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外れスキル「影が薄い」を持つギルド職員が、実は伝説の暗殺者  作者: ケンノジ


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ルーベンス神王国からの密使1

今回から少し長めの中編に入ります。


 出勤前に朝食を食べているときのことだった。


「貴様殿よ」

「何だ」

「妾の背中かきを知らぬか」

「知らん」


 ううむ、そうか、とライラは首をかしげ、リビングへと戻っていった。

 ライラはまだ首輪をつけていない。


 俺の進言に耳を貸してくれたのか、それともただの気まぐれかはわからない。

 壊れないし外せないとなると、自分でつけるのには勇気がいるのかもしれない。


「ここに置いておいたはずだったのだが」


 また戻ってきたライラが、テーブルを指差す。


「『孫の手』に足でも生えたか」

「ありそうであるな……」

「冗談だ。あるわけないだろ」

「いや、しかし、そなたの右腕であるぞ?」


「俺の腕だとしても、足が生えるわけがないだろ」


 俺の右手を色々と弄んだライラは、その遊びに飽きたらしく、孫の手として利用していた。

 いつか治すつもりでいるようだったが、ワワークにも言った通り、ギルド職員の仕事には何の支障もないので、治らなくてもよかった。


「なくても問題ないだろ。おまえが魔法をかけていなければ、今ごろ腐って白骨化している代物だ」


 だがなぁ、とライラはいまいち諦めきれないようだった。


 行ってくるとひと言告げると、いつも玄関先までやってくるライラだったが、今日はそれどころではないらしい。

 よっぽどあの孫の手が気に入っていたようだ。





 冒険者ギルドに出勤し、いつものように業務を開始する。

 雑多な業務をこなしていると、入口のほうから名前を呼ぶ声がした。


「ロラン様ー!」


 そちらを見ると、獣人のリャンがぴょんぴょんと跳ねながら手を振っていた。

 後ろには、残り三人の美少女戦隊がいた。


「帰ったか」


 バーデンハーク公国でメイリの護衛を頼んでいた。俺がこちらへ戻る際に、その任を解いたが、メイリも美少女戦隊の四人も離れがたくなってしまったようで、しばらく護衛として王城暮らしをしていた。


