63:褒められた上に、惚れられた……!
目の前の美しい聖獣に変身したノア王太子に呼びかける。
「ノア王太子様、信じます。あなたが聖獣ホワイトドラゴンの姿に変身できることを」
「理解いただけて良かったです。この姿でもちゃんと言葉は通じます。……聖獣は人間を背に乗せたりしないのですが。サラはわたしの特別です。ですので、この背に乗せ、少し空を楽しみましょうか。聞きましたよ、サラ。あなたはワイバーンの使い手になれるぐらいの腕前なのだとか。そんなサラだったら、鞍がなくても乗ることができるでしょう」
驚きの提案であったが。
確かに私はワイバーンに乗ることが出来て、そして空を飛ぶことに恐怖を感じなかった。ならば聖獣に乗ることも……きっとできるだろう。基本、ポジティブな私は、物事を肯定的に考える。
「……乗せていただいていいですか? 聖獣に、ノア王太子様の背に乗るなど、恐れ多いことですが」
「喜んで。サラはわたしの特別ですから、さあ、どうぞ」
姿勢を低くしてくれた聖獣の背にゆっくりのっかる。
ワイバーンよりうんと大きく、乗るというより、もはや全身で抱きつく形に近い。
「たてがみがあるでしょう? それを手で掴んでください。くるりと両手に巻き付けるようにして」
「分かりました」
美しいたてがみに両手を巻き付けると。
「では飛びますよ」
「はい!」
ふわりと翼をはためかせると……。
優雅に聖獣は空へと向かう。
なんて、乗り心地がいいのだろろうか!
鞍もないので、体に何か邪魔なものが当たる感覚もない。
何より、聖獣の体に全身がピッタリついている状態は……。
癒される。とんでもなく気持ちいい。
全身をホワイトサファイアのような鱗に覆われているのに、硬く感じることはない。人間の皮膚のように温かいわけではないが、かといって冷たいと感じることもなかった。丁度いい感じ。ほどよく、自分との一体感を覚える。
しばし聖獣の背中を満喫していたが。
「サラ、話の続きをしてもいいですか?」
!!
まだ話しの続きがあったのね。
「はい。もちろんです」
同意を示すと、聖獣は嬉しそうに目を閉じ、再び開く。
なんて表情豊かな。
さすがノア王太子。姿を変えても素敵です。
「わたしが先程、『これから永遠に、わたしの妃はサラ、あなた一人です』と言ったことを、サラは覚えていますか?」
「は、はいっ。永遠は少々大袈裟かと思いましたが」
すると聖獣の体が少し小刻みに揺れた。
わ、笑っている! 聖獣が!
「大袈裟ではありませんよ、サラ。聖獣には、ホワイトドラゴンは、その永遠の命の中で、一度愛すると決めた相手を愛し続けるのです。よく鳥や狼に番という存在がいると、聞いたことがありませんか?」
「それは……あります」
そう答えながら、なんだかドキドキしている。
だって、ノア王太子が言わんとすることが分かるから……。
「それならば話は早いですね。サラはわたしにとっての番です。まだ正式にそうはなっていませんが、早晩そうなります。……わたしはサラを番として迎えるつもりですが、いいですよね……?」
首を少し傾け、ムーンストーンの瞳が私の方をチラリと見る。コバルトブルーの瞳も美しいが。聖獣となったノア王太子のこの瞳も、実に綺麗だ。
「それは勿論です! むしろ、私で本当にいいのか、それだけが心配ですが」
するとその瞬間。
聖獣の翼が何度も激しく揺れる。
ど、どうしたの、ノア王太子!?
「サラ、どうしたら分かってくれるのですか? わたしは何度もサラがいいと言っているのですよ! もう、サラが嫌だと言っても、止まらない程、あなたを愛しているのに!」
「そ、そうなのですね」
「そうですよ……」
聖獣がため息をもらす。
ため息をもらすのね、聖獣も。
「サラが正式にわたしの番となった時。サラには二つの変化が現れます。まずは聖獣と共に生きるのですから。その命は永遠となります」
それは……そうなるだろう。
そうならないと、永遠に一緒にいられないものね。
ノア王太子との永遠なら文句はない。
「次に、番となったその時から、歳をとることがなくなります」
「え! そ、それって、今のままの肌艶が一生キープされるということですか!? この若々しい姿と体力と知力が維持されるということですか!?」
ワクワクしながら尋ねると。
ノア王太子は……聖獣はコクリと頷いた。
な、なんて奇跡!
