丈夫よ。ナカジマ君、あなた……精霊魔法の素質があるわ。あまりに凄かったから……年甲斐も無くはしゃいでしまって……ごめんなさい」
「そっ……そうなんですか。ありがとうございます」
急にしおらしいお姉さんに戻ったニナさんに、中島の心は動揺てしまう。
「そうね……きっと、すぐにでも私を追い越して、偉大な精霊使いになるわ! はぁ……楽しみだわ」
「いやぁ……そんなに期待されても……」
「大丈夫よ! 私の教えられる事は全部教えるわ!
……そうね、今日は火の魔法をどこまで扱えるか試してみましょう!」
あのニナさんを見ていなければ、この笑顔がどんなに眩しく映っただろう……。
今は、子供のようにはしゃぐマッドサイエンティストにしか見えない。
「はぁ……わかりました。じゃあ、お願いします」
「元気出して! じゃあ、また真似してね! ファイヤー・アロー!」
ニナさんが、上に向けて弓を引く動作をすると、炎の矢が真っ直ぐに空高く飛んでいく。
僕は、ニナさんがはしゃがない程度にイメージを抑え、しかしながら、ニナさんよりも大きな矢をイメージする。
「ファイヤー・アロー!」
空に向けて放たれた矢は、イメージ通りに形作られ、天高く飛翔する。
「あら? 火柱でも起きるかと思ってたけど……控えめなのね」
『よし! 成功だ! 羽目を外さなければニナさんが豹変する事はないみたいだ』
「じゃあ、少し上位の魔法も試してみましょう! いくわよ! ウルファイヤー・アロー!」
今度は、五本の矢が空を舞う。
『よし、じゃあ俺は七本だ!』
「ウルファイヤー・アロー!」
思い通りに七本の矢が放たれていた。
「……ナカジマ君。手を抜いてない?」
「え? いやいや、制御出来ないような力でやったら危ないかなぁって思って」
「まあ、確かにそうね……じゃあ……もうじれったいわ、一番難しいやつにしましょう! いくわよ! エンドマジック・サラマンダー・フレア・ツインドラゴン!」
ニナさんが、両手を天高く振り上げると、その両腕から二頭の龍が交差しながら登っていく。
「かっけー……」
「でしょ?」
「じゃあ、俺も……エンドマジック・サラマンダー・フレア・ツインドラゴン!!」
両手を天高く振り上げ、二頭の龍を顕現させる!
……しかし、中島の放った龍はどことなく頼りなかった。
「あれ? なんでだろ……」
「……ごめんなさい」
ニナさんがなぜか謝っている。何がなんだかわからないが、フォローしなくてはいけないだろう。
「どうしたんですか? 何か違いましたか?」
「んーん。途中で気がついたんだけど、この魔法は精霊と契約しないといけないの……。じゃないと本来の力は発揮出来ないわ」
「そうなんですか」
この魔法は、精霊と契約しなければならないらしい。
『ってか割と重要そうな事なのに忘れてたとかあり得るのか? それだけニナさんがハッピーになってたってことかもしれないが……。』
今まで思い通りに魔法を繰り出せていたのに、なぜこれだけダメなのだろうか?
ただ、精霊に逢えるなんて、まるで異世界ファンタジーのそれで、ちょっとテンションが上がっていた。
「ごめんね。でも、すぐに精霊召喚の儀式をしましょう!」
「どうすれば良いんですか?」
「国をあげての儀式になるわ……そうね、一週間後にしましょう! それまでは基礎を徹底的に教えるわ!」
「え? 国をあげての儀式?」
「そうよ、可能な限り国民を集めて、儀式を見てもらうの!
そうすれば、今まで出来なかった事が、嘘のように出来るようになるわ!」
「そう……なんですか……」
『国民の前で精霊と契約するなんて……お祭り騒ぎにでもするつもりなんだろうか?』
ご機嫌なニナさんを見ていると不安しかない。
最近のマイブームは不協和音をエンドレスリピート!