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外れスキル「影が薄い」を持つギルド職員が、実は伝説の暗殺者  作者: ケンノジ


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即戦力ルーキーと出会う1

今回から中編に入ります。



 ギルドがざわつくと、女性職員が受付票を持って来てくれた。

 あとすこしで閉館しようかという時間だった。


「アルガンさん、これ、冒険者志望の人の。あちらにいらっしゃいます」

「はい。ありがとうございます」


 冒険者志望の受付票に目を通し、漏れがないかをチェックし、その志望者のほうを見る。


 外套を着こみ、フードを被っていた。

 見るからに怪しいが、体格が女のそれだ。


 フードからこぼれているのは、艶のある黒髪。

 どうやら、彼女がざわつきの原因らしい。


「キャンディ・マインアートさん」

「あ、はぁーい」


 間延びする口調で、フードの女は返事をした。

 深い朱色の瞳をしている。


 ライラの目は鮮やかな赤だが、こちらは血を連想させる色だった。


 俺は受付にいき、確認事項をあれこれ訊いていく。


「問題ないわぁ」

「…………」


 ピリリとする気配だ。

 この女、もしかすると……。


「どうして冒険者になろうと?」

「決まってるでしょぉ。お金がないからよぅ」

「……そうですか」


 魔力測定用の水晶をカウンターにのせる。


「魔力測定を行います。手をかざしてください」

「はぁい」


 キャンディが手をかざすと、水色の水晶が閃光のように鋭く光った。


「あらぁ? これでよかったのかしら?」

「ええ、結構です」


 ざわざわ、とギルドが騒がしくなった。


「今の、何だよ……!」

「魔力測定であんな光り方をするなんて――」

「化け物かよ……!?」


 冒険者たちが唖然としているが、うちの同僚たちはなぜかドヤ顔だった。


「あれくらいで驚きやがって。まだまだだっての」

「フン、ロラン君はもっとすごかったんだから」

「それを見せられると、あれくらいじゃこっちはもう驚けないっていうか、ねえ?」


 よくわからないマウントの取り方だった。


 数値を見ると、一万を超している。

 基準値は一〇〇〇、それが適正とされるC評価だ。


 一万だと判定は、S評価。

 超大型ルーキーとでもいおうか。


 ちらりと見ると、艶やかな笑顔をむけられた。


「……」


 そうだろうな、と知っていれば、どうということはなかった。

 だが、そうでないと、後ろの男性職員のようになっていただろう。


「おふ……っ」

「や、やばい……今、席立てない」

「はい、今の笑顔記憶しました。夜に思い出して楽しみます」

「ロラン君、あんな超絶美人が目の前で微笑んでるのにビクともしねえな」


 男性職員だけじゃなく、目をずっと奪われていた冒険者たちも例外なく前かがみだった。


 外套を着こみ、体型を隠している。

 フードを被り、顔の見える角度を限定している。

 それでもこの威力だった。


 女性職員たちに男性職員たちは白い目で見られていたが、ひそひそと会話をはじめた。


「アルガンさん、まっすぐ見つめられても微動だにしてなかったよね」

「もうあれくらいの女じゃビクともしないんだよ」


「てことは、一周回って、顔やスタイルは全然気にしないとか――?」

「聖人君子じゃん……! 性格美人求むってことでしょ、それ……!」


「「「「となれば、ワンチャン、ある……な……?」」」」


 ぞくりと変な悪寒がした。


「お仕事してくださぁーーーーい!」


 ミリアがひそひそ話をする女性職員たちに注意をしていた。


「キャンディさん、合格です」

「あらあら、まあまあ。そうなのぉ? やったぁ」

「ですが、一応実技も受けてもらいます」


 本当にそうなのかどうか、確認したい。


「はあい」


 俺はキャンディを先導するように、町外れまでやってきた。

 気になった冒険者たちは、きっちりあとをつけてきた。


 これが終われば、食事にでも誘って先輩風を吹かすんだろう。


