表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
外れスキル「影が薄い」を持つギルド職員が、実は伝説の暗殺者  作者: ケンノジ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

133/230

新人冒険者と束の間の日常2


「うぅ、痛かった……」


 ミリアが出してくれた救急箱にあった絆創膏を、俺はラビに貼ってやった。


「避けないからこうなる」

「あの至近距離で飛んできた破片なんて避けられないよ」


 拗ねたようにラビが唇を尖らせた。


「俺の入試は、魔力測定より実技を重視する。俺以外が担当していれば、おまえは不合格だったかもな」

「えぇぇ……私が通れないってことはかなり狭き門じゃん」

「自信があるのは構わないが、過大評価はいただけないな」


 次は実技だが、一度俺はラビと戦っている。

 実技はなくてもいいと思うが、ラビの『フォースフィールド』はすべて『ディスペル』で破壊してしまった。

 だから、あの魔法がどれくらいの持続性や耐久性があるのかさっぱりわからない。

 その確認込みの実技試験をするとしよう。


「次は実技だ。外に出るぞ」


 受付業務の他に、植物の鑑定の仕事も多かったので、冒険者試験の実技をするのは久しぶりだ。


 冒険者たちがざわついた。


「おい、アルガンさんが戦うらしいぞ?」

「アルガンさんの実技が見られるのか――」

「金払ってでも見てぇ」


 俺とラビがギルドを出ると、ぞろぞろとあとに二〇人ほどの冒険者たちがついてきた。


「……ロランって何者?」

「おまえには、ギルド職員以外の何かに見えるのか?」

「今はそうとしか見えないけど…………職員さんは誘拐事件を解決したりしないんじゃ……」


 聞こえないフリをして、城外へと向かった。




 城外の原っぱにやって来ると、離れた場所には実技を見学に来た冒険者のギャラリーがいた。


「おまえの魔法は知っている。スキルは何だ? 受付票には書いてなかったが」

「調べたことないから、わかんない」


 魔法使いは、その名の通り魔法を使うことに重きを置く。

 だからスキルには無頓着な者が多い。


「まあいい。通常の実技は、俺が能力を認めるか、力づくで認めさせるかのどちらかだ。そこに勝ち負けはない」

「うん」

「攻撃をする。だから好きなように防いでくれ」


 と、言い終えたときには、すでにラビの背後に回り終えたあとだ。


 おぉぉぉ、とギャラリーがどよめいた。


「は、速ぇ……もう真後ろに」

「見えたか、今?」

「いや、オレは、全然……」

「お嬢ちゃん、後ろ、後ろだー!」


 声に、首をかしげていたラビが、ようやくこっちを振り返る。


「ふぎゃぁぁぁぁあ!? ――い、いつの間に!」

「もうはじまっているぞ」


 絆創膏の上からデコピンをお見舞いする。


「ぎゃん!? いったぁ~い……。はじめるなら、そうだって言ってよぅ……」

「戦闘に開始の合図はないし、勝敗を決める審判もいない」


 やる気になったラビが、防御魔法を展開する。


「『フォースフィールド』」


 ガキィィン、と前回見たのと同じ防御壁がラビの周囲を覆った。


「ふむ」


 ぺちぺち、と叩きながら、ぐるっと一周して観察する。


「ま、また『ディスペル』で壊すんでしょ……?」


 不満そうな半目でこっちを見つめるラビ。


 冒険者たちには、俺が思っていた通り好評の魔法だった。


「防御の魔法か。なかなかいい魔法だな。発動まで速い」

「防御系は、地味な魔法だからなぁ。率先して覚えたがるやつがいねえ」

「ああ。覚えてるやつがいても、その場しのぎの魔法でしかなかったりするからな」


 防御特化の使い勝手は別として、専門家(スペシャリスト)というのは、必ず必要な場面が来るからな。


「どれくらいまで広げられる?」

「範囲? 限界までやってみるね。ちょっと下がってて」


 数歩下がると、もっと下がれとラビが手振りで示すので、一〇メートルほど下がってみた。


 ぐぐぐぐぐ、と半球状の防御壁が広がり、俺の目の前まで伸びた。


「ほう」

「どーぉ?」


 約半径一〇メートルの防御壁か。これはいいな。

 拡大させるだけじゃなく、縮小もできるようだった。


 次は、思いきり殴ってみた。


