迷い込んだ白猫2
ギルドが開館しても、冒険者の数は非常に少なく、手が空く時間のほうが多かった。
そのせいか、やってきた冒険者も白猫にメロメロといった状態で、職員たちと一緒に戯れていた。
「にゃう」
扉の隙間を縫って黒猫のライラがやってきた。
「?」
いつもは大歓迎されるはずが、今日ばかりは誰もライラのことに気づかない。
不審そうにこちらに目線をくれるので、俺は新しいアイドルのほうに顎をしゃくる。
そこには、職員とボール遊びをしたり、冒険者に抱っこされたりしてご機嫌な白猫がいた。
「な、に……!?」
思わずぼそっと声をこぼすライラ。
「良かったな。今日は不必要に構われないぞ」
「う、うむ」
釈然としない様子でテクテクと俺の足元にやってきて丸くなる。
「きゃあ」とか「わあ」とか黄色い歓声が上がる。いずれも白猫と遊んでいる人からの声だった。
「あやつは何者だ」
「さあ。ミリアがここで飼うと言い出した白猫だ。見ての通り、人慣れしていて、何をされてもご機嫌だ」
「フン。猫の風上にも置けぬやつよ」
つまらなそうにボヤくライラは、じいっと白猫を中心とした人の輪を見つめていた。
すると、立ち上がったライラが白猫と遊んでいる人たちの近くまで寄っていく。
それにまだ誰も気づかない。
「にゃー」
ごろん、と床を転がってみせるが、誰も見向きもしない。
「……ッ」
イラッてしたのがわかった。
妾がこのような姿をしておるというのに、見向きもせぬとは不敬な、とでも言いたそうだった。
場所を変えて顔を洗ってみせるライラ。
ソファの背に立って鳴いて存在をアピールするライラ。
そしてまた床をごろんとするライラ。
……いずれも完全に無視されていた。
構われるのは嫌いだが、無視されるのはもっと嫌いらしい。
「お、おのれ……!」
屈辱にライラがぷるぷる震えている。
「日頃の行いだな」
俺はボソっとつぶやく。
職員にじゃれることは一切なく、頭を撫でようとした手をいやがり逃げてきたせいもあるだろう。
手元の書類仕事をしていると、白猫がやってきて俺の膝に乗った。
「なーう」
「……」
しばらくこの姿勢のままだ。
邪魔にならないからいいだろう。
心地よさそうに白猫は丸くなった。
愛らしいのは確かである。
「ッッッ」
殺気を感じて目をやると、ライラが怒っていた。
ドスドス、と足音を立てて俺のそばまでやってくる。
「早く下ろさぬか、その野良を」
「仕事に支障があればそうするが、今のところは問題ない」
「大ありだ、アホタレ」
アホタレ……?
「そこは、妾の特等席である」
「いつもいるわけではないだろ。少しくらい――」
「ならぬ!」
「寝てしまったらしい」
「だから下ろすのは可哀想だと? わ、わ――妾のほうが何倍も可哀想であるっっっっっ」
渾身の、体重が乗った一言だった。