「キャンディさん、何でもありです。自由に攻撃してください」

「いいのかしらぁ?」

「遠慮なくどうぞ。試験ですので」


 うなずいたキャンディは、外套のボタンをはずしてフードごと脱ぎ捨てた。

 思った通り、ライラに負けず劣らずの美貌だ。


「「「「うぉぉぉぉぉぉぉ……!」」」」


 観戦に来ていた冒険者たちは、その美貌に大興奮していた。


「それじゃあ、いくわよぉ~」


 手の平を地面にむけると、足下に血色の魔法陣が浮き上がった。


 そこから、ゾルゾルゾル、と不快な音を響かせ長槍が出てくる。


「もうやめておいたほうがいいかしらぁ?」

「ビビってませんから、どうぞ、かかってきてください」


 さすがにこの態度にはカチンときたようで、一瞬眉をひそめた。


 無言になった彼女は、長槍を構えて、一度型を見せる。


 穂先が薄闇の中、弧を描く。

 ぬらりと光った穂先が月明りを反射した。


 ふうん。なかなか洗練されている。

 型が美しい。

 演武に近いが、所作のひとつひとつを見れば、実戦でも相当な実力があるとわかる。


「死んでも、知らないわよぉ?」

「相手の力量も見抜けない人には、倒せないと思いますよ」

「……ッ」


 またカチンときたようだ。

 思った通り、口調や態度ではわかりにくいが、プライドが高い。


 となると、このキャンディという女、十中八九そうだろう。

 プライドが高いのは、この種族の特徴といえる。


「ッシ」


 彼女が繰り出したのは、シンプルな刺突。

 だが、槍における刺突とは、基本にして奥義。


 その刺突のレベルで、使い手の実力がわかる。


 暗がりの中、穂先が宙を走る。

 蛇のようにこちらへ伸びてくる。


「全身の体重が乗った、いい刺突ですね。鋭い」

「え――あれ……? ――後ろ――ッ!?」


 慌てて長槍の柄で、背後に立った俺へ攻撃をしてくる。

 俺はそれを蹴り上げた。


「焦れば動きは単調になります。怒っても同じくそうです」

「に、ニンゲンの冒険者試験官って……こ、こんなに強いのぉ……?」


 一度のやりとりで俺の力量をある程度把握したか。

 やはり、相当な手練れだな。


「あまり使いたくないのだけれどぉ、こうなったらぁ――」


 目を合わせた瞬間、血色の瞳が強く輝く。


「『ディスペル』」

「え――――!? ええええええええええ!?」


 だいたい何をしようとしたのか、想像がつく。

 バリン、とかかりかけた状態異常を解除した。


 へにょん、とキャンディが座り込み、ぱっと槍を消した。


「わたくしの負けでいいわぁ。敵う気がしないものぉ……。こっちは身バレのリスク顧みずに奥の手を使ったのにぃ……『ディスペル』持ちだなんて……もお、やだぁぁ……」


 はあ、とため息をつく彼女に近づき、俺はこそっと耳打ちをする。


「――――」

「…………ど、どうしてわかったのぉ?」

「内緒です。ともかく合格は合格です。今後は冒険者として扱いますから、ご心配なく。さあ、ギルドに戻りましょう」


 俺は手を貸してキャンディを立たせた。


「わたくしより強い上に紳士……」


 ギルドへと戻る途中、試験が終わったのを見ていた冒険者たちが、キャンディをあれこれ誘いはじめた。


「今夜どう!? いくらでも奢るから!」

「お、お、おれと組まない!? 色々教えてあげられるよ!」

「いい店知ってるんだ! このあと行こうよ!」

「小生、貯金が三〇〇万あります。すべてさしあげます。結婚してください。好きです。愛しています」


 フランクな誘いから、重い告白まで様々だった。

 キャンディは、男たちにむかって両手を合わせ、申し訳なさそうに首をすこし傾けた。


「ごめんさいねぇ。今夜は、ロラン様とご一緒させてもらうことになったのぉ」


 その一言で、冒険者たちは灰のようになり、風にさらわれていった。


 俺がキャンディに確認したのは、名前のことだ。

 思った通り、受付票にあったキャンディ・マインアートは偽名だった。


 本名は、キャンディス・マインラッド。

 一夜で一個大隊を壊滅させた経験を持つ、魔王軍に所属していた吸血鬼だ。

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