 四人が中に入ってくると、その容姿のためか、室内が華やいだような雰囲気になる。


「リャンは、すぐ大きな声を出すんだから」とエルフのスゥが呆れたようにため息をついた。

「ボク、ロラン様に久しぶりに会えて嬉しいの」


 落ち着きなさそうに手や尻尾、耳を動かすリャン。


「…………相変わらず、クールなロラン様、カッコいい」


 リャンの隣にいるドワーフのサンズがぼそっと言った。


「お元気そうで何よりです」


 唯一の人族であるイールがにこりと笑った。


「お互いにな」


 再会の握手をしようと手を出すと、四人が一斉に手を出した。


「ちょっと、わたしが今ロラン様としゃべってたんですから――」

「ロラン様はボクを見ていたの」

「…………少なくとも、リャンではない」

「サンズ、あんたでもないわよ」


 イール、リャン、サンズ、スゥの四人が小競り合いをはじめたので、俺は順番に握手をしていった。


「お疲れ様。よく頑張ったな」


 と、ひと言ずつぞれぞれ平等に声をかけていった。こうしないと、あとでマウントを取り合ってまた揉めるらしい。


 四人を席に座らせ――誰が前列に座るのかでまたひと揉めして――簡単に近況報告をしあった。


「それで。今日はクエストか?」

「いえ。そうではないんです」


 イールがゆるく首を振ると、サンズに目配せをした。


「…………ロラン様……腕、痛くない?」


 淡々とした抑揚のない無感情な声音は相変わらずだ。


「いや、まったく」

「…………ううん。右腕のほう」


 それは確かにあった。

 幻肢痛と言うそうだが、我慢できないほどの痛みではなかった。


「サンズが、ロラン様がきっと痛がってるって言って聞かないのよ」


 スゥが補足してくれた。


「痛みはあるが、常に苛まれているわけではない。心配するな」

「…………ならいい」


 サンズの頭を撫でると、他三人の空気がピリついた。


「大丈夫ですよ、ロラン様は。腕だって生やせるんですから」

「おい、イール。さすがにそれは俺でも無理だぞ」

「え? そうなんですか?」


 驚いたような顔をするイールに、俺は面食らった。


「さすがにそんな回復能力はない」


 バーデンハーク公国での日々は、すべて大規模クエストとして換算されるため、彼女たちにも報酬を支払うことにした。


 どっさりと札束が入れられた革袋をイールに手渡す。


「え。えぇぇぇぇっ。た、大金ですぅぅぅ」


 どれどれ、と三人が覗き、似たような反応を見せた。


「ボク、このお金でロラン様の腕を買ってくるの」

「おい、俺の腕を装備品みたいに言うな」

「…………リャン、これで何か月かはお仕事しないでいいね」

「冒険しなくていいのは、それはそれで困るの。ロラン様に会えなくなるの」

「…………それは……困る……かも……」


 小柄な二人が話している頭上では、イールとスゥが目で何かの会話をしていた。


「どうかしたか」

「あ……。実は――」


 イールが話そうとしたところを、スゥが遮った。


「いいの、ロラン様。気にしないで。きっと何かの間違いだから」


 それ以上は語らず、スゥは口をつぐんだ。


 クエストを受けに来たと思しき冒険者が後ろにやってきたので、四人を帰らせることにした。


 イールとスゥの様子は気になるが、さほど重要なことではないのだろう。


 この日、美少女戦隊の帰還以外に特筆すべきことはなく、つつがなく一日が終わった。






 夜家に帰ると、自宅前に体格いいの駿馬が一頭繋いであった。


「誰の馬だ」


 鼻面を優しくなでると、小さくいなないた。

 ロジェか誰かが乗って来たのだろう。


 そう思って家に入ると、奥から話し声がした。


「どのような理由で参ったのかは知らぬが、そなたはいいやつであるな」

「貴女が探せというから手伝っているのだ」


 ライラとやりとりをしているこの声は……。


 普段空き部屋になっている部屋の扉を開ける。


「帰ったぞ」

「おお、よくぞ戻った」


 ぱっと顔を上げたライラと――。


「あ――ロラン。遅かったではないか」


 手を腰にやって不満げに言うエルヴィがいた。


「何しに来たんだ?」

「何をしに、とはずいぶんご挨拶だな」


 この家のことはアルメリアに教えてもらったらしい。


 おほん、と仕切り直すように、エルヴィは咳払いをした。


「過日のアルメリアと我が国での見合いの席では、大変失礼を致した。ロランのおかげで、陛下は道を踏み外すこともなく――」

「固い……。固いのう、礼が……」


 うんざりするように、ライラが首を振る。


「まさか俺の腕探しをするためにこの家に来たのか?」

「人手が足りず困っておったところに、このエルヴィ騎士が現れたのだ。こんなときにあのアホエルフはおらぬし……ちょうどよかったのだ」


 ライラはそう言うが、エルヴィはきっぱりと否定した。


「そんなわけないだろう。ただ、おまえの同居人であるライリーラ殿が困っているというから、私は……」

「生真面目な性分は知っているが、もう少し楽にしてくれ。見ているこちらの息が詰まる」

「変えられていたら苦労はしていない」


 相変わらずだな。


 エルヴィを交えて夕食をとることにした。

 有害薬物の件についても、情報を提供してくれたエルヴィに、礼を言っておいた。


「出所はおそらくフェリンド王国のどこかの港だろう、というのは想像がついたが、壊滅させるとは思いもよらなかった。おかげで、流通を阻止できた」


 その件は、ライラもいることだし掘り下げないでおこう。

 あまりいい思いではないだろうから。


「それで? 俺の顔を見に来たなんて言わないだろう?」

「もちろんだ」


 言い切ってから、言葉を選ぶようにエルヴィは話した。


「もう一線を退いてギルド職員になったというのは、以前会ったときに聞いた。アルメリアからその腕のことも」

「気を遣わないでいい。単刀直入に言ってくれ」


「ルーベンス王が崩御なされた」


 空気が少しだけ張り詰めた。

 主にそれはライラだった。

 わざわざここまでそのことを伝えにくる意味を、半分くらいは察したのだろう。


「こちらの国に情報はまだ流れていないだろうが」

「俺にそれを伝えるということは、病死や事故ではないということか」


 不慮の事故や持病が災いしているのであれば、俺に教える必要はない。


「……表向きは病死ということになる」


 表向きは、か。


「おい。小娘。不用意な発言に気をつけることだな。内容によっては、ただでは済まさぬぞ」


 ライラの視線が殺気を帯びている。


「ライラ」


 名前を呼んで、目で制する。言わんとしていることがわかったのか、つまらなさそうにライラは鼻息を吐いた。


「エルヴィ、構わないで言ってくれ。ルーベンス神王国の侯爵家の令嬢が、単独で馬を飛ばしてわざわざここまで来るくらいの異常事態なんだろう」

「ロラン、おまえは相変わらず頭がいい。話が早くて助かる。……王はおそらく暗殺された。権力のままに剛腕を振るわれた方だ。方々に敵を作っていたのも想像に難くない。ただ……警備を担当していたのは私だ」


「だからどうした。穴があったのであろう」


 と、ライラは言うが、エルヴィの守備の基礎を叩き込んだのは俺だ。

 単独で守る場合、数人で守る場合、十数人で守る場合。どれも、仕掛ける側がやりにくかったり、嫌だと感じるものを教えていた。


「誰にも見つからず、事をやりおおせる者を、私はあまり多く知らない。だから、意見を聞かせてほしい」


 ほっとライラが詰めていた息を吐いた。


「そのようなことか。命拾いしたな。こやつを疑っていたら今ごろそなたは塵ぞ」

「疑わなかったわけではないが、ロランは無駄な殺しはしない」

「ああ。その通りだ」


 エルヴィは俺の目を真っ直ぐ見て頭を下げた。


「ロラン。力を貸してほしい」


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