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外れスキル「影が薄い」を持つギルド職員が、実は伝説の暗殺者  作者: ケンノジ


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意識高い冒険者と初心


 俺が冒険者にした元奴隷の四人の少女たち――ここらへんでは美少女戦隊と呼ばれている彼女たちは、自分たちがどんなクエストをしたいか、ではなく、俺がどのクエストを消化してほしいか、を逆に訊いてきた。


「全員が冒険ランクはEになったから、Eランククエストが受けれるんだぞ?」


 カウンターのむこうにいる人間の少女、イールに俺は言う。

 彼女がリーダーだ。


「いえ。いいんです。ロラン様が、困っているのなら、全力でそれに取り組みますから」


 イールの肩越しに、獣人のリャンが顔を出す。


「ロラン様、ボクたち、今日は何したらいいの?」

「畑の見張りでも……いい」


 手前から、ドワーフのサンズがカウンターに顔を出した。


 畑の見張りは、魔物でも魔獣でもなく、畑荒らしにきた動物を追い払うだけの仕事だ。

 一日見張り続けて、何も起きないこともすくなくない。

 暇だが、暇すぎて意外とこれがキツい……らしい。

 それに、依頼主が農家なので報酬も安い。


 だからか、彼女らの定宿はかなり安いところだし、身なりもあまり上等とは言えなかった。


「スゥ、いいんだぞ、不満があるなら」


 三人より一歩離れているエルフのスゥに俺は言う。


「ううん。そんなことないわ」

「……そうか」


 四枚の冒険証を預かり、クエストを探す。


「ロラン様って言ってるよな?」

「聞いた、聞いた。あの子たち、あの職員さんの何?」

「エッチな奴隷だったりして。むふふ」

「ちょっと、アルガン職員がそんなことするわけないわ。変なことを言うのやめて」

「そうよ。ゲス冒険者。これだから嫌なのよ」


 やいのやいの、と男女の冒険者の大きな話声が聞こえてくる。


 様をつけられると、そんなふうに見えるのか。


「これを頼みたい」


 俺はクエスト票をカウンターにのせる。

 四人が同時に覗き込んだ。


「解毒草の採取」と、イール。


「場所、森の中なの!」と、リャンは嬉しそうだ。


「ひとつ、一〇〇リンで買い取り……高い」と、無表情なサンズがこぼす。


「質がよければ、その限りにあらず……あたし、いい場所知ってる!」と、スゥも嬉しそうだった。


 異論がないようなので、手続きに入った。


 依頼主は薬屋で、解毒剤は常時必要な薬だから、その依頼主が持て余せば、別の薬屋に持っていくことができた。


「加工して解毒剤になるものだ。ただ、その解毒剤にも効果期限があって新しいものが必要なんだ。量が必要となる。よろしく頼む」


 四人は顔を見合わせて、頭を下げる。


「「「「よろしくお願いします」」」」


 四人は喜び勇んでギルドを出ていった。


「今日は、畑の見張りや側溝のドブ掃除じゃないんですね」


 カウンターから席に戻った俺に、ミリアはにこりと笑う。


「……ええ。似たようなクエストばかりでは飽きるでしょうし」


「消化しないといけないクエストでもあったと思うんですけどねー?」


 俺の意図がわかったらしいミリアが、意地悪を言ってくる。


「彼女たちにぴったりのクエストだと僕が判断しました」


 そうですね、とミリアはまた笑った。


「「兄貴! おはよざっす!!」」


 やってきたニール冒険者とロジャー冒険者が、カウンターのむこうでビシッとお辞儀した。


「何か、イイ感じのクエスト、今日もおなしゃすッ!」


 ニール冒険者が言うと、席に着く俺を待って、椅子に座る。


「ありますよ、二人にちょうどぴったりのが」

「な、なんスか。自分、またBランクの魔獣でも魔物でも、戦うッスよ!」


 ロジャー冒険者が目を輝かせた。

 あれから、先輩後輩のバディは、上手くクエストをこなすようになり、色んなクエストを斡旋できる中級冒険者として俺も重宝していた。


「これです」


 クエスト票を見せると、二人とも怪訝そうに首をかしげた。


「え、こ、これッスか……?」

「兄貴ィ、こういうのは、もうちょっとビギナーのやつに振ってくんねぇと……」


 俺はわざとらしくクイ、と眼鏡を押し上げる。


「…………Fランクのドブ掃除は、お気に召しませんか?」


 ダラダラダラ、とニール冒険者が脂汗を流しはじめた。


「き、気に入るとか入らないとかじゃなくって……。なあ……?」


「い……いえ、自分はやらせてもらいます……! 先輩は、存分に兄貴に逆らってください」


「ちょ、おまえだけズリィぞ」


 まあまあ、と俺は二人に説明をする。


「たしかに、今やCランクになったロジャー冒険者と、Bランクのニール冒険者に、Fランクのクエストは、適材適所とは言えません」

「「じゃあ、なんで……?」」


 俺は人差し指を立てた。


「初心忘れるべからず」


 スビシャーン! と二人は衝撃を受けた。


「初心」

「忘れる、べからず、ッスか」


