64:俺は、俺は、俺は……
ロセリアンの森に戻ると。
待っててくれたみんなに笑顔と涙で迎えられた。
同時に。
まだ15時だというのに。
私の帰還を祝う宴が、大広間で始まった。
ひとまず私は賢者アークエットが用意してくれたドレスに着替えた。
ぶどう祭りの最中は。
連日、ぶどうをイメージしたカラーの衣装ばかり着ていた。でも今回、賢者アークエットが用意してくれたのは……。ノア王太子の瞳と同じ、鮮やかなコバルトブルーのドレス。
ふわっとしたシフォン素材のコバルトブルーのスカート部分には、繊細な刺繍が施された純白のレースが重ねられている。トップス部分は編み上げで大きな白いリボンが飾られ、まさにお姫様という感じで可愛らしい。
髪は左右の耳を出すようにしておろし、耳にはムーンストーンのイヤリング、胸元には同じくムーンストーンのネックレス。これは聖獣姿のノア王太子をイメージして用意してくれたものだ。
手首にはノア王太子とお揃いのクローギンアンドレ――精霊達の鈴がついたバングル。
メイクは目元は水色系のグラデーションでアイシャドウをのせ、チークは優しい桜色。共にパールを重ね、キラキラ感を出す。口紅はローズピンク。
宴が始まると、皆、一斉に私と話したがったが。
まずはと私と話すことになったのはルドルフだ。
それは当然だろう。
直前まで私と一緒にいたわけだから。
「サラ様……っ!」
私の隣の席にやってきたいつもの軍服姿のルドルフは……当然、号泣状態だ。
これにはもう、本当に申し訳なく思う。
もはや私が何をしたかはバレている。
周囲には精霊王やルーナもいたが。あの時、ダークフォレストで何をどうしたのかを話して聞かせた。
つまり、異世界乙女の特権なんてないこと。そう言わないと私が一人で森へ降りることをルドルフは許さないと思い、ついた嘘だったことを明かした。そして嘘をついてダークフォレストへ降り立ったが、ホワイトセレネが素手でないと掴めないことを知らず、もたもたしているうちに背後から瘴気に触れられていたこと。
ホワイトセレネをゲットできたが、その際に穢れに触れ、穢れが移ってしまったこと。それでも帰石のおかげで帰還でき、ホワイトセレネはルーナに託せたことなどだ。
この話を私が話している最中も、ルドルフの涙は止まらない。
それこそ、クーフライト――人間の言葉では、癒しの力を精霊の皆さんに使って欲しいところなのだが……。残念だがこの力は、本来人間に使うものではない。
「サラ様が穢れを受けたと聞いて、俺は大いに後悔した。瘴気に一度だけ触れられても大丈夫と言われ、それならばと思ってしまったが。瘴気に触れられるような状況にあって、一度でだけで済むはずなんてない! 武器も持たない丸腰のサラ様を森において去った俺は、人殺しも同然だった。自分だけ無傷で帰還して、ノア王太子様に申し訳が立たないと、俺は、俺は、俺は……」
あまりにも悲痛な声だった。
近くにいた精霊王が仕方ないという顔でこちらを振り返った。
「本来、この力は人間に対して使うものでありません。しかも精霊王であるわたくしが、自ら人間にこの力を使うのは異例中の異例。でも仕方ないでしょう。彼は……ルドルフ団長はこのままでは脱水症状で倒れるに違いない。ですからこれは不測の事態への対処です」
そう言った精霊王は……。宣言通り、自らクーフライト、癒しの力を行使する。
「ヘルラン ハリジッエトラン ヘルラン サラルナーン」
その効果たるや……ルーナの力の比ではない。
ルドルフの涙はピタッと止まり、あんなに腫れあがった瞼も元通り。真っ赤になった鼻も、やつれ切った表情も嘘のようだ。
私は精霊王に何度も御礼の言葉を述べ、再度ルドルフに向き合う。
ひとまず、クランベリージュースをルドルフに渡す。
精霊王が脱水症状で倒れかねないと言っていたが、確かにそうなりそうなぐらい、涙をこぼしていたので、水分補給だ。
「それでルドルフ、少しは落ち着いたかしら?」
クランベリージュースを飲み干したルドルフに尋ねると。彼は頬を赤くし、「うん」と頷く。
「私がダークフォレストに降りた後、ルドルフは大丈夫だった?」
「いやぁ、結構、大変だったよ。サラ様の大変さに比べたら、大変とは言えないかもしれないが」
「何があったの……?」
空になったルドルフのグラスに、クランベリージュースを注ぎながら尋ねる。ルドルフは恭しくグラスを持ち、話し出す。
「急いでノア王太子様の部屋に戻ろうとしたけど、ダークフォレストを出た瞬間に、イエロードラゴン、ブルードラゴン、レッドドラゴンに囲まれて……。エルス河の川辺で降り立つことになった。そこには鬼の形相の精霊王が……いや、精霊王様が待っていて、何をしていたのかと問われた。なんとか誤魔化そうとしたが、精霊王が恐ろしいことを……いや、精霊王様が実に効果的な手段をとられた」
そこでクランベリージュースを一口飲んだルドルフは。
その時を思い出したのか、「はぁ」と大きく息をはく。
「『何をしていたのか、正直に話さないのであれば、わたくしは今この場で、口元の布を外します。一般的にわたくしの顔と声を同時に聞いた人間の女性は、確定でわたくしに恋に落ちると言われていますが。性別は関係ありません。ルドルフ団長、あなたはわたくしと恋に落ちたいですか? 落ちても一生、その恋は報われることはありません。恋焦がれ、苦しみ、絶望のうちに人生が終わることになりますが』と言い出した。これは……さすがに……。それで申し訳ないが、何をしていたのか白状することになった」
ルドルフは申し訳なさそうな顔をしているが……。
精霊王とルドルフのBL展開!?
