迷い込んだ白猫3
ギルドのアイドルの座を奪われ俺の膝も白猫に奪われたライラが、さすがに気の毒に感じてきたので、ミリアを呼んで白猫を手渡した。
「ぐっすり寝ててきゃわいいですぅ」
メロメロといった様子のミリア。
これは、慣れるまで仕事にならないだろうな。
「なーにがきゃわいい、だ」
フンス、と鼻を鳴らすライラが、さっそく俺の膝に上がり、丸くなった。
「あれ、今妾さんの声が……?」
「空耳でしょう」
「ですよね」
首をかしげたミリアだったが、気にせず白猫を連れていった。
「満足か、これで」
「……」
耳をぴくぴくと動かすライラは答えない。
仕事の手を休めることなく、俺はぽつりと言った。
「白猫に嫉妬とは、魔王様もずいぶん狭量らしい」
「なんとでも言うがよい」
「あの白猫に完全敗北だな」
「妾は別に、職員のことなどどうでもよい」
そんなふうにはまったく見えなかったが。
「妾はただ……」
言葉を切ってライラは立ち上がる。
「連れて帰ってくるなどと言わぬであろうな?」
「ここで飼いながら飼い主を探すという話だ。わざわざ俺が預かる理由はない」
「ならよい」
そのまま膝を下りてどこかに行ってしまった。
自分が居座りたいわけではなく、誰かがそこにいるのが気に食わなかっただけらしい。
少ない仕事をさっさと終わらせ、閉館の時間になると俺はギルドをあとにした。
「もう終わりか?」
人の姿をしたライラが珍しく迎えにきていた。
「暇だったからな」
「なーう」
声に振り返ると、窓際にいる白猫が俺を呼ぶかのように鳴いていた。
ずかずか、とライラは白猫に歩み寄りガラス越しに人差し指を突きつける。
「獣の分際で妾のモノに手を出そうとは、いい度胸をしておる。そなたなぞ、指先一つで消し飛ぶのだぞ」
「なーう……」
「懲りたのであれば、もう色目なぞ使わぬことだ」
「なう……」
「家があるのであれば、さっさと帰るのだ。そなたの家はここではないのだから」
「なーう」
まったく、とため息をつくライラが戻ってきた。
「俺は色目を使われていたのか?」
「あやつの目を見ればわかる」
窓際にもう白猫はいなかった。
「どこを気に入ったのか。メスであればなんでも寄ってくるのは困りものである。家はわかるらしいから、帰るそうだ」
「それならよかった。帰り際、俺について来ようとしていたからな」
「やはり……油断ならぬ……」
「怖い『猫』がいるとわかったからもう俺にかかわろうとはしないだろう。人間の女は寄ってきてもさほど気を立てないのに、猫はダメなんだな」
「うむ」
人間は魔族とは別種。けど、猫だと猫同士、という立ち位置になるのかもしれない。
「どうやら俺はおまえのモノらしい。帰ったら何をしてくれるのやら」
「っ……、それは言葉のあやで……」
言葉を濁すライラの頬がうっすらと染まる。
頭を撫でると、ライラが腕を絡めてきた。
「妾たちの家に帰ろうぞ」
この様子だと、我が家でペットを飼うことは永遠になさそうだ。
ここまで読んでくださってありがとうございました。
久しぶりに書きましたが楽しかったです。
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まだ5万字と短く、キリのいいところで締めているので読みやすいかと思います。
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