表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒猫呪術代行事務所  作者: 無咲 油圧


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

306/427

第八十二話 夜だけ開く古書店 ― 後半 ―

黒雷が日記の内部世界を貫いた瞬間、空間そのものが震え、黒い手が弾き飛ばされた。


だが──


ドロォ……


影の子どもを覆う黒い闇は、零の一撃では完全に消えていなかった。


クロはひかりの前に立ち、両手を広げる。


「だいじょうぶ……零がいるから、絶対に守るから!」


ひかりは震え、涙が浮かんでいる。


「ぼ、僕……し、死にたく……ない……でも……あの子……どうして……こんな……」


零は黒い雷を払いつつ、視線を影の子どもへ向けた。


「“日記に囚われた魂”──お前が誰で、なぜここにいるのか。それを見極めない限り、呪いは晴れない。」


影の子どもは震え、ひび割れた声で呟く。


──いやだ……でたくない……こわい……

──また……あのひが……くる……


クロは眉をひそめる。


「“あの日”……?」


零は一歩前に出た。


「見せてもらうぞ。お前の“死んだ日”を。」


その瞬間、日記の空間がぐにゃりと歪み──


色のない白黒の街並み。

雨も風も止まった、異様に静かな路地裏。


そこに、小学生ほどの男の子が立っていた。


影の子ども──その本来の姿。


そして、路地の奥から足音。


“ドッ、ドッ、ドッ……”


クロがひかりの手を握りしめる。


「……零……あれ……!」


路地の奥から、大きくねじれた“人影”が現れた。


人間に見えるが、顔だけが縦に割れ、本をめくるように“ぱらぱら”と皮膚が開閉している。


ひかりが叫びかける。


「な、なんだよ……あれ……!」


零は短く答える。


「この子を殺した“呪術師”だ。」


クロは震える。


「零……あの顔……本のページみたい……!」


零の表情は変わらない。


「“ページ剥ぎ(ページはぎ)”。記憶を“本のように剥がして奪う”呪術師。」


クロは絶望の色を浮かべる。


「つまり……この子の記憶を奪って……殺した……?」


零は頷く。


「そうだ。そして奪った記憶を使って“呪物の日記”を作った。」


ひかりは固まる。


「じゃあ……僕が買った日記って……この子が殺された“記録”で……僕の未来を、勝手に……ねじ曲げて……?」


零は淡々と言う。


「人の未来を奪う呪いは、必ず“過去の犠牲”で作られる。」


記憶の中の路地で、ページ剥ぎが子どもを壁際に追い詰めた。


──やめて……

──おうち……かえる……

──ママ、まだ……まってる……


ページ剥ぎは、顔の“ページ”を一枚開き、子どもの記憶を吸い込むように奪っていく。


零の拳がわずかに震えていた。


クロは零の袖を掴む。


「零……こんなこと……許せない……!」


「当然だ。俺は“呪術師による呪術犯罪”を最も許さない。」


ページ剥ぎが、日記の原型となる“白い冊子”を取り出し、子どもの胸に突き刺した。


──たす……けて……

──たすけ……


そして、子どもの魂は“日記の中”へ引きずり込まれた。


クロは涙目になりながら叫んだ。


「もう見てられないっ!!零!!あいつを……倒して!!」


零は筆を構える。


「倒す。この“記憶”の中であいつを殺し、日記の呪いごと壊す。」


ページ剥ぎが、現実のように零の方へ振り向いた。


その顔の“ページ”がばらばらに逆立つ。


──……じゃま……する……な……


零は空中に式を描く。


「“黒呪・刃雨こくじゅ・はう”。」


黒い雨粒が刃となり、ページ剥ぎの身体を切り刻む。


しかし、ページ剥ぎは自分の“顔のページ”をめくり、攻撃された部分を別の“ページ”に差し替えて再生した。


クロが叫ぶ。


「きゃ……!あいつ、自分の体を“本みたいに入れ替えて”再生してる!!」


ひかりは零の後ろで怯えながら言う。


「零さん……勝てるんですか……!?」


零は低く笑った。


「当然だ。再生を許さない“呪い”で殺す。」


ページ剥ぎが詰め寄り、腕を刃のように変化させ、零へ斬りかかる。


零は筆を構え、空間そのものを切り裂くように文字を刻む。


「“呪滅・黒頁断こくようだん”。──ページ(おまえ)ごと、消えるがいい。」


黒い呪力の奔流が走り、ページ剥ぎの顔の“ページ”をすべて閉じさせた。


再生ができなくなる。


ページ剥ぎは絶叫する。


──やめろ……

──まだ……ぬすむ……きおく……が……

──あ……あ……あああ────!!


零はその身体を完全に呪滅し、

日記の空間ごと崩れ始めた。


影だった子どもは、涙を流しながら零に近づく。


──ありがとう……

──ぼく……ようやく……でられる……


クロがそっと子どもの手を握る。


「もう大丈夫……つらかったね……ずっと一人で、怖かったよね……」


子どもは泣きながらクロに抱きついた。


世界に、ひかりの“死の予言”が刻まれたページが舞う。


零はその全てを手で掴み、静かに呪式を唱えた。


「──“運命書換うんめいしょかん”。」


黒い紙が光に包まれ、風に溶けて消える。


ひかりは涙を流した。


「……生きていいんですか……僕……本当に……?」


零は淡々と答える。


「依頼を受けた以上、俺が死なせるわけがない。」


クロは微笑み、ひかりの背を優しく叩いた。


「うん。今日からが“本当の未来”だよ。」


子どもの魂が光となって昇っていく。


──ありがとう……

──ぼく、やっと……かえれる……


そして日記の中の世界は静かに崩れ去った。


古書店の中へ戻ると、店主の老人は姿を消していた。


破れた“書”の看板だけが、床に落ちている。


ひかりは深く頭を下げた。


「零さん、クロさん……本当に……ありがとうございました……!」


零は軽く背を向ける。


「二度と呪いの店に近づくな。未来は“自分で書くもの”だ。」


クロは微笑んでひかりを見送った。


雨は降っていない。

静かな夜だった。


二人は並んで歩き出す。


「ねぇ零。あの子……救えて、よかったね。」


零は静かに頷いた。


「……ああ。日記に囚われた者はもういない。これで“未来”は晴れた。」


クロは零の袖をそっと掴む。


「ねぇ零……じゃあ私たちの未来も……晴れるかな?」


零は答えなかった。


しかし、ほんの少しだけその瞳に柔らかい色が宿っていた。


その夜、呪われた古書店は二度と現れなかった──。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