一瞬余計な妄想も浮かぶが。
いや、そんなことを言われたら、それはもう仕方ないと思う。白状しなかったら今頃とんでもないことになっていたはず。
というか、精霊王の確定魅了って絶大だ。
「だが話している途中で、精霊王様の顔色が変わり……。『話の続きは後です。ノア王太子様の部屋に、サラ様が突然現れました。その手にはあの伝説の花ホワイトセレネが握りしめられていたのですが、同時に穢れを受けていたそうです。右手と背中に。急ぎ、ノア王太子様の部屋に向かいます』と。俺は精霊王様をクロッカスに乗せ、館へ戻った。すぐさま、ノア王太子様の部屋に行って……」
その時を思い出したのか。
ルドルフが遠い目をしている。
「その後はもう嵐のようだったよ。ノア王太子様とサラ様の穢れの浄化でてんやわんやで。ただ、ノア王太子様が聖獣、ホワイトドラゴンの魂と融合したと分かってからは……。サラ様を救える算段がついて、ようやく落ち着けた。本当に、無事、戻ってもらえてよかったよ」
精霊王のクーフライト――癒しの力が聞いているようで、ルドルフは笑顔で話し終えた。
「沢山迷惑をかけてしまい、ごめんなさい。クロッカスは大丈夫?」
ルドルフと感情を共有しているも同然のクロッカスは、私が嘘をついて彼を悲しませたことに気づいているはずだ。カンカンになって、二度とその背に乗せてくれない可能性もあった。
「クロッカスは……そうだな。俺がノア王太子様の部屋にいる間、精霊騎士により面倒を見てもらっていた。その間、泣いたり、落ち込んだり、それはもう可哀そうな状態だったと聞いている。最終的にはグッタリして寝込んでいたと聞いたけど……。ノア王太子様が……聖獣がクロッカスに力を与えてくれたんだ。聖獣はこの世界のあらゆる生物に力を使うことができる。おかげでクロッカスはすっかり元気になった。サラ様も助かると伝えたら、大喜びだったよ」
……!
クロッカスはなんて感受性が豊かなのだろう。
とてもワイバーンとは思えない。
きっとルドルフと共に成長することで、より人間に近い感情を有することになったのではと思えた。
「クロッカスは私に対して怒っているかしら?」
「それはないと思うよ、サラ様。クロッカスは心からサラ様を大好きだから。それにあの時はああするしかなかったと思う。もし俺がホワイトセレネを摘んでいたら……。とんでもないことになっていたと思う。俺はサラ様とクロッカスの元に戻れなかっただろうし、そうなればサラ様は無茶を承知で俺を助けようとしただろうから。それはきっとクロッカスも分かっているだろう。いろいろ落ち着いたらクロッカスに顔を見せてくれれば、喜ぶと思うぞ」
とりあえずクロッカスは怒っていない。
それを知れただけでも一安心だ。
クロッカスにちゃんと顔を見せると約束したところで、ルーナとルドルフは席を交代した。
昨日に続き来訪いただけた方、ありがとうございます!
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このあともう1話公開します!
20時台に公開します。













































