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外れスキル「影が薄い」を持つギルド職員が、実は伝説の暗殺者  作者: ケンノジ


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新人冒険者と束の間の日常4


 風呂から上がり、メイリを護衛たちと一緒に部屋まで送り届けた。


 帰ろうとした俺の袖をメイリが引っ張った。


「眠たくなるまで、一緒にいて」

「いつの間にか甘えん坊さんになったな」

「今日はいいのっ」


 母親のレイテは多忙だし、護衛のみんながいるとはいえ、寂しかったのかもしれない。


 黒猫の姿に戻したライラは、しばらく俺がメイリといるから安心だろうと思ったのか、ロジェとどこかへ行ってしまった。


 キングサイズのベッドにメイリが入ると、隣に来るように、ベッドを叩く。

 お姫様の言うことに従い、隣にお邪魔する。


 俺の腕を枕代わりにして、メイリが目をつむった。


「ロランは、いつまで戦うの?」

「いつまでだろうな」


 考えたことはなかったが、永遠に戦っているのかもしれない。


「足がきちんと洗えるまで、と言ったところか」

「足? さっき洗ったよ?」

「そういう意味では……。たぶん、まだ戦っているのは、洗い足りないからだと思う」


 ふうん、と言うメイリの声はすでに眠そうだった。


「私が、一五歳になるまでは……洗い終わってる?」

「だといいな」


 くるん、とこっちを向いたメイリが、頬にキスをしてきた。


「おやすみの、チュー。ライラちゃんもしてるって言ってたから」

「あいつ……余計なことを教えて」


 メイリがキスをしやすいように、頬をこっちに向ける。


「わかった、わかった」


 そっとキスをしてやると、


「どうしよう……目、覚めちゃった……」


 すぽん、と毛布の中に頭を入れて足をじたばたさせた。


 メイリがようやく落ち着いて、他愛もない話をしてしばらくすると、ようやく眠った。

 起こさないようにそっとベッドを抜け出して、部屋を出ていく。

 外にいた美少女戦隊の四人に、あとを任せることにした。


 自分の部屋へと戻ると、中にはディーがいた。


「どうした」

「ロラン様に見てほしい物があって。これ……」


 折りたたまれた紙をディーから受け取った。


「これは?」

「ベイル君からの手紙。あの子、わたくしたちと『何か』あったときの保険に、取引材料を用意してたみたいで、ちょっとした物を隠していたの」


 俺はベイルからの手紙に目を通す。

 宿屋のベッドとマットレスの間に、とある手紙を隠していたという。無事に故郷に帰った今では不要なものだから、自由に使ってくれと書いてあった。


「それがこれよ。今日、以前二人で使っていた部屋に行って取ってきたの」


 一通の封筒を渡された。


「手紙か……?」


 封筒を見る限り、宛名も差出人は不明。


「手癖が悪い子よねぇ。商会のマスターの執務室からこっそり盗ってきちゃうなんてぇ」


 ベイルの手紙にその経緯が書いてある。

 曰く、持ち出したときには封は切られており、中を見てもわからなかったそうだ。

 その盗んだ手紙を取り出して便箋を見てみるが、何も書かれていない。


「わたくし、ただの何かを書く前の封筒と便箋だと思うの。何も書いてないし、宛名も差出人もないし……あの子、そそっかしいところがあったから」


 書く前……? だが、封筒はペーパーナイフで切られたような跡がある。

 中の便箋からは、少しだけ魔力の気配がしていた。


 便箋を取り出して初級火炎魔法の『マッチ』を使い紙を炙っていくが、何も浮き上がらない。


 他の手段をいくつか試すが、どれもダメで便箋は白紙のままだった。


「やっぱり、ただの紙なんじゃ……」


 心配そうにこぼすディーには構わず、次の方法を試す。


 月光に便箋を透かしてみる。

 すると、青白い文字が浮かび上がった。


「あらあら、まあまあ……」

「月光にのみ反応する特殊な魔法塗料の一種で書かれているらしい」


 俺とディーが黙読していくと、誰に宛てた手紙なのかわかった。


 宛名は間違いなくウェルガー商会のギルドマスター。差出人は書いていない。


「誰からの手紙なのかしら……」


 だが、これが俺には誰が出した手紙なのかわかった。

 おそらく手紙は、数か月前のものなんだろう。


『アムステルの娘の誘拐とその助力』


 この件で、ウェルガー商会以外で関わっていたのは、バルバトス・ゲレーラというフェリンド王国の貴族だった。


「連絡の取り方……特に内容の暗号化と解読方法が、暗殺者のそれと同じだ」


 今思えば、アムステルの護衛兼監視をしていた者たちも暗殺者風の男たちだったし、ベイルを捕らえるために追ってきた男たちも暗殺者風の男たちだった。


「暗殺者と繋がりがある、もしくは、そちらのコミュニティに詳しい……もしくは自身が暗殺者か……」


「ここまで慎重を期しているのに、ギルドマスターはどうして手紙を処分しなかったのかしら」

「ギルドマスターは先方を完全に信用しきってないのかもしれない」

「証拠として残しているってこと?」

「ああ。証拠として機能するのかどうか俺たちにはわからないが、残している限りはそうなんだろう」


 数枚あるうちの二枚目、三枚目と目を通していく。


「ロラン様……これって……」

「ああ……」


 その内容は火種だらけだった。


『資金提供』『戦力の拡充』『フェリンド崩し』『そのための段取り』『呼応する貴族同志』


「内乱を企図する文章だな」


 ウェルガー商会は、バルバトス・ゲレーラに資金を提供している――これは、以前ディーがどこかに資金が流れていると言っていたから、まず間違いないだろう。


 要は、ウェルガー商会は、バルバトス・ゲレーラの後ろ盾でもあるわけだ。

 そのウェルガー商会は、バンデンハーク公国を牛耳るために動いている。


「裏ギルドの依頼は、ほとんどが商会絡みだった。……商会は、資金を提供する代わり裏ギルドを通じて裏社会のプロを斡旋してもらっていたとするなら……」


 ディーが息を呑んだのがわかった。


「これって……放っておけば……」



「フェリンド王国に内乱が起きる」

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