 はい、と俺は言って続ける。


「強い魔物と戦い退治する、危険な場所に踏み入り貴重な資源を確保してくる。どれも重要な仕事です。ですが、本質を忘れてはいけません」


「「本質……?」」


「クエストとは依頼主の悩み事です。……悩み事に大小あれど、優劣も貴賤もありません」


「「か、かっけぇ……」」


 ジイン、とニール冒険者が胸に手を当てて目をつむる。


「掃除して、ありがとうって言われたときのことを、思い出した……あの嬉しい気持ち、オレ忘れてた……」


「自分もッス……雨降ったときのドブを見て、自分が掃除やんなかったら、雨で道が水浸しになったかもって思ったときの、不思議なやりがい……!」


 俺はうなずいた。


「中級クエストを斡旋されて当然……そんなふうに思っているお二人には、初心に立ち返っていただこうと思いまして。側溝の水が上手く流れなければ、雨が降ったとき町は水浸しです」


「新人のころ、やりまくった懐かしいドブ掃除……オレ、やらせていただきます!」

「自分もッス」


 よろしくお願いします、と俺は二人を送り出した。


「ロランさん、本っっっ当に、上手いこと言いますねぇ。上手く丸め込むというか」


 隣のカウンターで受付業務をしていたミリアがぼそっと言った。


「何の話ですか」


 と、俺はとぼけておく。


「BランクやCランクの人に同じことをしたら、文句タラタラで受けてくれませんもん」


「冒険者さんのやる気をいかに引き出すか……それも仕事ですから。やる気になれば、簡単に受けてくれますよ」


「むうう……それが難しいんですよぅ。優先クエスト……低ランクのお嬢さんたちに振らずに中ランクの二人にやらせるなんて……すごいです」


 優先クエストというのは、朝礼でアイリス支部長に指定されるクエストのことだ。

 優先的に消化するように、とお達しがある。


 夕方頃になると、美少女戦隊の四人が戻ってきた。

 まん丸にした麻袋をそれぞれ手にしている。


「ロラン様、たくさん採れましたよ!」


 さっそく職員に検分してもらい、しばらくしてオッケーが出た。


 全員で一二万リンの報酬だった。


「こんなにいただけるなんて……!」

「ボク、美味しいもの、食べたいの……」

「服と、装備……整えないと」

「食事は、ロラン様もどうかしら?」


 スゥの提案に、満場一致で賛成だった。


「まず、服ですね。冒険用のものと、おめかし用の可愛いのを買わないと……」

「ロラン様、ボクたちと一緒にご飯食べてほしいの……!」

「……(こくこく)」


 俺は思わず苦笑した。


「いい店だとせっかくの報酬もすぐなくなるぞ」


 ガーン、と三人がショックを受けた。


「そ、そうでした。……ともかく、あとでお迎えに上がります! 待っててくださいね!」


 イールが言うと、リャンもサンズも楽しそうにしゃべりながらギルドをあとにした。


「スゥ、おまえは行かないのか」

「ロラン様……ありがとう」


「何の話だ」

「今日のクエスト。いつも以上に割のいいクエストを回してくれたでしょ?」


「Eランクだから、おまえたちに斡旋しても不思議ではないぞ」

「そうだけど……ううん。こういうのは野暮よね。……ありがとう」


 最後にもう一度お礼を言ったスゥは、小さく頭を下げて三人を追った。

 閉館が近づき片づけをしていると、ニコニコと笑顔をぶら下げたミリアがやってきた。


「バレてましたね」


 と、ミリアが言って続ける。


「いつも彼女たちは、ロラン様ロラン様って言って、キツくて割安なクエストしか受けようとしない。実際、それでロランさんは大助かり。けどそのせいで、彼女たちは自由にできるお金がすくない。……お小遣いをあげるわけにもいかないし、きっと彼女たちはそれを受け取ろうとしない――だから、割のいいクエストを斡旋した――違いますか?」


「さあ。どうでしょう」

「ロランさんが言わないから、野暮だと思ってもつい口にしちゃうんですよね~」


 ふふん、とミリアはしたり顔をする。


 閉じた扉のむこうが騒がしくなった。

 美少女戦隊が準備を整えてきたらしい。


 終礼が終わると、ミリアに「行ってらっしゃい」と言われ、俺は裏口から出て正面に回った。


「ボク、ロラン様の隣、座りたいの」

「じゃあ、あたしは右隣ね」

「ロラン様の、膝の上……がいい」

「待ってください。席はリーダーのわたしが決めます。ひとまず、隣でお酌をさせてもらうのは、わたしの役目で……」

「ズルなの、それ、ズルなの!」

「イール、それは職権乱用っていうのよ」

「……(こくこく)」


 かしましい言い合いがはじまり、白熱のジャンケン大会がはじまった。


「何でもいいから、早く行くぞ」


 四人に囲まれながら俺は酒場への道を歩く。

 日頃の頑張りを認めて、今日の食事は奢らせてもらうとしよう。

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[一言]この美少女戦隊の、スピンアウト作品を読んでみたい。
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