現状維持で永遠な上に、共に生きるのがノア王太子であれば……。
なんの文句があるだろう!
もう嬉しくて雄叫びをあげたいぐらいだ。
「ノア王太子様、番になったら、私にも聖獣のように、穢れを浄化することはできますか?」
「それは無理ですね。サラが瘴気に触れるようなことがあっても……今回はダークフォレストに、単独でふらりと現れた瘴気が、サラに触れたことで、意識が深層に落ちることになりましたが……。今後はわたしの名にかけ、瘴気がサラに触れることを許すつもりはありません。万一触れることがあっても、わたしが必ず浄化します。安心してください」
あ、そうだったのね。
やっぱりホワイトセレネを掴もうとした時、私の背後には瘴気がいたのか。
穢れを手に受け、背後から瘴気に触れられ……。
実はあの時、私、大ピンチな状態だったのか。
帰石があって良かった。
ホント、賢者アークエットのおかげ。
帰石なだけに、奇跡が起きた。
「ノア王太子様に守っていただけるなら……それは安心です。ただ、私にも浄化の力があれば、穢れで苦しむ人を助けられると思ったのですが……」
「サラは……本当に心が優しいです。わたしが瘴気が討伐に向かった後も、自分に何が出来るかと考え、神殿に避難してきた人々の手助けや炊き出しを行ったのですよね。あなたが自然と誰かに優しくできるところに、わたしはとても心惹かれてしまいます」
……!
褒められた上に、惚れられた……!
あの、ノア王太子にぃぃぃぃ……!
嬉しいやら恥ずかしいやら、もうキュンキュンしてしまう。
「この世界に残る瘴気を殲滅し、穢れで苦しむ人々を助けましょう。イエロードラゴン、ブルードラゴン、レッドドラゴンも、ホワイトドラゴンの復活と同時に、穢れを浄化する力を取り戻しました。サラが無理をして頑張らなくても大丈夫ですよ。サラの分まで私達聖獣が頑張りますから、サラはわたしを癒してください」
「承知いたしました! 食べてくださる人がいるなら、喜んで料理も作ります! それにもみほぐしも得意ですし、耳かきもうまいんですよ、私。あとは……」
聖獣が空を飛びながら体を震わせている。
これって、多分、悶絶して笑っているような……?
「サラは本当にわたしの予想外のことを言い出すので、とても楽しい気持ちになります。サラがやりたいことがあれば、それは自由にやっていただいて構いませんよ」
「ノア王太子様……」
そこで聖獣はぐるんと旋回した。
そう言えば、会話に夢中になり、ろくに景色を見ていなかったが。
眼下に広がるのはとんでもなく高い山々だ。
一体どこまで飛んだのか。
間違いなく、ここはソーンナタリア国ではない。
きっと聖獣はとんでもない距離をいとも簡単に飛べるのだろう。
「サラとなら永遠にこうやっておしゃべりを続けられるのですが。精霊王様も賢者アークエットも。それ以外のみんなが、サラの帰還を心待ちにしています。本当は、ロセリアンの森でよかったのですが。サラと二人きりになりたくて、『サヴァリアンの森で、わたしとサラの二人きりではないと、この特殊な穢れは浄化できないと』と嘘をついてしまいましたからね。みんな心配していると思うので、戻りましょう」
「はい!」
私の返事を合図に、ノア王太子は力強く翼を揺らし、ロセリアンの森へと向かった。
本日公開分を最後までお読みいただき
ありがとうございます!
次回は明日、以下を公開です。
7時台「俺は、俺は、俺は……」
20時台「ルーナとレブロン隊長」
22時台「精霊王」
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では皆様にまた明日会えることを心から願っています!