 音も鳴らずに、シンと静まり返った。


「……」


 自分の拳を確認してみて、おおよそ、どういう原理なのか掴んだ。

 効果は防御魔法のそれだが、厳密には防御魔法じゃないな。


 初級魔法をぶつけてみたが、結果は同じだった。


「やっぱり、ロランでも私の防御魔法は破れないんだね!」


 シシシ、とラビが笑う。


「『ディスペル』」


 バリィィン……。


「ふぎゃああああ!? 何で壊すのっ!」

「色々と試しているだけだ。破れないというわけじゃない」

「ロランってば、もしかして負けず嫌い……?」


 俺が攻撃しようと接近すると、ラビが『フォースフィールド』を展開する。

 それを壊す。防御壁が展開されては壊すことを数度繰り返した。


 なるほどな。ようやくわかった。


「おそらく、これがおまえのスキルだ」

「え?」

「魔力を消費し魔法として発現するにしては、発動までの時間が短い。そして、連発できる」


 俺の『影が薄い』も同じだ。

 魔力消費は一切関係なく発動でき、魔法よりもその時間は短く、連続で発動させることができる。

 ラビのこれは、ベクターの『絶対防御』ほどではないが、十分に当たりといえるスキルだ。


「でも、先生に教わったんだよ?」

「スキル被りは多くはないが、珍しいというほどじゃない」


 自分と同じスキルだから、教えた。それをラビが魔法だと勘違いした――というところか。


 魔法でないなら、魔力はもちろん、魔力の変換効率も無関係。

 道理で魔力数値が低いわけだ。

 スキルだとすれば、これしかできないというのは当然だし、発動時間や連発性にも納得がいく。


「そっかぁ。他の攻撃魔法を覚えたいって言ったら『いい能力だから、これを一二〇%使いこなせるようになりな』って先生に言われたんだよね」

「いい先生だ」


 はじめは、スキルの性能を一から一〇〇まで熟知しておくほうがいい。


「おまえが『フォースフィールド』と呼ぶ魔法……もといスキルは、現状維持のスキルだ。ただの壁であるなら、殴れば反動で拳を痛めたり、その衝撃音が出たりするものだが、それらが一切ない。おそらく、出現時の状態を維持する防御スキル」


 空間内は別で、防御壁だけ時間が止まっている、と言えばいいか。

 加えて、任意で拡大と縮小が可能。


 半径一〇メートルの半球状の防御壁が作れる――。

 術者の魔力消費等のリスクはほぼゼロ。


「想像以上に使いどころがあるスキルだな」

「え……い、今褒めた……?」


 うなずくと、俺は「合格だ」と言った。


「やったぁー! 実はダメなんじゃないかってドキドキしてたりして……」

「力があまりにお粗末ならあり得たぞ」

「よ、よかったぁぁ……」


 今後の手続きを口頭で説明しながら歩いていると、実技を見ていた冒険者たちが声をかけてきた。


「お嬢ちゃん、合格したのか? だったら、オレのパーティでちょっと手伝ってほしいことがあるんだが――」

「待て待て。お嬢ちゃん、こいつのパーティはやめとけ。汗くさいから。それよりも、ウチに来ないか? 見させてもらったところ、ウチならかなり活躍できるぜ」


 きょろきょろとしたラビが、最後にこっちを見た。


「言っただろう。おまえにも仕事がある」

「……本当だね。こんな私にも……」

「悪事に手を染めなくても、おまえの能力を認めてくれる人は必ずいる」


 涙目になったラビが、ぐすんと鼻を鳴らす。


「あ、ありがとう、ロラン……」

「おまえのスキルと、おまえの努力がもたらした結果だ」


 自分はそれしかできないポンコツだと、心のどこかで自覚していたんだろう。


 立ち止まったラビが、喉をしゃくらせながら泣き出した。


「ありがとう、ロラン……」と、涙声でまたお礼を口にするラビ。


 それを見守っていた冒険者たちが口々に言った。


「アルガンさんが、また女泣かしてらぁ」

「こういう泣かせ方ならアリだろ」

「違いねえ」


 袖で涙をぬぐうラビの頭を撫でて、俺はまたハンカチを貸してやった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

新作 好評連載中! ↓↓ こちらも応援いただけると嬉しいです!

https://ncode.syosetu.com/n2551ik/
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