65:ルーナとレブロン隊長
私の隣の席に腰を下ろしたルーナは。
今日も相変わらず美しい。
いつも通りの装飾品はない精霊の女性の衣装キトウネス――純白のキトン姿だ。その装いでも十分に素晴らしさが伝わってくる。ルーナ自体の容姿がどれだけ素敵なのかを、改めて実感してしまう。
「サラ様。まずはおめでとうございます。ノア王太子様が元気になり、サラ様も元通り。そしてお二人がお幸せになれることを、心から祝福します」
「ありがとうございます!」
二人で乾杯をし、シャンパンを口に運ぶ。
なんだか久しぶりのお酒に、気持ちが華やぐ。
「今となってはこうやって笑顔でお祝いできますが……。あの時は本当にもう、驚きました」
ルーナがしみじみと口にする言葉に。
本当に驚かすようなことをしてしまったと思う。
「詳しい事情を説明することなく、ホワイトセレネを託し、『ノア王太子様を助けてください』で意識が飛んでしまい……本当に申し訳ありませんでした」
「サラ様、頭を上げてください。謝るようなことは何もしていないのですから。むしろ私から『ありがとうございます』と言わせてください」
ルーナは深々と頭を下げる。
慌てて私は頭を上げてくれるよう、声をかけた。
「もしノア王太子様の穢れが浄化できなかったら……私はノア王太子様を看病する度に、罪の意識に苛まれ、そしてサラ様への罪悪感で苦しんだでしょう。罪のない二人の人間を苦しめることになってしまったと、辛い気持ちを抱えることになったと思います。そうならずに済んだのは、ひとえにサラ様のおかげなのですから」
「ルーナ様……」
人間に対し、どこか一線を引く精霊王と違い、ルーナは寄り添ってくれる。人間に対する優しい気持ちがある分、罪の意識で苦しむに違いなかった。そうならずに済んだことは、本当によかったと思う。
「サラ様からホワイトセレネを託されましたが、サラ様自身が穢れを受けていました。しかも手だけと思ったら、背中にも……。まるでノア王太子様と同じ。いえ、手にも穢れがあるのですから。ノア王太子様よりもヒドイ状態。ホワイトセレネをノア王太子様に使う必要がある。そう分かっていても、ノア王太子様以上に重症なサラ様を見ると、ホワイトセレネを使うのはノア王太子様でいいのかと、一瞬パニックになりました」
シャンパンを一口を飲み、ルーナはふうっと大きく息をはいた。パニックになったあの時をきっと思い出したのだろう。
「でもミレーユがすぐにレブロン隊長を呼び、二人がサラ様に粛清の力を使い始めたので、私も冷静になることができたのです。私はすぐにお兄様を呼び出し、事情を説明しました。ホワイトセレネを使い、どのように浄化するのか。それを私は知らなかったのです。でもお兄様は知っていたので。すぐにノア王太子様にホワイトセレネを使った浄化を始めてくれました。お兄様は私などより強い力を持っていますから。ノア王太子様はお兄様に任せました」
なるほど。
ノア王太子にホワイトセレネを使った浄化をしてくれたのは、精霊王だったのか。後で詳しく話を聞かせてもらおう。
「一方の私は、サラ様に粛清の力を使うことにしました。その時には部屋に沢山の精霊騎士も駆け付けていて……。ルドルフ団長もいました。既に号泣状態でしたが。ソファにうつ伏せにしたサラ様に、六人がかりで粛清の力を使いましたが……。手の穢れは範囲は小さいので、本来であれば浄化できるはずでした。ところが浄化できず、レブロン隊長他私も含め、皆、額に汗をかきながら必死に粛清の力を使いましたが、ダメでした。その後は交代で夜通しで粛清の力を使い続けましたが……。サラ様の穢れは抑制はできても、浄化できませんでした。そうしている間にもノア王太子様の浄化は終わり……」
そこにレブロン隊長がやってきた。
途中からルーナの話を聞いていたレブロン隊長は、あの時のことを話して聞かせてくれる。
「浄化を終えたノア王太子様は、その後、再び眠りに落ちてしまった。浄化され、背中は元の肌の状態に戻っているのに。ホワイトセレネを使った浄化には力を相当使ったようで、精霊王様は隣室で休まれていました。事の次第を精霊王様に聞ければよかったのですが、それができず。あの時は私もルーナ様も何か手順を間違えたのかと青ざめていましたが、駆け付けていたフィルが……賢者アークエットが教えてくれました。
賢者アークエットはホワイトセレネによるノア王太子様への浄化が始まったと知ると、この館にある図書館にこもったのです。そこで夜通し書物を調べた。そして辿り着いたのです。ホワイトセレネの正体に。ホワイトセレネはただの穢れを浄化するための花ではないと。失われた聖獣ホワイトドラゴンの魂が、ホワイトセレネという花の形を成していることに」
レブロン隊長の言葉に頷き、今度はルーナが口を開く。
「浄化が終わったノア王太子様は、自身の魂とホワイトドラゴンの魂と融合した状態でした。深い眠りに落ちたのは、ホワイトドラゴンの魂に刻まれた記憶を夢の中で共有しているためだと、賢者アークエット様は探り当てたのです。よって無理に起こすことは止めた方がいいと、その場にいた精霊達に助言しました」
シャンパンを口に運ぶルーナに代わり、レブロン隊長が話を続ける。
「さらにサラ様についても、完全浄化を目指すのではなく、穢れを抑制するので問題ないと、フィルが……賢者アークエットは教えてくれました。ノア王太子様がホワイトドラゴンとして目覚めれば、サラ様の穢れもすぐに浄化できるからと」
そこでルーナとレブロン隊長が顔を見合わせて笑う。
な、何?と思うと、レブロン隊長が話を再開した。
「ノア王太子様はたっぷり一日寝ていましたが、目覚めた瞬間の第一声が『サラはどこですか!』でした。血相を変え、今すぐサラ様に会えないと死んでしまうというぐらい切羽詰まっていて……。サラ様は隣室で休んでいました。それを伝えると、話しの途中で部屋を飛び出してしまった。しばらくの間、寝たきりに等しいノア王太子様だったが、聖獣と融合したからでしょうね。筋力の衰えもなく、機敏な動きで。サラ様を見つけると、それは情熱的に抱きしめられた」
レブロン隊長の話を聞いているだけでも
顔が赤くなり、耳もジンジンと熱く感じる。
「その後はもう、吟遊詩人も顔負けの愛の言葉を囁き続け……。私達精霊は美しい人間の言葉を愛でるのですが、ノア王太子様のサラ様への言葉は本当に優美でした。言葉だけでありません。ご自身が穢れで意識が深層の底に沈んでいた時、サラ様に触れられていることを感じることができていたそうです。そうやって触れられることで、自分がまだ生きていると実感されたとおっしゃっていました。ですからサラ様を何度も抱きしめ、手を握り、励まされて……」
ルーナはその様子が頭に浮かんでいるようで、目尻の涙を拭う。そしてレブロン隊長が話を引き取る。
「その一方で、ノア王太子様は、聖獣ホワイトドラゴンとして覚醒するために、何度もその姿を変えようと調整を続けられたのです。人間と聖獣の魂の融合。人から聖獣へ姿を変える。これは並みの人間でできることではないと思います。それでもそれを成し遂げないと、サラ様を救えない。自分を犠牲にしても助けてくれたサラ様を取り戻したい――その一心で懸命に頑張られたノア王太子様は、ついにあの美しいホワイトドラゴンへと姿を変え……。失われたと思った聖獣の復活に、精霊王様もお大喜びでした。皆、奇跡を見たと涙を流しましたよ」
そう締めくくったレブロン隊長は、ルーナに声をかける。
「あの時はルーナ様もよく頑張られました。私からも労を労わせていただけないでしょうか」
「勿論です」
微笑んだルーナをレブロン隊長がエスコートし、二人が席を離れると。
精霊王が私の隣に着席した。
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22時台に公開します。
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